7.アンドリューとお出かけ
ある日お使いから伯爵邸に戻るとロビーでアンドリューと鉢合わせた。こんな早い時間に帰るなんて珍しい。
「君はなぜ表玄関を使わないのだ」
「着ている服が伯爵家には相応しくないからです」
私は使用人の使う通用口から出入りしている。質のいい服は売ってしまった。私が実家から持参したのは地味で時代遅れな服ばかりだ、誰が見ても貴族の娘とは思わないだろう。
「アンドリュー様にも初めて会った時、使用人と言われましたし」
ちょっと嫌味を言ってやろうと思ったら、自分が泣きそうだ。まずい、顔を伏せて2階に上がろうとすると腕をつかまれた。
そのまま引きずられ、馬車に押し込まれる。
「今から服を買いに行く」
「必要ありません」
「君のためではなく伯爵家の体面のためと思えばいい」
「すぐに放り出されますから」
「まだ時間はある」
馬車が停まったのは大きな洋品店の前だった。明るいウィンドウにリボンのついた帽子や、華やかなドレスが飾ってあり、ひと目で高級な店とわかる。
こんなキラキラした店に地味娘が入るなんて無理〜!
尻込みしている私をアンドリューはぐいぐい引っ張り
奥へ進んでいく。
「アンディ様じゃない、久しぶりね。もう捨てられたかと思ったわ」
「誤解を招く言い方はやめてくれ。今日はこちらのレディの服を頼みにきた」
「はじめましてお嬢様、店主のフローラと申します。ああ、なんて可愛らしい方、腕がなりますわ」
ふんわりと微笑んだフローラさんはとても美人だ。胸の開いたドレスは彼女の妖艶さを引き立てて、女性同士なのにドキドキしてしまう。愛称呼びとはアンドリュー様とはかなり親しいようだ、恋人?
「これから食事に行くから着替えさせて、後は適当に見繕ってタウンハウスに届けてくれ」
ちょっと待った〜!アンドリュー様の服の袖を掴み抗議する。
「ダメです、こんな高級なお店の服、返せるあてがありません」
「エレンは今伯爵家の人間だ、返す必要はない」
突然名前を呼ばれ固まっているうちに、フローラさんと2人の店員に囲まれて、あっという間に着替えさせられて髪を結われ、簡単な化粧までされていた。鏡に映る姿は自分でも別人かと思う。
「綺麗だ、エレン」
「満足いただけてよかったわ。またお待ちしてます」
そして厚い絨毯の敷かれたレストランで、アンドリュー様と向かいあって食事をしている。ドアマンも給仕からも丁寧な応対を受けた、今の私はこの店に相応しい客とされたようだが中身は田舎の令嬢だ。なんとも落ち着かない。
「ぼんやりしてるねエレン」
「あ、ワインで酔ったみたいです」
「そう?思ったより強そうだけど」
バレてる?田舎の領地では人が集まるとすぐ酒盛りが始まる。16で成人となってからそこそこ鍛えてある。
私は答えずにっこり微笑むことにした。
「そろそろアンディと呼んでくれるかな」
なんで?全くそんな仲ではないと思う。
「無理です」
「ふーん、残念だな」
何を考えているのか分からない微笑みが怖い。
美味しい食事とワインでアンドリューへの警戒が緩んでいたのだが、帰りの馬車で
「大事な話があるから、後で部屋にきてほしい」
と告げられまた気が重くなった。




