15.遅れた求婚
次の朝には熱は完全に下がったが、外出は控えるよう言われていたので、庭の手入れをして過ごした。
午後に戻ったアンドリューは興奮していた。
「ジェームズが投獄された」
「「投獄?」」
私とレイモンドの声が揃う。
「まさか、昨日のことで?」
「いや、ジェームズは昔の家印で伯爵位を取り戻そうとしたらしい。印は盗難の届けを出してあったので、その場で捕まった。過去の伯爵位の不正乗っ取りの証拠書類も提出してきたから、まず出られないだろう」
「アンディ様おめでとうございます」
「これでやつとの戦いも終わりだ、両親の墓参りができる」
「なんだか、あっけない幕切れですね」
「そうだな、乗っ取りの時は周到にやられたのに…誰か黒幕がいたのかもしれないな」
この時、私たちはもう1人の人物のことをすっかり忘れていた。
「エレンに話したいことがある」
アンドリューがそう言うと、レイモンドが黙って部屋を出て行った。
「これでエレンが害される心配もなくなった、改めて結婚を申し込みたい」
「アンドリュー様」
「俺は人を疑うことしかできない、欠陥だらけの人間だ。だけど、エレンは違う。妻になって俺に人を信じることを教えてほしい」
アンドリューの真剣な眼差しにエレンは頷いた。
「私でよければ、正式にアンドリュー様の妻にしてください」
「エレン、ありがとう」
アンドリューはエレンの唇に触れるだけのキスをすると、耳元で「好きだよ」と囁いた。エレンは耳たぶまで真っ赤になる。
「結婚式が済むまで寝室は別々のままにするから、ゆっくり俺に慣れてくれればいい」
そして、アンドリューは箱を取り出した。中には紫の小さな石がはめ込まれた指輪が入っていた。
「綺麗…」
エレンの薬指にぴったりはまる。
「守り石が使ってあるから、いつも着けていてね」
それからレイモンドを呼び戻して、私の家に挨拶に行き、2ヶ月後の結婚式の打ち合わせをすることや、ウェディングドレスの注文について相談をした。
なんだか夢のようだ。
「新聞に結婚報告を載せるよう抗議しろ」
アンドリューがレイモンドに念を押した。