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空想のリベリオン  作者: Abel
第一章 英雄 旅の果てに
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第八話 異界の帝王




「……で、どうしてお前がここにいるんだ」

「カムイが完成したって連絡を受けてすっ飛んできた!」


 クルセイダースの本部の一つ下のフロア。そこは会議室となっており、ユリアはその一室に春秋と桜花を招いた。

 室内には大きな長机が一つ鎮座しており、左右に六個ずつ椅子が用意されている。

 ユリアに促されて春秋と桜花が並ぶように椅子に座ると、扉を壊す勢いで仁が飛び込んできた。


「それでユリア嬢、俺のカムイは!」


 期待に満ちた表情で仁がユリアに顔を向けると、冷ややかな表情で返される。


「まだ生産体制を整え始めたばかりよ。完成次第もう一回連絡するわ」

「まだなのかぁぁああああああ……」


 力なくうなだれた。よっぽど期待していたのか落胆具合がもの凄い。

 当たり前だろ、と思わず春秋が毒づいたほどだったが。

 よろよろと縋るように入り口に一番近い椅子に座ると、盛大なため息を吐いた。


「喜んでいるようだが、お前程度の実力じゃカムイを手に入れたところで帝には敵わない」

「ちっくしょうお前はいつだって残酷な現実を突きつけてくるな!?」

「勇ましいのは結構だが調子に乗って息巻いて俺の邪魔をしないためだ」


 春秋は相変わらず鋭い言葉を仁に投げる。それで仁がどんな思いをしようと気にしないとばかりに。

 と、仁の視線が春秋の背中に向けられる。正確には春秋の後ろの壁に立てかけられているカムイ――レギンレイヴに、だ。


「春秋はもうカムイを貰ったのか!?」

「そもそも俺が協力したから完成した」

「そうなのか。お前ってすげーんだな!!! ありがとう、これで俺も戦える!!!」

「……だから、お前じゃ帝には敵わな――」

「ああ、敵わないだろうな。お前の戦いを見てたけど、俺じゃまだまだ勝てないってのは痛感した。でも、ランクの低い《侵略者》を相手にすることは出来る。島を守る力が手に入る。それが嬉しいんだっ! だから、ありがとう春秋!」

「なんだこいつ変人か?」

「朝凪君ですから」


 にこにこと微笑む桜花と、仁の態度に若干引いている春秋。


「そうね。仁の言うとおりだわ。カムイがあれば防衛隊の戦力が大きく向上する。それは死傷者の減少にも、ひいては島を守ることにも繋がってる。改めて、私からもお礼を言わせて。ありがとう春秋。あなたのおかげで、星華島はより一層強固になったわ」

「私からも、お礼を。ありがとうございます」


 ユリアに続いて桜花からも礼の言葉が向けられる。春秋は頭を掻いて「ふう」と一息吐く。

 こういった空気は苦手なのだろう。空気を切り替えるためにも、

 胸の前で腕を組んで、渋々と言った表情で口を開いた。


「さっきの《侵略者》の名は、炎帝イラ。こことは違う世界、大陸の一つを支配する帝王だ」

「大陸の一つ、ということは他にもいるのね?」

「炎帝、水帝、地帝、風帝、雷帝、闇帝(あんてい)、光帝……七つの大陸それぞれの支配者だ。異世界に興味があるとは思わなかったからな。少しだけ驚いた」


 春秋が語るのは《侵略者》の情報だ。

 《ゲート》を通して繋がった異世界の一つ。

 七つの大陸を支配する、七人の帝王たち。


「奴らは名乗っている属性通りの魔法を使う。炎帝イラの『カグツチ』は、肉体を炎に変化させる魔法だ。通常攻撃は意味を為さず、並大抵のことじゃ消すことの出来ない圧倒的な熱量となる」


 「随分詳しいのね」と皮肉が飛ぶ。春秋は「ハ」と毒づきながら冷たい瞳をユリアに向ける。


「そりゃ俺だって《帝》を名乗れって誘われたクチだからな。くだらなすぎて断ったが」


 思わずユリアも仁も黙り込む。目の前に座る春秋が、島を滅ぼそうとする《侵略者》と同格――いや、炎帝を倒した以上、それよりも格上の存在なのだと改めて認識した。


「やっぱり春秋さんが適任ですね」

「帝が攻めてくるなら俺が相手をすればいいだろう」

「それじゃあたくさん栄養付けて貰わないといけませんね。お昼ご飯は何が食べたいですか?」

「栄養がしっかり取れるもの」

「むー………………ぜったい、美味しいって言ってもらえるものを作ります……っ」


 静かな決意をする桜花。春秋は何の感情も見せないまま立ち上がった。

 もう用事は終わったとばかりにレギンレイヴを担いで退室する。置いて行かれた桜花は慌てて春秋を追っていった。


 残された仁とユリアはそんな二人を見送って苦笑いを浮かべる。

 春秋の態度はそっけなく感じるが、それでも桜花を嫌悪しているわけではない。

 桜花が春秋の衣食住をサポートすると言いだして不安はあったが――杞憂だったと思う。


「なんだか、四ノ月のあんな表情見るの初めてだな」

「そうね。でも桜花はずっと彼を待っていたから当然のことよ」

「そうなのか?」

「そうよ。あら、知らなかったの?」


 どうやらまだ仁も知らなかったことがあったようだ。

 事情を知っているユリアは微笑みを浮かべる。


「仁、カムイの制作は急がせるわ。それよりもあなたにやってもらいたいことがあるわ」

「おう、なんだ。なんでも言ってくれ」

「校舎の損壊状況を確認して修理の見積もりを出して頂戴。夕方までにね」

「夕方!? あと六時間くらいしかないじゃないか!」

「無茶は承知よ。でも春秋のおかげで校舎の一部だけで済んだのよ。彼に被害を出すなとまでは言えない以上、裏方の支援は私たちできっちりやるべきだわ」


 春秋と炎帝イラの戦いで、少なからず被害は出ている。

 人的被害はゼロだが、物的被害はゼロではない。星華学園の校舎の一部は破壊されてしまい、このままでは授業を受けることが出来ない。


 春秋に物的被害までカバーしろとは言わなかった。当然のことである。

 島を守る――その為なら、壊していい物ならいくら壊しても構わない。

 死者は取り戻せないから、死人が出るのは避けるべきだ。だが校舎の破壊くらいであれば修繕すれば済むことだ。


「彼が私たちに協力してくれている現状自体が奇跡だと思うべきよ。本来であれば、私たちは彼に滅ぼされていたのだから」

「……そうだな」

「そうよ。四年前に大人たちが消えてしまってから……私たちはいつ滅んでもおかしくなかった。そんな私たちを守ってくれたのが、桜花の【予言】であり、桜花が待ち続けた『英雄』……春秋なのよ。私たちに出来ることなら、全部やるわ。私たちが、生きるために」

「ああ、わかってる。……だからこそ、俺は強くなりたいんだ。頼ってばっかの自分は嫌だから」


 本部にも研究室にも成人と呼べる人はいなかった。それは四年前に遡る。

 いつも通りのある日のこと。突然開いた《ゲート》、それが何を意味しているかもわからないまま――星華島の人間の大半が消失した。

 それも、成人を過ぎた大人たちだけが。島には子供たちだけが残された。


 状況も理解出来ないまま《侵略者》の脅威に晒される。子供たちがかろうじて生き延びてこられたのは、当時の年長者たちが先頭に立ち団結したからだ。

 今、その人たちは誰一人として残っていない。それが何を意味しているかは――。


 だからこそ、ユリアも仁も島を守ることに躍起になっている。

 この島を、島に生きる人たちを、未来を。

 守るために、誰もが力を欲している。


「それじゃあ仁、報告を待ってるわ」

「ああ、了解した」


 仁がユリアを残して退室する。残されたユリアは窓際に立ち、サッシの隙間から外を見下ろす。

 今日は本来であれば授業がある日だ。けれど【予言】の元に《侵略者》が来ることがわかっていたので、授業の予定は全てキャンセルとなっている。

 授業を依頼しておいた島外の教師にはあらかじめ断りをいれている。

 それもこれも全て桜花の【予言】のおかげだ。


 しかし、しかし――――だ。


「【予言】と《英雄》……その二つが揃わなかったら、島は滅んでいた。二つの奇跡が揃って始めて星華島は生き延びることが出来た。……あまりにも、ご都合主義ね」


 ユリアは桜花の【予言】を疑っているわけではない。

 春秋の実力を疑っているわけでもない。

 でも、この島を守る者の一人として――神薙ユリア自身が必要とされていない現状に幾ばくかの不安と歯がゆさを抱いている。


 神薙ユリアは奇跡を信じない。

 自らの力で望みを掴み取ることを信条としている。


 だからこそ、だ。


 【予言】と《英雄》が揃っている今この時が――酷く不安定に感じる。

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