14.ジェームズ来襲
アンドリューが再び領地に出かけ(心の)平穏が戻った。
結婚式の話がうやむやになってからのアンディは積極的に近づいてくる。迎えの時玄関で抱きしめてきたり、おはようやおやすみのキスをしてきたり、耐性がないのでとても困る。勝手に婚姻届を出されて、溜まっていた不満が爆発したとはいえ、あんな事言わなければ良かった。
折角の空き時間、悩むのはやめて書斎で本を読むことにした。『貴族名鑑』がある。貴族の家には必ずある本だが、テッドベル家では高くて手が出なかった。憧れていた本に夢中になり、外の騒ぎにすぐには気づけなかった。
「奥様大変です!前の伯爵様が帰ってきました」
ノックもそこそこに従僕が飛び込んできた。
「何ですって!」
「レイモンド様が対応してますが…お願いです、すぐ行ってあげてください」
「分かったわ」
私は部屋を飛び出した。アンドリューは明日まで帰らない、よりによって不在の日に…
少し前まで主人だった男だ、レイモンドは強気に出れないだろう。だが大事な書類が残っている、中に入れるわけには行かない。覚悟を決めて玄関に出る。
レイモンドがかろうじてジェームズを押し留めている。
「なんの騒ぎですか!」
「なんだお前は、ここは俺の家だそこをどけ!」
「私はアンドリュー様に留守を任されています。この館の主人はアンドリュー・バーフォード伯爵様です、不審者を入れるわけにはいきません!」
「小娘が生意気な!」
「オリヴァー、マイロ、この男を外に連れ出して!」
新しく雇われた2人に命令する。ジェームズを知らないので遠慮なく捕まえて引きずっていく。
「何をする、覚えていろ!ただじゃおかないからな!」
ジェームズの姿が消えても震えが止まらなかった、怖かった。
「エレン様大丈夫ですか。申し訳ありません、私が不甲斐ないばかりに無理をさせて」
「気にしないで、レイ…」
目の前が暗くなり、それ以上立っていることが出来なかった。
私はそのまま熱をだして寝込んでしまったようだ。
翌日ベッドに起きれるようになると、メリーを呼んで話を聞いた。
ジェームズはその後は来ていないらしい。アンドリューは早朝に着き、元衛兵という男を連れて来て警備を任せて、また出かけているという。
私の眠る姿をみて、声をかけずに部屋を出て行ったそうだ。
私は出過ぎた真似をしたのかもしれない。早くアンドリューに会いたいのに会うのが怖い。
アンドリューは夜戻ると、真っ直ぐに私のところにやってきた。
「エレン、起き上がって大丈夫か?君に負担をかけて本当にすまなかった」
「いえ、私こそ出過ぎたかと…」
「話はきいた、そんなことはない。エレンのおかげで最悪の事態は間逃れた、感謝する。だが二度とこんなことはさせないと約束する、許してくれ」
自分が間違えていなかったのにほっとする。
「大丈夫です、無事でしたから」
「眠るまでここにいるから、安心して休んでくれ」
アンディに頭を撫でられると気持ちが落ち着いて、いつの間にか眠りに落ちていた。