3.伯爵家の実情
田舎子爵の娘の私が描いていた都会の伯爵家像とは、
威厳のある伯爵様、毎日の贅沢な食事
広くて手入れの行き届いたお屋敷
たくさんの使用人とそれを仕切る有能で紳士な執事
こんなところだろうか。
実際に嫁いでみると建物は重厚で広く立派だが、色々と予想と違っていたのだった。
翌朝、伯爵家のメイドのアンに呼ばれ食堂に下りた。伯爵は愛人邸に戻り、ここには滅多に顔を出さないときいて安心する。
昨夜から何も食べていない。やっとありついた朝食はパンとミルクという簡素なものだった。
執事のレイモンドが朝の挨拶にやってきた。23歳の若さでここを任されているらしい。
彼の父のウィリアムがバーフォード家の家令で、領地のカントリーハウスに在駐し執務に当たっているという。話をきいていると伯爵は全く仕事をしてないように思えてくる。
「屋敷をご案内する時間が取れず申し訳ありません。仕事が溜まっているので執務室に戻らせていただきます」
「この時期に伯爵様は不在のままなのですか?」
納税期の忙しさは知っている。テッドベル家は執事と家族全員で対応していた。
「嫡男のアンドリュー様が王宮の勤めを辞して戻らなかったら、破綻してましたね。私の父と一緒に領地で執務にあたってます。…伯爵には内緒ですが」
最後の言葉が気になったが、触れないことにした。
伯爵邸にいた料理人や庭師、何人かのメイドも愛人邸に連れて行かれ、食事は見習いの料理人が用意してるが、買い出しで朝食までは手がまわらないらしい。
早速メリーと一緒に屋敷の掃除を始め、荒れた前庭を土魔法で回復させる。人手不足の伯爵家ではいくらでも出来る事がありそうだ。
次の朝、パンとミルクが配達されたので朝食の準備をする。チーズのオムレツ、焼きトマトとベーコン、ブラウンポテト、テッドベル家の定番メニューだ。使用人の食堂で一緒に食べた後、執務室にこもったままのレイモンドの分を用意して、お茶のポットと2階に運ぶ。
「隣りの部屋に朝食を用意しました、少し休んでください」
「すみません奥様、私がサーブすべきところを」
「できることはさせてください。あと、奥様にはなれそうにないので名前で呼んでください」
「ありがとうございます、エレン様」
執務机は書類の山となっている。私は遠慮がちに協力を申し出た。
「私が見てもかまわないものなら、手紙の清書とか手伝います。王都庁に提出する書類もテッドベル領で作成したことがあります」
「本当ですか」
レイモンドの目が輝いた。




