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21.ドロシーの過去(不幸を呼ぶ出会い)

ハンナは村の農夫の娘だった。教育はろくに受けてないが、美しく頭が良く野心があった。年頃になると住む村や近くの町の男達から、ひっきりなしに求婚されたが、ハンナは誰の申し出も受けなかった。

(農夫より少し裕福じゃだめ、もっと贅沢をさせてくれる人を見つける。あたしは綺麗なんだから)


17になると領主の家のメイドに空きがでて、ハンナが雇われた。雑役からだったが、1年で主人に出会えるハウスメイドになり懸命に媚を売った。

だが、バーフォード伯爵は妻一筋でハンナに見向きもしないばかりか、キッチンに移動させられた。

伯爵の息子アンドリューはまだ11歳で寄宿舎にいる、家令のウィリアムも固い男で、唯一ハンナに(なび)いたのは2年目の若い執事ラリーだけだった。


ラリーは男爵家の三男で爵位は継げない、一生執事のままだろう。

(あてが外れた、あたしももうすぐ19になる。早いうちに違う貴族の家に移らなきゃ)

バーフォードのような家はだめだ、女好きな主人か年頃の息子がいる家をどうやって探せばいいのか、ハンナは悩んでいた。


ある日伯爵邸に来客があった。客も貴族に違いない、門の近くで様子を伺っていると、客は馬車も出してもらえず歩いて帰るところだった。

服装も風貌も貧相な男でハンナはがっかりしたが、すごく怒っている様子が気になって話を聞いてみることにした。


「旦那さん、ご機嫌斜めなようね」

声をかけたハンナの顔を見て、男のしかめっ面が崩れた。

「ああ、遠くから来てやった親戚だというのに、この家の対応はなっちゃいない」

『親戚』と言う言葉を耳にして、ハンナは男を酒場に誘った。


男の名はジェームズと言った。祖父が男爵でそのはとこが2代前のバーフォード伯だという。なんて遠い関係かとハンナは呆れたが、その後の話は興味がわいた。


「バーフォードのところは息子1人だ、伯爵も兄弟がいないから、後見人になってやるというのに断られた」

「後見人って決めておくものなの?」

「貴族が全員死んだりすると、領地の管理が困るからな」

「そんな時は後見人が後を継ぐの?」

「いや、爵位は直系しか継げない。先に書類を作ってあれば親が死んだ時、子どもが領主となるまで繋ぎで収まることはあるらしいが」


ハンナはラリーに頼んでお屋敷にある貴族の法の本を借りた。意味の分からない単語もたくさんあったが、例えばバーフォード家の場合、伯爵夫妻が亡くなった時ジェームズが後見人になっていて、伯爵の生前に依頼された書類が在ればアンドリューが大人になるまでジェームズが伯爵位につくことは可能だとわかった。

しかも嫡子に位を戻す年齢については明記されていない。


都合良く伯爵夫妻が亡くなることは、まずない。しかし、知ってしまった可能性を忘れる事はできなかった。ラリーの存在は便利だった、必要な書類が形を成していく、そしてハンナにとって絶好の日がやって来る。


王都で重要な取り引きがあり、バーフォード伯爵が出かける予定だった。しかし妻が高熱を出してしまい、心配した伯爵は代わりに家令のウィリアムを行かせることにした。屋敷を守る兵士2人がウィリアムの護衛として同行した。


警備が手薄だったその日の深夜、ハンナに手引きされたジェームズが屋敷に火を放つ、使用人達が逃げながらも伯爵夫妻の部屋のドアをたたき声をかけたが、夫妻の応えはなかった。ハンナが飲み物に混ぜた薬で、ぐっすり眠らされていたのだ。




ジェームズの内縁の妻となったハンナはドロシーと名前を変え王都で暮らし、2度とバーフォード領に近づくことはなかった。ハンナの素性を隠す為に婚姻はしなかったが、2人は消えない罪で結びつけられていた。

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