18.現れた女
屋根裏部屋の扉の鍵が開けられた。私とアンは手を取り合って部屋の奥に下がる。
入って来たのは2人の男と黒いドレスの女だった。
「あなた、ドロシーね!」アンが叫ぶ。
「なによメイドのくせに、ドロシー様とお呼び。そっちの娘、あの生意気なぼうやの妻におさまった悪女だっていうから、顔を見に来たのにただの小娘じゃない」
この女がジェームズの愛人で、私たちを拐わせた黒幕…
「まあいいわ、あんた達で数は揃ったから隣国に連れてってあげる。貴族の娘の方が高く売れるのよ。傷をつけられたくなかったら、明日の夜まで大人しくしていなさい」
ドロシーは出て行き、一緒にいた男は木の盆に載ったパンと水を置いていった。
「大変、明日までに何とかしないと」
「もう少し待って、あいつらが寝た頃あの窓を割って外に手紙を飛ばしてみるわよ」
私たち以外にも攫われた女性がいるなら、捜索している人数も多いかもしれない。なんとか、居場所を見つけてもらえたら…時間を稼げば必ずアンディが見つけてくれるはず、と自分にいいきかせた。
◇ ◇ ◇
アンドリューはレイモンドからの知らせを受けて、あり得ない速さで領地から戻っていた。
エレンに持たせた守り石は、魔導師が魔力を込めて作っている。探知を依頼すると、王都の北部、下町と呼ばれる地区にあることが分かった。ただ、厳密な場所までは特定できないという。
「守りの力が発動すれば、場所も貴方と私にわかりますが…」
「それは、妻が危険な目に合った時か…」
王都から連れ出されたら見つけるのは困難だ、アンドリューは苛立ちを隠せなかった。
アンドリューとレイモンドは警備隊に下町だと知らせると、自分たちもその地区に向かった。
聞き込みで目撃者を探すが、下町の人間の口は重かった。
「仕方ない、ほかを当たろう」
2人は灯りがついていた食堂に入る。
「もう、店はしまいだよ」
そっけない声がかけられる。
「頼む、妻が攫われて探しているんだ!話だけでも聞いてくれないか!」
アンドリューは必死に叫んだ。
「家族が大事なのは平民も貴族も同じだ、話くらいきいてやるぜ、なあ」
陽に焼けた赤毛の男が周りの男達に声をかけてくれた。
「感謝する、私はアンドリュー・バーフォード、昨日妻のエレンが屋敷から攫われた。樽に入れられてこの辺りに連れて来られたはずだ。2つの樽を載せた荷馬車を見た者はいないだろうか?」
「バーフォード?…伯爵さま?まさかエレンさんは若い女の子?」
店のカウンターの中にいた女主人が慌てて飛び出してきた。