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空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割
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第九十六話 圧倒 蹂躙 理不尽 脅威




 正午を過ぎた。星華島からの避難船は確認されなかった。

 静かな、始まりだった。


 神薙マリアの号令の下、国連軍が進撃を開始する。

 小さな星華島を包囲するには過剰と言って良いほどの戦力。

 二重、三重に包囲を重ねるように展開している戦艦。


 世界中から集められた、世界中を一つとしてまとめ上げられた国連軍。




 国連軍に在籍する、暁彰人中尉は後に語る。


 自分たちは今まで、平和ボケをしていただけだと。

 こんな理不尽を、彼らは味わっていたんだと。

 この事実は世界が知るべきであった。

 世界がこの責務を背負うべきだった。


 抱いたのは、後悔と。――――恐怖。


『星華島への攻撃指示を受理。各機、星華島への上陸及び牽制射撃を開始せよ』


 無線から命令が下り、空母から戦闘機が発進していく。

 彰人中尉は気乗りしないままエンジンを点火し、愛機と共に空を駆ける。


「作戦が大がかり過ぎるんだよなぁ。相手は子供だって言うのに、魔法技術が少し進んでるからといって、こんな戦力……」


 相手は自分の子供と同じくらいの少年少女だと聞かされている。

 彼らは"魔女"に唆され、星華島が持つ重要な資産を独占する片棒を担がされていると。

 これは少年少女たちを救い、取り戻す為の戦いだと。


 それにしては、戦力が過剰すぎる。

 軍人として生きている以上、上官からの命令は絶対である。愛する家族を守る為に武器を手に取る彰人もまた、考えはするが上司の判断には極力反対はしない。


 だが、あまりにも不可解だ。不可解すぎて、ミサイルの発射ボタンを押す気すら無くなるほどの。


『ファング00(ダブルオー)、少し遅れてるぞ』

「悪い。すぐに追いつく」


 同じ小隊の仲間たちと編隊を合わせながら星華島を目指す。小さな島はすぐに見えてくる。


 攻め込むにしては、あまりにも小さい島だ。

 対空兵器も何も用意されていない、あまりにも無防備な島だ。

 これから攻め落とす島を見て、改めて違和感が大きくなる。


「……空。お父さんはどうすればいいかな?」


 愛娘の名前を呟いて、それでも彼は命令を遂行しようとボタンに手を添える。


 その時彼の思考を妨げたのは、無線から聞こえてきた仲間たちの困惑の声だった。


『なんだ、あれは――っ!?』

『子供が、空に――――ま――――』

「ファング01、02どうした!!!」


 悲鳴と共に僚機のシグナルが消失した。慌てて顔を逸らすと、エンジンから炎を吐いて落下していく戦闘機が見えた。


『こちらファング04、子供だ。子供が空にいる。だが、だが、あれは』

『こちらでも確認した! そいつは――――』


 無線から聞こえてくる声が遠く感じる。

 01、02、そして今04の機体が落下していく。脱出システムが起動し、展開したパラシュートが三つ見える。


 仲間たちは誰も死んでいない。一瞬だけど安堵のため息。

 そして、無線から聞こえてきた声に愕然とする。


『星華島の特記戦力の一人、アライバル・ソウだッ! そいつを子供と思うな、一斉攻撃で撃墜しろ! いいな、もう三機落とされているんだぞ!!!』


 無線越しに仲間たちの緊張が伝わってくる。


 星華島は、異世界からの《侵略者》と戦いを繰り広げていたことは、軍人だからこそ理解していた。

 けれどその《侵略者》がどんな姿で、どんな脅威であるかまでは共有されていなかった。

 所詮、子供たちで相手出来る存在だからたかがしれているとすら思っていた。


「05!!!!」


 仲間が一人、また撃墜された。脱出システムは機能していた。


「なんだお前は、お前が、お前みたいな奴が――」


 見た目は純白の機械騎士。

 身の丈は娘と同じくらいの世代の子供にしか見えない。


 けれど、その目に込められた覚悟が違う。

 もしも、もしも愛娘がそんな目をしていたら。そう思うと、酷く悲しくなる。


「ああ、そうか」


 精一杯の命令を遵守する為に、ミサイルの発射ボタンを押す。

 空に立つ純白の機械騎士アライバル・ソウは迫るミサイルを一瞥して避ける動作をしようともしない。


 ミサイルが着弾する。彰人中尉が乗る戦闘機はそのままアライバル・ソウを抜いて星華島の上空を目指す。


 だがしかし、そこで機体が停止した。何が起こったかを確認しようとコクピット内で振り返る。


「……」


 その異質過ぎる光景を見て、彰人中尉は唾を飲み込んだ。

 これが、彼にとって当たり前の光景であるのなら。

 それはきっと、こんな状況になるまで彼を追い込んだ大人たちに責任がある。


 もしも、もしも、もしも。

 愛娘がこんな状況を背負わされたら。


「……これが、星華島か。これが、子供でいられる時間を奪われた、子供たちか」


 彰人中尉の機体は、空中で停止ししている。

 エンジンは動いているし、動力は空を駆ける為に全力で吹いている。

 けれど、動かない。


 なぜなら、アライバル・ソウから伸びた手が戦闘機を掴んでいたから。

 推力で振り切るどころか逃げることも出来ない相手。


 ミシミシと悲鳴を上げている機体の中で、脱出システムを起動させる。

 彰人中尉は無線の電源を落とした。

 これから呟く言葉を、誰にも聞かれない為に。


「申し訳ない。俺たち大人が君たちをここまで追い込んでしまったのか。星華島は、ここまでの戦力が無ければ生き延びることが出来なかったんだな」


 アライバル・ソウに声が届くわけではない。

 機体を放棄して脱出する。

 落下を始める中でパラシュートが展開し、落下の勢いを殺して減速していく。


 その中でずっと、彰人中尉は空から見下ろしてくるアライバル・ソウを見つめていた。


「大きな声で言えないが……そうだな。頑張れ、少年」


 ファング小隊の全滅を皮切りに、次々に戦闘機乗りたちからの悲鳴と脱出報告が国連軍に寄せられていく。


 その大半は、ひとえに純白の機械騎士への恐怖の言葉だ。


 一言。あまりにも単純で、簡素に伝えられる。


 "星華島の空を守る『化け物』がいる"




   +




 アライバル・ソウは可能な限り手加減をし、可能な限り容赦をしない。


 手加減とは、人を殺さないようする為の工夫だ。

 容赦をしないのは、攻め込んでくる気力を削ぐ為だ。


 航空戦力からの攻撃を懸念したアライバル・ソウ/奏は、真っ先に名乗りを上げた。


 空での戦いと、大量の兵器を相手にするのであれば自分以上の適任はいない。

 事実、アライバルを用いた戦闘は顕著である。


 ナノ・セリューヌは限りなく無尽蔵の溢れるナノマシンを駆使し、兵器ですら即座に造り上げることが出来る。

 更にアライバル・ソウは人間の枠を越えている存在だ。肉体は枷でしかなく、ナノ・セリューヌによって身体中から武器という武器を生やすことすら出来る。


 背中から展開する、百を超える鋼鉄の腕(ヘカトンケイル)

 それら全てに砲身やミサイルを装填し、奏は単騎で星華島の空を防衛する。


 一対多の戦いをするのであれば、ナノ・セリューヌを駆使するアライバル・ソウ以上の存在はいない。


 迫る戦闘機を撃墜していく。奏の目からすれば戦闘機の最高速度すらも遅いほどだ。


「二百っ!!!」


 事細かく撃墜していく数を数え、自らを奮い立たせる為に言葉に乗せる。

 墜ちていく戦闘機にはもちろん人間が乗っている。


 だからこそ殺せない為に手加減をする。


「っ……鬱陶しい!」


 左右から合わせて十の戦闘機による挟撃が行われる。察した奏はすぐにヘカトンケイルの腕を二本左右へ伸ばす。

 伸びた腕に砲身が形成されていく。

 ナノ・セリューヌによって即座にミサイルが造られ、戦闘機のエンジン目掛けて照準が固定される。


「墜ちろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 十の戦闘機を墜とすには過剰すぎるミサイルが放たれる。追尾性能を持つミサイルは、『外』の技術ではまだ確立されていない。


 爆炎を轟音を響かせながら、アライバル・ソウは空を守る。


 たとえ自らが化け物と揶揄されようが、するべきことは決めている。

 この戦いが前哨戦でしかないことは理解している。


 国連軍、そしてシャンハイズを退けた時こそが、本当の戦いだ。


 【物語の管理者】と、彼女の手駒たる【三神帝】


「――――俺は、負けない。今度こそ管理者に勝つ為に。未来を守る為に、俺たちの物語を守る為にも、俺は!」


 純白の機械騎士によって、国連軍は空から攻め込む手段を失った。

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