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第13話 コンビニでの経験を生かして新事業への挑戦

 朝食の廃棄ロス問題。

 観る限り、結構あるみたいだ。

 仕入れの段階でそれを減らすことはできないらしく、削減できる可能性について述べると、ミサさんは眼を丸くする。


「それって、その『ベントウ』ってやつでどうにかするってこと?」

「そうです。弁当っていうのは、持ち運びして、外で手軽に食べられる物のことです。つまり、冒険者がわざわざ外で食事を作る手間を減らせるってことです。需要は絶対にあります」


 冒険者がダンジョンに冒険して、その道程で空腹になったら必ず食事を取らなければならない。

 そこで食事を作るのは命懸けだ。

 弱い冒険者や、凶悪なモンスターが跋扈するダンジョンでご飯を作ることは隙を作ることになる。


 どんな強者だろうと、ご飯を作る時、食べる時は気が緩むはずだ。

 料理を作る隙と手間を無くす弁当があれば、冒険者の需要が高まるだろう。


「サンドイッチとか軽い物だったらすぐに作れるけど、もっと手間のかかる料理だったら朝起きてすぐには作れないから、冒険者には需要があるかもしれないねえ」

「そもそも料理が作れない人だっているんじゃないですか?」

「確かに、そういう人もいるね」


 日本だとコンビニやスーパーの総菜、それに配達などが発達しているから、料理を作れなくても生きていける。

 一人暮らしで料理が出来ない人が、知識ほぼなしで料理を作ると、総菜などよりも材料費がかかる。

 だから料理しない人が増えているらしいけど、異世界だって料理経験がない冒険者はいるはずだ。


「弁当って言うのは種類が結構あるんですけど、俺が提案したいのは多種多様なおかずが少量ずつ入っている弁当なんですよ」

「?」


 言葉だけじゃ伝わりづらいみたいなので、行動で示す。


「こういう風な感じの弁当です」


 皿に盛りつけていく。

 料理の仕切りの役割を果たすバランの代わりに、野菜を立てて、即席の弁当を作り出す。


「これで残り物の寄せ集めという印象から、たくさんの料理が一度に食べられる豪華な食べ物っていう印象に変えることができると思うんです」


 幕の内弁当みたいなものを目指したい。

 勿論、かつ丼弁当みたいなものも出したいけど、あくまで残り物だけで作るなら、そこまで数を出せないだろう。

 メインはあくまで寄せ集め弁当を推していきたい。


「余った魚や野菜の切れ端なんかは流石に見た目が悪くなんじゃないかい?」

「魚は揚げ物に、野菜の切れ端はおひたしにしたらどうですかね?」


 野菜だってものによっては、てんぷらにして揚げればいい。

 弁当となったら、基本的に揚げ物メインな気がする。


「お弁当を食べる時って、作り立てとは違って冷えてるんですよね。冷えていても美味しい料理って揚げ物になってくると思うんですよ。それに、時間が経過した野菜ってしんなりすると思うんですけど、さらにしんなりさせて、さらに味を足すことで味の劣化をしづらくすればいいんじゃないですかね?」


 俺が弁当について熱弁すると、ミサさんが腕組みして熟考する。

 弁当が今までにないものだから、慎重になっているのだろう。

 それに、余所者であり、そこまで親しくもない人間からの提案にどうしたものかと思っているに違いない。


「……ちょっとやってみようか。やったことがないから手伝って欲しいんだけど」

「分かりました。調味料の場所とかが分からないので、その時は教えてください。料理だったら、一人暮らししていてそれなりにできると思います」


 母子家庭だった時もあるので、その時から料理はやっていた。

 料理を作れても特に生かす時がないと思っていたけど、こうして料理ができるのでやっていて良かった。


 唐揚げをしらなかったので、ついでに作ることにした。

 漬ける時間は短縮せざるを得ないながらも作りたかったのは、美味しいからと、弁当の定番だったからだ。

 作って食べると、ミサさんが一言呟く。


「……美味しい」

「美味しいですよね!」


 作りたてというのもあるが、弁当は美味しかった。


 だが、俺以上にミサさんが感動しているのは、食べたことがない味だったからだろう。

 料理を和えたり、味噌を加えて焼く工程など、ミサさんが知らない料理法でいっぱい作った。


「この辺じゃ、あまり見ないような調理法だけど、もしかして、料理関係の仕事についてたの?」

「えっ、と、そうですね。調理の仕事もしてました。どちらかと言うと、食品などの商品を売買する仕事に就いてましたけど」


 コンビニで冷凍の物をフライヤーで揚げていただけど、嘘はついていないはずだ。


 こうして褒められるのも、人生で数えるぐらいなものだ。

 結構嬉しいもんだな。

 と、


 ガンガン、と壁を叩く音で、思考は中断された。


 振り返ると、男の人が三人ほどいた。

 格好は鎧を着ていて物々しい。

 壁を叩いたのは、ノックの代わりだったようだったが、どこか威圧的だった。


「ミサ、ちょっといいか?」

「知り合いですか? 業者の方とか?」

「……まあ、そんなものさね」


 野菜の御婆さんと同じように、何かしらの業者かと思ったが、何やら違う雰囲気があった。

 商売をやっている人間じゃなく、どこか血なまぐさい臭いがした。

 ここに宿泊する冒険者に雰囲気が近いかも知れないが、もっと仄暗い。


「……ちょっと待ってくれるかい。ここじゃなんだから外で話そうじゃないか」

「早くしろよ」


 命令口調でミサさんに言ってくるし、それをミサさん自身は何とも思っていない。

 関係性がいまいち分からない。


「悪いけど、ここにいてくれるかい。弁当の試作はちょっと待っておいてくれ。すぐ終わるから」

「……はい」


 ミサさんは男達について行って外へと行く。

 俺は手持無沙汰になって、材料や料理器具が出しっぱなしになってしまった台所を見る。


「とりあえず、片付けしておくか」



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