20.救出
扉から入る煙の量が増えてくる。エレンは色の変わった指輪を握りしめて祈った。
『お願い、アンディ、助けて…』
「…エレン」
聞こえた声は幻聴ではなかった。
「アンディ!ここよ!」
「旦那様!」
「扉を壊す離れていろ」
アンドリューの魔法で出口ができる、エレンは彼の胸に飛び込んだ。
「アンディ」
「間に合ってよかった、ハンカチはあるか?アンも口に当てろ、脱出するぞ」
「他にも攫われた人がいるはずなの」
「分かった」
アンディは声をかけて次々に扉を壊す。
8人の女性が同じ階に囚われていた。
アンが風魔法で煙を避ける道をつくってくれる、何とか2階まで降りたが、階段に火が廻っていて下へは行けない。階段から遠い部屋に入る。
「仕方ない!ここから飛び降りる」
窓から下を見下ろす。古い屋敷なので2階でも結構な高さがある。死なくても大怪我するかもしれないと思うと、足が竦む。
「アンディさまー!」
外にレイモンドがいる。連れていた魔導師が地面に円を描くと魔法陣が浮かび上がる。
「この円を目掛けて、飛び降りてください!」
アンディの手助けで次々と女性が飛び降りる、地面の直前で落下が止まり、ふんわりと着地する。
残ったのは私とアンドリューだけだ。
「エレン、一緒に」「はい!」
私たちは手をつないで飛び降りた。
「建物から離れてください!」
王都警備隊も駆けつけたようだ。助かった人が家族にしがみついて泣いている。
瞬く間に、私たちが閉じ込められていた4階まで炎が伝っていく。
「エレン」
恐怖が蘇り震える体をアンディが抱きしめてくれる。
「怖かった…」
「俺のせいで…すまない」
「来てくれるって信じていたから…」
「ドロシー達は捕縛されました。この先で馬車が待ってます、帰りましょう」
レイモンドが呼びにきた。私たちは全員で馬車に乗り、伯爵邸に戻った。
もう夜中だが心配した使用人達は眠らずに待っていてくれた。ミセス・リンデには、私が気がついていればと泣かれた。実行犯のマチルダとトニーはドロシーが直接雇った使用人だった、アンディがそれを知らずそのまま雇っていたのだから、ミセス・リンデに責任はない。
用意されたお風呂で身体を洗い、2日ぶりに着替えてほっとする。部屋ではアンディが軽食とお茶を用意して待っていてくれた。
ミルクの入ったカップに紅茶が注がれる。
「ありがとう、アンディも疲れているでしょう、座ってゆっくりしてください」
並んで腰掛けると、黙って紅茶を飲んだ、温かい…
「…今夜の火事を見ていて、両親の時も放火ではないかと考えた」
「調べてみましょう、できる限り」
「もう、エレンに怖い思いをさせたくないが…」
「大丈夫、でも今夜は朝まで一緒にいてほしい…」
アンディはただ優しく抱きしめていてくれた。




