4.つかの間の平穏
清書が済んだ手紙の束をかかえて、王都の石畳みを歩き、郵便事務所に向かう。
レイモンドから予定の郵送代より多めの金額を預かり『余ったら好きに使ってください』と言われている。
滅多に来れない王都の街を歩くのは楽しいし、お菓子も買える。毎日のお使いが楽しみになっていた。
窓口で封書を預けお使い完了。頭の中はどこのお菓子を買うかでいっぱいだ。
事務所を出ようとすると、郵便受け取り窓口で揉めている声が聞こえ立ち止まった。
息子からの手紙を読んでほしいと懇願する中年女性を、職員が冷たくあしらい追い払おうとしている。
「恐れ入りますがスミス様」
胸の名札を見て、呼びかける。
「私はバーフォード伯爵家のものですが、そちらの長椅子をお借りしてよろしいですか?お忙しいスミス様の代わりをしたいと思いまして」
「あ、ああ、短い時間ならかまわない」
職員は男爵家の次男か三男といったところだろう、伯爵家という言葉は効果的面だ。
恐縮する女性を座らせ手紙を読み上げる。
『父さんのようすはどうですか?少しお金がたまったので送ります。ぎんこうでりょうがえして医者にみせてください。もっとはたらいて冬にはかえります。母さんもからだに気をつけてください』
手紙には小切手が同封されていた。両替の仕方が分からないという女性に付き添い銀行へいく。お礼のお金を断ったかわり、彼女の働いている店に行く約束をした、街の食堂兼居酒屋らしい。女性はベティと名乗った。
伯爵邸に戻るとメリーが待ち構えていた。
「エレンお嬢様、お土産ありますか〜」
「ロシレのマドレーヌ、ゴールデンライオンの茶葉も少し手に入れたわ」
「やったぁ、庭にお茶の支度しますね」
さほど魔力が強くはない私だが、毎日土魔法で手入れしているので庭の花もだいぶ育ってきた。アンも誘って東屋でお茶にする。
アンは男爵家の次女で持参金を貯めるため伯爵家の侍女に入ったそうだ。愛人が平民なので、愛人邸のメイドからは外されたという。
「あっちに行けと言われたら辞めてたわ、ドロシーって女は愛人のくせに使用人に威張り散らして最悪よ」
「ふーん、伯爵様は夢中らしいし、綺麗な人なの?」
「化粧が派手なだけよ、磨いたら絶対にエレン様の方が綺麗になると思う」
「うーん、化粧もナイトドレスもデビュータントの時しか経験ないの」
「私もパーティはデビュータントだけ、ドレスは姉のお下がりだったし」
私は妹のリディのことを考えた。これからデビュータントを控えている。ドレスを新調してあげたいが、あやふやな今の立場では何もできない。
これからどうなるのか自分から伯爵にきくのは、考えただけで無理だと思うしできれば二度と顔を合わせたくない。




