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空想のリベリオン  作者: Abel
第一章 英雄 旅の果てに
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第九話 【予言】の少女




 春秋は桜花に連れてこられる形で星華島の商店街を歩いていた。

 活気に賑わっている商店街を眺めていると、先ほどまで《侵略者》に襲われていた島とは思えないほどだ。


「おう四ノ月さん、今日は本土から良い肉が届いてるよ!」

「ありがとうございます。でもお昼はパスタにしようかなって思ってますので」

「あいや残念。またのお越しをー!」


 どの店を見ても店主は少年少女がやっている。違和感はあるが、世界毎に基準は違うものだと結論付ける。


「この世界は成人を迎える前に店に出るのか。そういう世界もあるにはあったが、珍しいな」

「そう、ですよね。そう見えちゃいますよね」


 桜花の言葉はそれだけで春秋の認識を改めさせる。

 この世界は別に、特別な世界ではない。少年少女たちが店主をやっていることは、桜花からして『異常』なのだと。

 だからといって春秋は事情を聴こうとはしない。知る必要はないと判断しているし、――少なからず、桜花がそれを話したがらないのを感じたからだ。


「みんな、今を生きるために必死なんです。今を生きて、未来(あした)を目指して。……過去を振り返ってたら、前を向けないから」


 悲しげな感情が見え隠れしている。春秋はそこを突くことはしない。

 人それぞれが事情を抱えているのは当然だ。春秋もまた自分の願いを、目的を告げていないのだから"おあいこ"だ。


「桜花さーんっ、今日は珍しい魚が入ってるよ!」

「いやいや、今日のパンは最高傑作だよ!?」

「本土から取り寄せた極上のお米、味わってもらえるかな?」


 行く先々で桜花は声をかけられ足を止める。その度に丁寧に断りを入れ頭を下げている。

 断られた店主たちは苦笑いを浮かべながらフォローの言葉を返していく。

 酷く気味の悪さを感じるやり取りで、堪らず春秋は「不器用だな」と毒づいた。

 それが四ノ月桜花という少女の在り方であろうとも、今の桜花は生きていて窮屈そうに見えたからだ。


「そうですか?」

「そうだよ。相手を敬うのはいいことだ。謙遜するのも謙虚でいるのも良いことかもしれん。だが卑屈さを見せるのは間違っている。お前が頭を下げる度に、お前を慕っている者たちが顔色を悪くしているのに気付いてないのか?」

「それは…………」


 表情を曇らせた桜花を見て、そんな表情も出来るんだな、と返す。

 春秋の行動の一手先を常に見抜いていた桜花に、はじめて人間らしさを感じた。


「お前はこの島を守る側の人間なんだろう? だったらもう少し明るく努めろ。お前が頭を下げる度に、守られている側の島民は重いモノを背負っていくんだ。"ああ、自分たちが無力なばっかりにこの人に気を遣わせてしまっている"と」

「……っ」

「漸く人間らしい感情を見せたじゃないか。それでいいんだよ」


 桜花は足を止めてしまう。まるでそれが、島の未来を暗示してしまっているようで。不安な感情に押しつぶされそうになって、春秋に振り向いた。

 そんなことは知らないとばかりに春秋は桜花の隣を通り越す。寂しげな空気が二人の間を通り抜ける、その時に。

 春秋はそっと、桜花の前髪を優しく掻き上げた。春秋の表情は見えなくても、確かな気遣いを感じられた。


「これから先は俺が帝どもを屠ってやる。だからお前は顔をあげろ。前を向け。島を守る者として、民の心を守るのはお前の責務だろう」


 その言葉に桜花は顔をあげ、すぐに先を歩き始めた春秋を追いかける。

 隣に並んで、彼の裾を小さく掴む。小動物を思わせる仕草は、春秋に縋っているようにも見えた。


「この島を、お願いします」

「契約だからな。お前たちの為じゃない。俺の願いの為に、俺は帝を討つ。それだけだ」


 その言葉が頼もしい。春秋の戦いを見たからこそ、その言葉に裏がないことを信じられる。

 この人なら、この島を守ってくれる。

 胸に抱いた確かな想いが表情に出た。桜花の微笑みを見て、春秋もまた不敵な笑みを浮かべるのであった。


「さあ春秋さん、お昼ご飯を買って帰りましょう。腕によりをかけて作りますから!」

「はいはい、任せた任せた」


 袖を捲ってアピールする桜花をあしらいながら、二人して部屋への帰路を歩んでいく。

 購入したのは乾燥パスタ、トマト、ベーコン、タマネギピーマン、そして粉チーズ。

 材料からして昼食はナポリタンだ。もっとも、異世界から来たばかりの春秋が知らない料理ではあるが。


「春秋さんって嫌いなものありますか?」

「腹に入ればなんでもいい」

「春秋さんの好物を作ってみせます……!」


 「なんの意地を見せてるんだ……」と思わず口走りかけたが、やる気に満ち溢れてる桜花を見て噤む。

 買い物袋を奪うように手に取ると、桜花を置いて歩調を速めた。

 後ろで桜花がくすりと微笑んだ気がするが、気にしないことにする。気にしたら負けだと直感的に理解したからだ。


「お前といると調子が狂いそうだ」

「そうですか? 私は春秋さんと一緒にいると嬉しいですけど」

「お前のことがよくわからないからだよ」


 正直に言って、春秋からすれば桜花の行動は理解しがたいものばかりだ。

 いくら【予言】によって自分が一番協力して貰える可能性が高かったとしても、ここまで尽くそうとするものなのか。

 島を守る契約をしたからといって、無条件に信用するものなのか。


 長い旅を続けてきたからこそ、たくさんの裏切りも経験してきた。負の思いは春秋の記憶にこびりついている。

 裏切られるくらいなら、最初から繋がらなければいい。


 それが旅を続ける上での春秋の信条だ。

 例外はあれど、願いを叶える目的において必要以上の干渉もいらない。


 だからこそ、だ。

 四ノ月桜花という少女のことが、春秋は理解出来ない。

 桜花の行動の全てが春秋の利得に繋がるものばかりで、逆に身構えてしまうほどに。


 信用は出来ない。いや、違う。

 信用したくないのだ。


「……そうだ、四ノ月」

「はい、なんでしょうか」

「次の帝が来るのはいつだ?」


 当たり前のこと過ぎて聴くのを忘れてしまっていた。【予言】によって、次の《侵略者》――異界の帝王が迫るのはいつなのか。

 その問いかけに桜花は少しばかり神妙な顔つきになる。


「正確な日取りは、まだわかりません。【予言】は日付までは教えてくれませんので」

「お前は炎帝が来る日をわかっていたじゃないか」

「春秋さんが来た翌日、というのが分かっていたからです」

「なるほど。連続する出来事はわかる、ということか」

「そうです。様々な【予言】に散りばめられた情報をつなぎ合わせて、一つの解に繋げる。それが私の【予言】です」

「思ったよりは不便なんだな」

「でも、この島を守ることは出来ます」


 並んで歩く桜花の表情は清々しい。自分の力に自信を、誇りを持っているものだ。

 春秋は事情を理解して、それを踏まえてもう一度桜花に問いかける。


「じゃあざっくりで良い。なんでもいいからヒントを寄越せ」

「…………カムイを持った人たちが、倒れている光景です」


 間が開いたのは、見えた光景だとしても思い出したくないからか。

 流石の桜花も顔色が悪い。「でも」と桜花は顔をあげる。


「春秋さんが《侵略者》に勝つ未来も、わかっています」

「そうか。その【予言】がなくても勝つけどな」

「そうですね。私は春秋さんを信じてますので」

「さっさと飯を食いに行くぞ」

「はいっ」


 底抜けに明るく桜花は笑う。桜花の笑顔に釣られるように、春秋も不敵な笑みをまた一度見せた。

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