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空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割
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第六十四話 解答。そして




「以上が、神薙本家からの伝言よ」


 クルセイダース本部に招集されたリベリオンの一同が言葉を失う。

 渦中の人物である春秋に至っては腕を組んで黙り込んでいるほどだ。あまりにも黙り込んでいる春秋を桜花が不安げに見つめている。


「神薙と春秋の婚姻、か。確かに神薙マリアの判断は的確だな」

「ちょ、黒兎先輩……」

「朝凪仁、黙っていろ。俺たちは炎宮春秋の人柄を、そして契約を信じているし疑っていない。だが島の外の彼らから見たら当然の意見ではあるのだ」

「ですけど……」


 仁もまたどんな表情をすればいいかわからない。不安に思う度に春秋と桜花へ視線を向けている。


「…………あの人には、逆らわない方がいいと思う。なんというか、圧がやばかった」

「お祖母様の言葉は事実上、世界からの言葉と考えた方がいいわ。神薙の本家にはそれだけの力があり、同時に……今の星華島に外からの干渉がないのも、お祖母様のお力によるものよ」


 ユリアは努めて冷静に振る舞おうとしている。

 自分の問題だというのに酷く冷静だ。まるで他人事のような言い分に黒兎が引っかかる。


「神薙ユリア。貴様の問題だろうに。貴様はどう考えている?」

「お祖母様の言葉通りよ。それで世界が納得し、今の星華島を守れるのなら。私は春秋を婿として神薙に迎え入れるわ。……選ぶのは私じゃない。春秋よ」


 ユリアが改めて言うと、一同の視線が春秋に集まる。


「春秋さん。春秋さんは……その、どうするんですか?」


 桜花は今にも泣き出してしまいそうな表情をしている。

 この場の誰もが桜花の気持ちに気付いている。だからこそ気まずい空気が場を支配しているのだ。

 あまりにも重苦しい空気の中で、春秋が口を開いた。


「くだらない。治世にはくだらないことが絡むのは理解していたが、神薙マリアの器もたかが知れている」

「……そこまでよ春秋。いくらあなたでも、お祖母様への失言は見過ごせないわ」

「ならば追放でも何でもするがいい。島にいられなくても島を守る手段はいくらでもある」

「え……。春秋、あなた――」


 ユリアには意外だった。春秋は契約によって島を守ってくれている。いくら島に情があろうと、これだけ春秋を蔑ろにする選択をしていては、失望されて当然だと思っていたから。

 なのに春秋はそれでも島を守る方法を選ぼうとしている。

 自分が世界の敵として扱われて、島への迷惑になるとしても――それでも彼は、日陰の存在として島を守ると言っているのだ。


「そもそも、だ。神薙と俺が夫婦(めおと)になったからと言ってどうして世界が納得する。俺や黒兎ほどの超越者がいる時点で世界は島を危険視するべきだし、婚姻を結んだから安心という理屈に何の根拠もない」

「それは……そうね。けれどこの世界の慣習、と考えて欲しいわ。家族の絆を尊ぶと、世界中の誰もがそれを尊重すると考えて良いわ」

「ならば星華島(この島)を切り捨てた理屈とは矛盾するな。ましてや神薙の後継者が最前線にいるのに協力しない理由がない」


 春秋の理屈は尤もだった。しかしそれはあくまで島の外から、異世界から来た春秋の理屈だ。

 四年前、島から大人たちが消えて。それでも星華島を守らなければならなかった。

 切り捨てるにはあまりにも惜しい永遠桜。しかして被害を想定すれば壮絶なものとなる。

 苦肉の策であり、苦渋の選択ではあった。ユリアがいなければ、今の星華島はなかったと断言出来るほどである。


 追い詰められて、それでも切り捨てられなくて。細い細い綱渡りを通して来たのが現状だ。


「春秋。あなたの言い分はわかったわ。……どうにかして、あなたが島に協力できる方法を検討するわ」

「そうしてくれ。そもそも四ノ月以外に夫婦になる選択肢など最初から存在しないだろうに」

「……え?」

「は?」

「ほう」

「へ???」

「…………………………………………ひゃい?」


 ユリアが、仁が、黒兎が、奏が呆けた声を零して。

 そもそも桜花が話についていけてなく。


 何を今更だと言わんばかりに、春秋が言葉を続けた。


「俺の世話係は四ノ月だろう。そこで神薙と夫婦になるのは違うだろう。どちらがどちらを支えるかは知らないが、少なくとも俺と四ノ月の関係は夫婦と解釈して何の違いもないだろうに」


 春秋の理屈は強引で、解釈が大きすぎる。それはその場にいる誰もがわかることだった。

 だがその発想自体が想定外だった。

 思わず黒兎が口角を釣り上げ笑みを零すくらいには、春秋の言葉は予想外だった。


「……ふふ。ふふふ。そうね。そうだったわね。私としたことがすっかり見落としていたわ。そうよ、ここで私が春秋を奪うのは桜花に失礼ね」

「だなぁ。四ノ月が春秋にどれだけ尽くしてるかはよく知っているし」

「そもそもだ、神薙ユリア。四ノ月桜花であればこれまでの貢献からして島を代表する存在と言っても過言ではない。ならば炎宮春秋の婚約相手として何も問題は無いだろう?」

「問題無いわ。あったところで押し切るわ。それを否定するのなら、今日までの星華島の努力全てを否定してくると同じよ!」

「俺は炎宮さんと四ノ月さんの関係までは詳しくないが……炎宮さんの食事を見守ってる四ノ月さんの笑顔は、美しいものだと思う」


 誰も彼もが春秋の言葉に納得している。黒兎の言葉にユリアが即答する。

 追いつけていないのは、他ならぬ桜花だけだ。

 普段の頭の回転は良いのに、こういう時だけは遅いのか。

 いや、違う。春秋に関係しているからだ。春秋と、そして自分に。


「え、そ、その、えと、は、はははははは春秋しゃん!?」

「どうした、四ノ月」

「け、けこ、けここここここっ! ~~~~~っ!!!」


 桜花がゆでだこのように真っ赤になっている。どんな時でも優しく柔和な微笑みを見せていた桜花からは考えられないような表情。

 誰もがわかる。桜花にとって春秋がどれだけ重要な存在なのかを。


「春秋。桜花はいまいち理解していないみたいよ。ちゃんとあなたの口から言葉にしてあげて。……あなたが島に残れて、世界を納得出来る魔法の言葉よ」


 ユリアの言葉に、春秋は「そうか」と納得し桜花に向き合う。


「四ノ月。俺と結婚しろ」

「っ! ~~~~~~……っ。は、はい……」


 春秋に両手を握られて、顔を真っ赤にしながら桜花は頷いた。

 空気が和らぐ。華やかな雰囲気が部屋に広がる。

 嬉し涙を零す桜花と、少しばかりの微笑みを向ける春秋。


「しっかし春秋も丸くなったよなぁ。いつの間にか四ノ月のことを好きになってたんだから」

「?」

「首傾げてるなよ。いいんだよわかってるわかってる。人を好きになるのに時間は関係ないもんな」

「好き……。ああ、勘違いしているのか朝凪」

「へ?」

「好き嫌いはよくわからん。だが俺の生活には四ノ月が必須だ。だから夫婦となるなら四ノ月以外有り得ない。そういう話だろう?」


 春秋の言葉に仁は空いた口が塞がらない。それどころかユリアと奏も同じ表情をしている。

 黒兎はなんとなく察していたのか、腕を組んで頷いている。


「大丈夫ですよ、朝凪くん。私、とっても嬉しいんです。春秋さんのお嫁さんになるの……ずっとずっと昔からの、夢でしたから」


 涙を拭いながら桜花がフォローを入れる。いましがた結婚を申し込んだ春秋から、好意はないと断言されたというのに。


 いや、好意がない、という訳ではない。

 春秋は「よくわからない」と言ったのだ。それなのに、桜花だけは傍にいることを望んでいる。

 春秋は自分の気持ちに気付いていない。

 だから、それは逆に桜花を燃え上がらせる。


「春秋さんに、私のことを好きだって言わせますからっ」


 この時の桜花の笑顔は、これまでに、誰も見たことのない満開の笑顔だった。

 しっかりと、春秋の目に焼き付いていく。自らが伴侶として選んだ少女の笑顔を。


 そして、炎宮春秋は四ノ月春秋と名を変えることとなる。

 報告を受けた神薙マリアが大声で笑い声を上げたのは、別の話。

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