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空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割
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第九十五話 一日目 星華島包囲戦線、展開




 夜が明けた。

 【物語の管理者】が定めた一週間の始まりの日。


 まだ届く距離ではないが、既に観測出来る距離まで世界中の軍隊――国連軍が星華島を囲むように展開しつつある。


 このままでは完全に星華島は包囲され、船一隻も脱出出来なくなるだろう。


「星華島で暮らす、我らが同志に伝えておくわ」


 クルセイダース本部から星華島中に向けて、ユリアが演説をする。

 いや、それは演説というほどのかたくるしいモノではない。

 周囲を包囲されていく緊迫した状況で、ユリアはありのままの現状を島民に伝える。


「みんなにも昨日の会談のデータを送ったので状況はわかっていると思うけれど、今、星華島は世界中から狙われるようになったわ。今まで私たちを外で守ってくれていた、神薙財閥が乗っ取られたことによって。敵の狙いは、星華島の制圧と私の親友・桜花の命よ」


 ユリアの演説を島で暮らす少年少女たちは静かに聴いている。

 クルセイダースは武装を済ませ、非戦闘員はシェルターに避難している。


「私たちと同じ、『人間』との戦いになるわ。みんなにその覚悟を決めて貰う前にこんな事態にしてしまって、本当にごめんなさい。世界の目的が星華島の制圧であるならば、戦えない人たちは降伏したほうがいいわ」


 ユリアの言葉に少なからず動揺が広がっていく。それもそうだ。

 クルセイダースだけではない。星華島で暮らしている少年少女たちは、誰もがみんなユリアと桜花、そして黒兎のおかげで今日まで生きてこられてきたことを理解している。


 ユリアが命を賭けてと言えば、わかったと笑顔で答えるくらいには根強い絆で結ばれている。


 けれどもユリアは、命を賭けてとは言えない。

 この戦いが、星華島を守る為の戦いではないとわかっているから。


「……これはハッキリ言えば、私が貴方たちを使って行う復讐の戦いよ。お祖母様を殺され、奪われた神薙財閥を取り戻す戦いでもある。そして、私の大切な親友である桜花を絶対に奪わせない、私的な戦いでもあるわ。だから、もう一度言うわ。戦えない人も、戦いたくない人も、僅かでも思うところがある人は、すぐに星華島から逃げて。私の我が儘に、みんなを巻き込みたくないの」


 ユリアの言葉に星華島が静まりかえる。ユリアは今まで自分のことを全て投げ打ってでも星華島を守ることに尽力してきた。


 そんなユリアが、私的な理由で星華島を争いに巻き込むと言っているのだ。


 黒兎や春秋たちリベリオンは、【物語の管理者】と戦う理由がある。

 だからこそユリアが真っ先に信頼し、戦闘はリベリオンに任せている。


 クルセイダースの戦力は国連軍や後に来るであろうシャンハイズに対して、必要ではある。

 桜式統合兵装スペリオルの生産が間に合った以上、既に並の隊員であってもよほどのことが無ければ敗走するはずがないほどの戦力となっている。


「今、包囲を狭めつつある国連軍に向けて避難民の保護は申請しているわ。それについては向こうも承諾し、お昼まではお互いに攻撃をしないと取り付けたわ。……だから、お願い。この島から、逃げて。この島を私的に利用することを、許して。私はこの島を失いたくない。桜花を失いたくない。だからこそ私は戦うことを選ぶ」


 ユリアが演説を終える。国連軍との約束まであと四時間を切っている。

 避難を始めるならもう始めなければならない。

 島を出航することさえ出来れば、最悪リベリオンの誰かを護衛に付けてでも避難船を守らせることまで考えている。


 今の現況でリベリオンの戦力を一人でも削ることは悪手でしかない。

 けれどそれがユリアに出来る精一杯の誠意だ。


 今日という日まで星華島を守ってくれた仲間たちを、その命を無碍にしない為に。


『ユリアさん。あなたは馬鹿ですか?』

「シオン……?」


 真っ先に通信を繋げてきたのは、クルセイダースのトップとして活動していたシオンだった。

 スペリオルを装備しているシオンの瞳は海へ向けられている。ユリアに視線を向ける気配が微塵もない。


 晴れやかな表情で、シオンは想いを言葉にする。


『星華島は今日まで、ユリアさんや桜花さんのおかげで生き延びることが出来ました。兄さんやししょーの活躍もありましたが、それでも島を守る不屈の思いは、ユリアさんと桜花さんから受け継いだモノです。

 クルセイダースの総意は決まっています。

 ボクたちだって、島を守りたい。

 ユリアさんを守りたい。

 桜花さんを守りたい。

 それに――――いまさら保護とか言い出した外の大人をボクたちは信用できない!

 ボクたちは、四年前のあの日から大人にならざるを得なかったんです。

 外の大人たちの理不尽な選択に苦しめられてきたんです。

 だからこそ、ボクたちは、大人に反抗します。

 子供の反抗期だと言うのならそれで構いません。

 ええ、そうです。ボクたちはまだ子供なんですから!

 大人たちに、反抗します。

 ボクたちも、反抗期(リベリオン)です!!!!』


 シオンの言葉を皮切りに、次々に島中から賛同の声が上がる。

 誰も彼もが同じ思いで立ち上がる。今日という日まで生き延びてきたからこそ、こんなタイミングで侵略に来る外の大人を信用できるわけがない。


 自分たちの責任は、自分たちで取る為に。


『戦うことの出来ない私たちですが、思いは同じです!』

『こちら開発部、俺たちのカムイでみんなを守ってください!』

『やっちゃいましょう! 桜花さんを守る為にも!』


「……みんな」


 ユリアは思わず涙ぐみ、咄嗟に顔を隠して涙を拭う。

 振り切った清々しい表情で、共に本部にいる桜花に笑顔を向ける。


「わかったわ。みんなの命を、私に賭けて。でも、これだけは覚えていて。……絶対に、死なないで。命を諦めないで」


 星華島はより固く結束する。世界の全てを敵に回してでも、大切な仲間を守る為に。




   +




「いやーーーーーいい演説だねぇ。惚れ惚れしちゃうなぁ」


 星華島を包囲する戦艦の中に一隻、絢爛豪華な艦船が存在する。

 それは星華島を守る為に神薙マリアが開発をしていた、戦艦型超大型カムイ。


 『カンナギ』と名付けられた、神薙財閥を象徴する戦艦だ。

 【物語の管理者】はユリアの演説をずっと聴いていた。島から通信が流されているわけではない。


 【物語の管理者】に不可能はない。自身で出来ないことを設定することも可能だが、こと嫌がらせについて彼女は労力を惜しまない。


 今もこうして、神薙マリアの姿をしたまま傍らに寄り添う夢幻神帝ファントメアに嗤いかけている。


 カンナギにはシャンハイズが待機しているが、彼らは最早【物語の管理者】の傀儡と言っても過言ではない。

 彼らは神薙マリアが殺されたことすら知らない。鎮座する神薙マリアが偽者であることを知らない。


 唯一、ファントメアの存在に首を傾げてはいるが……それも神薙マリアの采配だと告げてしまえば、それで終わりだ。


「主殿、国連軍全体はすでに我が術中です。主殿の命令一つで命を投げ打って星華島を攻撃出来ます」

「そういうのはシャンハイズに聞こえないように言うべきだよ?」

「失礼しました。ですが彼らは私たちとは言葉通り『次』元が違います。彼らは私を知覚していますが、ステージが違いすぎるので細かく意識することは出来ません」

「そうだけどねぇ。野暮だねぇ」


 ケタケタと愉しそうに嗤う。今か今かと開戦を待ち侘びている。

 金の髪を翻し、【物語の管理者】が立ち上がる。


「――――シャンハイズ並びに国連軍に指示を。今日という日に私に賛同してくれてありがとう。これは星華島を魔女から救う解放の戦いであり、子供たちを取り戻す聖戦である! みんな、私の孫を、娘夫婦が守ると決めた島を取り戻すことに尽力して欲しい!」


 神薙マリアの姿で。

 神薙マリアの声で。

 神薙マリアの言葉を放つ。


 シャンハイズが(とき)の声を上げる。

 国連軍が叫び声を重ねていく。


 星華島が一つになっていくように、国連軍もまた一つとなっていく。

 嫌が応にも盛り上がっていく中で、『神薙マリア』の背中を見つめる影が一つ。


「……なーんかおかしいよなぁ。ババアがお嬢を見限るわけがねえし。インの裏切りもおかしいし……あぁ、俺にもうちょっと学があればなぁ」


 シャンハイズ最強の一角、フー。

 彼だけは、この熱狂に取り込まれずにいた。

 彼だけは、ずっと違和感を抱いていた。


 インが裏切るわけがない。

 神薙マリアが島へ攻め込むわけがない。

 そして、それ以上に。


「俺のお嬢が、神薙ユリアが魔女に誑かされる? それが一番あり得ねぇ。お嬢は光だ。曇すら吹き飛ばす日輪だ。魔女だろうと悪鬼だろうと全てがお嬢に屈するほどだ。……ティエンは馬鹿みたいにババアを盲信してるからしゃーないが……」


 フーは腰に携えた自身のカムイを握りしめる。

 真実を知る方法を、フーは持っていない。

 いや、【物語の管理者】がいる以上、真実はねじ曲げられ偽りの真実こそが現実となる。


 何もかもを理解してない状況で、彼だけは断言する。


「四ノ月桜花が魔女かなんてどうでもいい。俺はいつ、何処でもシャンハイズだ。そしてシャンハイズは『神薙』を守る為にある。――――俺にとっての神薙は、ババアだけじゃねえ」


 彼だけは、真実を求めてカムイを執る。

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