17.誘拐犯
「…さま…エレン様」
呼び声に目を覚ましたが、頭が重い。
「エレン様しっかりして」
「アン!良かった無事だったのね」
「無事というか、攫われて閉じこめられた状況よ」
「ここはどこかしら…」
私たちは縛られてはいなかったが、屋根裏らしき部屋に閉じこめられている。屋根の部分にはめ殺しの窓があるのみで部屋は薄暗い。
「私の土魔法と成長魔法じゃ、役に立ちそうにないか。アンは何の魔法が使える?」
「基本の火魔法、風魔法、毒の鑑定は役に立つかな?」
「扉も燃やしても逃げる前に煙に巻かれるわね」
何とかアンドリューに伝えたいが、まだ領地のはずだ。レイモンドは私たちがいない事に気づいてくれているだろう。
「伯爵家が見つけてくれるはず、今はできることを探しましょう」
私とアンはまず部屋の中を調べることにした。
部屋には使われなくなったと思われる家具がいくつか置いてある。利用できる物がないか、本棚の裏を探り、壊れた机の引き出しを開ける。そこには数枚の紙が残っていた。
暖炉には消し炭がある、それで手紙は書けそうだ。
「問題はどうやって手紙を外に落とすか、ね」
私は高い位置の窓を見上げた、硝子は薄そうだ、音を立てずに破ることができたら…
◇ ◇ ◇
レイモンドは毎日定期的に屋敷を見回っている。そして馬車が残っているのに気がついた。
「なぜ馬車が、奥様はお戻りですか?」
「いいえ、屋敷にはおりません」
「マチルダとトニーは?」
「食料の買い出しに行くと、樽を2つ載せて荷馬車で出かけました」
「しまった!奥様とアンが攫われた!犯人はマチルダとトニーだ!!」
家の警備に2人残し、男の使用人達を捜索にあてる。
アンドリューへ速達魔法で知らせ、王都の警備隊にも捜索を依頼する、レイモンドの仕事は早かった。
警備隊もすぐに動いてくれた、このところ下級貴族の令嬢の失踪届けが相次ぎ、駆け落ちか誘拐か判断がつかなかったという。誘拐と分かったら一刻を争う。
王都の出入りには外門の厳重な調べがある。魔法での誤魔化しがされないよう、上位魔導師が交代で勤務している。まだ、王都の何処に囚われているはずだ。