あの頃、確かに輝いた
その日は特に疲れていた。
細かいミスを連発し、上司は叱りながらも的確にフォローしてくれた。
同僚にも迷惑をかけたが、困った時はお互い様、と笑ってくれた。
みんなの優しさが余計辛かった。
いっそ怒鳴られでもしたほうが気が楽だった。
みんな仕事も出来て、性格も良い。
私は無能なくせにプライドが高く捻くれている。
惨めだ。
みんなが素晴らしい人間であるほど、自分の程度の低さを思い知る。
とんっ
音が、した。
顔を上げ、音の方に目をやる。
そこにはフェンスがあり、
その向こうに、真剣な眼差しで弓をいる若者たちがいた。
そうか、この道は高校の裏だった。
いつも気にしていなかった。考え事をして歩いていた。
思わず、足を止めた。
キラキラしている。
真剣に弓を射る姿はとても美しく見えた。
涙が、出た。
きらきら。キラキラ。
もっとよく見たい。
もう見たくない。
フェンスに指をかける。
とんっ
また音がし、反射的にフェンスから指を離す。
このフェンスは結界だ。
私みたいに後ろめたい気持ちがある人間はあの中に入れない。
結界に触れることも。
だけど。キラキラ輝く存在から目が離せない。
涙が止まらない。
ねえ、私にもあったんだよ。
何かに夢中になって真剣になったり、泣いたり、笑ったりした日が。
こんな惨めな気持ちなんて知らずに、何にでもなれるって信じてた日が。
あったんだよ。
確かに、あったの。
こんなに自分が無能だなんて知らなかった。
あんなにも輝いた日々があったのに。
その時、キラキラの学生と 目が、合った。
「!」
私は走ってその場を逃げていた。
泣きながら逃げた。
早くここを去らなければ。
キラキラに殺される。
惨めで無能な私には、真っ直ぐな視線は痛かった。
私のキラキラは失われた。
でも。それでも。
青春の日々が、美しく輝いた日々が。
あったんだよ。確かに、あったの。