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空想のリベリオン  作者: Abel
第一章 英雄 旅の果てに
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第七話 人の為、神に依らず、敵を討つ。




 ユリアに連れてこられたのは、つい先ほども桜花に案内されたクルセイダースの本部だ。

 モニターが並ぶ室内は相変わらず慌ただしい。

 マンションの最上階全てをぶち抜いて一つにした本部は、ひっきりなしに働く少年少女たちでごった返している。


 破り捨てたシャツの代わりを貰った。半裸のままでは目に悪いとユリアに注意されたからだ。


「《ゲート》の状況はどうなってるかしら?」

「静寂を保っています。小康状態へ推移したと思われます!」

「ご苦労様。被害状況を確認後、交代で休憩を取ってちょうだい」

「畏まりました!」

「次は――――」


 オペレーターたちに矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。十数人に指示を飛ばし終わったユリアは「ほう」と一息安堵のため息を吐いた。


「被害報告は追ってタブレットへ頂戴。私は彼の相手をしているから」

「了解です!」

「桜花、春秋、ついてきて」


 ユリアに着いてエレベーターに乗り込むと、二つ下の階が指定されてエレベーターが動く。

 四階は本部と違って開けた空間ではあるが、オペレーターといった人員は数えるほどしかいない。


 機械だらけの部屋だった。機械で出来た武器が所狭しと並べられている。

 剣、槍、銃といった武器の数々はそのどれもがコードに繋がれている。

 まるで栄養を根から貰っている植物だ。


「ここはクルセイダースが使用する兵装の開発局よ。――人の為に、神に縋らず、《侵略者》を討つための兵装――神無威(カムイ)の、ね」

「大層な名前を付けてるな」

「そうね。でも人類はもう神の支配から脱却するステージにいるわ。その意味も込めて、名付けたわ」

「そういう不遜は嫌いじゃない」


 白衣を着た研究員たちがタブレットを見ながらカムイをチェックしている。

 だがどの研究員も苦い顔だ。タブレットとカムイを交互に見てはため息を吐いている。


「開発はどうなっているのかしら」

「ユリア様。……芳しくありません」

「起動実験も上手くいかないのね?」

「はい。魔導回路に魔力を通すまでは可能なのですが、魔導回路が機能を発揮しません」

「問題点は何か見つかった?」

「恐らくですが、魔導回路に使用している鉱石かと」

「近海で採取できたレアメタルでもダメだったの?」


 力なく首を横に振る。ユリアは歯噛みしながらも気丈に振る舞って春秋に振り向く。


「恥ずかしいところを見せたわね」

「そうか?」

「ええ。自信満々にあなたに私たちの力を見せようと思ったのだけれど――実際はこの体たらくよ。私たちは、《侵略者》と戦うための武装すらろくに手にしていない」


 仁の刀を思い出す。確かに機械の刀だったが、目新しいものは何もなかった。

 カムイをただの刀として扱っていた。それはつまり、あの刀もまだ未完成なのだ。

 最低限武器としての機能を備えただけの"なまくら"だ。


 自嘲するユリアを余所に、春秋はズカズカと研究室を歩く。

 ついさきほど実験を行っていた剣のカムイを手に取り掲げると、両の目を凝らしてカムイを観察する。


「魔導回路と搭載している魔法の術式に異常はない。よく出来ているな」

「わかるの?」

「十三個前の世界でこういうのを作るのが趣味の奴がいた」


 過去に渡り歩いてきた世界のことは大抵は覚えている。その中でも話に上げた機械世界は鮮明に覚えていた。

 研究に少しだけ携わっていたからこそ、カムイに転用できる知識に心当たりがある。


「だが魔導回路の材質が少し雑だな。レアメタルの純度をとにかく上げろ」

「まだ不純物が混ざっているというのですか? 技術者たちが最高の技術を惜しまず注いで出来たレアメタル鉱石ですよ!?」

「春秋、続けて」

「ユリア様!」


 研究員からすれば春秋の言葉は職人の技術を馬鹿にしているものだ。それでいてユリアまでもが春秋の意見を尊重するのだから堪ったものじゃない。


「純度99,9%まで仕上げろ。このレアメタルはミスリルと言われるほど希少なものだ」


 物は試しにと春秋が手のひらに黒炎を浮かべる。

 五指を動かして火力を調整すると、加工前のレアメタル・ミスリルを放り込む。

 黒炎はミスリルを飲み込むと激しさを増す。禍々しい黒炎だが、春秋が抑えているのか恐怖や不安は感じられない。


「ほら、これでどうだ?」


 ミスリルが溶けたものを型に流し込む。ユリアが慌てて用意させた魔導回路の基板の型だ。

 熱が引くと、鋭く銀に光る魔導回路が出来上がる。あまりの目映さに呆ける研究員たち。


「……綺麗です。凄く、これまでに見てきた魔導回路のどれよりも」

「っ……使用してみます!」


 下唇を噛んだ研究員が、奪うように魔導回路を手に取ってカムイに組み込んだ。

 春秋はそのカムイを手に取って持ち上げる。


「起動実験をします。カウント五、四、三、二、一……ゼロ!」


 カウントダウンに合わせて魔力を込める。

 異常は感じられない。自分の腕とカムイが一体化するような感覚。

 刀身が淡い光を放つ。光はやがて目映さを増して室内を満たす。


「き、起動成功……ユリア様、カムイの完成です!!!!!」


 研究員の叫び声に反比例するかのように光が落ち着きを取り戻していく。

 刀身は淡い光を纏ったままだ。けれど、確かな力を感じさせる。


「っ……技術者全員に通達して。ミスリルの精錬純度を99,9%まで引き上げると!」

「了解です!」

「予算はどれだけ掛かっても構わないわ。島外、いえ国外まで含めた全ての技術者に連絡を入れなさい。すぐにカムイの増産体制を整えるわ!」


 ユリアの言葉に研究員たちが慌ただしく動き出す。

 騒がしい研究室で、春秋は手に持っていた剣のカムイをテーブルに戻した。

 そして室内に点在しているカムイを一瞥すると、奥に鎮座しているカムイを指差す。


「神薙、今回の報酬としてあのカムイを俺専用に調整してもらおう」

「あれを? ええ、構わないわ。あなたのおかげでカムイが完成したんだから、どんな要求でも承諾するわ」


 許可を取った春秋はそのカムイ――槍のカムイを手に取り、感触を確かめる。

 軽く身体を使って槍を振り回す。どうやらいたく気に入ったようで、珍しく春秋の表情が少し明るくなった。


「開発ナンバー03(ゼロスリー)、コードネーム、"レギンレイヴ"」

「良い名前だ。気に入った」

「すぐに魔導回路を用意させるわ。レギンレイヴの術式は――」

「いい。手に取ってすぐに理解した」

「……あなた、一を知れば十を知る天才なの?」

「才があるかに興味がない。出来ることをしているだけだ」

「…………はぁ、いるのよね。そう言ってなんでも簡単にこなす天才が世の中に何人も。桜花もそうだし」

「え、ユリアさんがそれを言いますか?」


 引き合いに出された桜花が思わずと言ったばかりに返す。

 ユリアも予想外だったのか、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「え?」

「…………十七才で神薙コーポレーションを設立、カムイの開発研究の大半に関わりつつ学業も全部こなしてるじゃないですか」

「私は出来ることをこなしているだけよ? あっ」


 つい先ほど春秋が言った言葉を口にしてしまったユリアが思わず顔を赤くする。

 クスクスと笑う桜花と呆れたような表情をする春秋。


「~~~~~~っ。もういいでしょ! さあやることはいくらでもあるわ、被害状況の確認と、桜花の【予言】による対策。春秋は《侵略者》のことを知っているようだったし、その情報も纏めたいわ。協力して頂戴!」

「そうですね。やらなくちゃいけないことはたくさんあります」

「あいつらの情報が欲しいのか? そのくらいなら無償で教えてやるよ。……どっちみち、俺以外じゃそうそうあいつらを止める事は出来ないしな」

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