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空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割
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第五十九話 慟哭




 春秋は攻めあぐねていた。

 炎を纏った拳を叩き込んだものの、意識を奪うまでには至らなかった。続けざまに追い込もうとしたものの、すぐにシオンが体勢を整えて距離を取ってしまった。


 シオンが握っている剣のカムイ。特に目立った術式を搭載していない、隊員たちの共通装備。

 シオン専用であるカムイ・フェンリルは調整中であり、その代用品であるはずだ。

 けれどそのカムイが春秋を翻弄している。


 剣かと思えば槍へと変形し、槍の間合いから逃れれば弓となり、多種多様な武器へ変形する。

 それは昂が見せたナノ・セリューヌと同じ規格であり、カムイが出来る芸当ではない。

 見た目は確かにカムイであるのに、内部構造は完全に別物とかしている。


「ししょー、見てください。これが篠茅さんがくれた、ボクの願いを叶えるジンカムイ!」

「……カムイとナノ・セリューヌを融合させた武器だろ。まさかナノ・セリューヌを武器にだけ融合させ、個人で運用出来るとは思わなかったが」

「ボクだって詳しい理屈はわかりません。でも、わかります(・・・・・)。この武器は、ボクの思うがままに応えてくれる!」


 事実、厄介ではある。

 シオンは元々器用であり、多様な武器を使いこなせる。光帝ルクスリアを討った時もありとあらゆるカムイを駆使し翻弄し、トドメの一撃を与えるほどだった。

 様々な魔法と武器を操る、それがどれだけ難しいことか。

 春秋ですらアルマ・コンバートを駆使しても基本的には(レギンレイブ)双剣(ソーディア)くらいしか使わない。

 それだけで十分だし、他の武器種に一々切り替えたとて有効とは考えなかったからだ。

 効果が無い、というより春秋自身が意味を見出さない。それ以上に二つで十分だと判断しているからだ。


 だからこそ、シオンのような戦い方は初めてでありやりづらい。

 これが地面に刺さっている武器をありったけ使うのであれば、周囲を確認して武器種の予測が出来るのだが。


 距離を取れば魔法と矢が、近づけば多種多様な武器が迫る。

 それでいてシオンを“殺さない”ように立ち回らなければならない。


「……大したものだよ。それだけ臨機応変に切り替えて戦えてるお前は、クルセイダースの誰よりも強い」

「誤魔化さないでください。ボクが求めてる強さはクルセイダースで収まらない強さです」


 シオンの武器操術をすり抜け、首輪を破壊する。

 そうすればシオンは正気に戻る、筈だ。

 確証はない。けれど、それがシオンを取り戻す最善手だと春秋は確信している。


 シオンの瞳は狂気に染まっている。けれど会話は普通にこなすことが出来る。

 噛み合わない、というよりもこちらからの言葉を受け付けない、といった感じだ。


「リベリオンは、カムイを使わずにカムイ以上の戦力となる人物を中心に構成されている。四ノ月はあくまで俺の世話役であり、それはお前もわかっているだろう」

「わかっています。でも、その編成理由に不満があるんです。ボクは――ボクは、リベリオンに参加出来ないほど弱いんですか?」

「…………」


 春秋は答えない。それは結成時に黒兎と話したことであり、公にする話ではないからだ。

 シオンの実力は、春秋も黒兎も、ユリアすらも認めている。実力だけで言えばこれから先仁と並び、春秋たちに次ぐ星華島の最高戦力となるだろう。

 いや、いっそのこと今話してしまえば――――。

 それは、出来ない。この場でシオンの実力を認めたとしても、シオンは聞く耳を持たない。こんな状況だからこそ、この場を誤魔化す嘘としか思わないだろう。


「リベリオンの参加条件は、カムイを使わない能力を保有していることだ」

「先輩が未だにラグナロクを使っていても、命の炎(アルマ)があるから認められてるってことですよね?」

「そうだ。お前にはそれがない。カムイを使う側であるお前の参加は認められない」


 本音で言えば、リベリオンへの参加資格はくだらないと春秋は考えている。

 それは黒兎も、仁も、奏も、ひいては桜花やユリアだってわかっていることだ。

 けれどもユリアは明確に線引きをした。


 その理由は――。


「シオン。お前は勘違いをしている」

「何が勘違いですか」

「リベリオンは、異能力を持っている奴らを纏めた部隊であり――異能力を持っているからこそ、リベリオンに在籍させる“しか”ないんだ」

「……!」


 それは、シオンが考えていたことと真逆の話である。

 問答は出来ないとわかっていても、伝えたい。リベリオン結成の真実を。


「同じ組織に、自分たちと異なる能力者がいて――隊員たちはどう考える。自分たちにはカムイしかない。戦う為の力として開発されたカムイを誇りにすら思っている彼らは、カムイを使わず戦える存在をどう思う。憧れ、羨望ならいい。最悪は、嫉妬だ」


 自分よりも優れた人物がいても、同じ条件なら憧れ、努力すればいつか追いつけるかもしれない。

 けれど、そこに違う条件を持つ者がいたら。

 違う武器であれば良い。人の手で造ることが出来るのならば、それは同じ条件だ。


 命の炎(アルマ)は違う。

 終焉の闇(ベンヌ)は違う。

 機皇帝(ナノ・セリューヌ)は違う。


 それらは全て常軌を逸した力であり、どれほど努力をしても手に入らないものである。

 仁のように『運が良ければ』手に入る可能性もあるが、代償は死と言っても過言ではない。


 けっして届かないとわかってしまった時、人はどうなるか。

 諦め、喪失し、酷いものは憎んでしまう。――今のシオンのように。


「だからこそ、組織を分ける必要がある。共同戦線も張らず、お互いの出来ることをする為に。それがリベリオン結成の真実だ。だからお前はリベリオンに参加出来ない。させられない」

「…………ボクたちを気遣ってくれていたってことですか」


 シオンの闘志が和らいだ。届かないと思っていた言葉が届き、春秋に希望の兆しが差し込む。

 シオンが求めていたことは、要するに『リベリオンに参加出来ないこと』なのだ。

 実力はあるのに、肩を並べて戦えないことが不満だったのだ。

 帝王との戦いでは共に戦えたのに、遠くへ行ってしまったように感じたのだろう。


「シオン、納得したのなら――――」

「――でも、だからといってッ!!!」


 ――シオンの闘志が膨れ上がる。そこには敵意も何もない。

 ただただ純粋な、戦う意志。

 わかってはいたことだ。今のシオンに言葉が届かないことを。

 でも、届いて欲しかった。届いた上で、納得して欲しかった。

 自分たちはけっして、シオンを軽んじているわけではないのだと。


「ボクが認めて貰えてないのは、変わりない!」

「それは違う。お前だからこそ――――」

「ボクは強くなりたい。強くなった。兄さんや、先輩や、ししょーと、一緒に戦いたい! でも、クルセイダースじゃ叶わないんです。ボクが望む場所に、いけない! だったら認めさせるしかないじゃないですか、ボクが強いって。ボクだって、リベリオンと共に戦えるって! それを認めさせるには、ししょーを倒すしかないじゃないですか!!!」


 泣いている。哭いている。時守シオンが泣いている。

 泣き、叫び、強く訴えてくる。もはやシオンに言葉は届かない。届いたとしても、シオンの心は固く閉ざされてしまっている。


「……そうだな。言葉でいくら伝えても今のお前には届かない」


 春秋はあの日を思い出す。

 地帝と風帝、二体の襲撃を退けて、一命を取り留めた仁のお見舞いに繰り出した日のことを。

 ギリギリの綱渡りで生き延びた二人の戦士を労った。

 困惑しつつも、すぐに笑顔を見せたシオンのことを。


 あの時とは違う。シオンはきっと、届くと思ったからこそ今の状況に追い込まれてしまったのだろう。

 ならば責任は自分になると、春秋は結論付ける。

 けれどわかって欲しいと。春秋はあの日以降、シオンを軽んじたことなど一度も無い。

 共に戦う仲間として、頼りにしていた。実力が足りないからこそ、その場その場で出来ることをしてほしかった。

 雷帝との戦いに駆けつけて、光帝を討つに至って。

 ちっぽけだと思っていた少女は、立派に育っていたのだ。


「シオン。言葉は届かないとしても、告げることを許して欲しい。――俺はこれから、お前を一人の敵として認識する。そして今からすることは、『これ』を使わなければ勝てないと判断したからだ」


 春秋から溢れていた炎が収束する。その全てが体内を加速度的に巡り巡る。


「ッ!」


 シオンが思わず息を呑んだ。

 それもそうだ。その力は、闇帝を討ったその日にのみ使われた、炎宮春秋の、切り札。


「アルマトゥルース、命を喰らい輝きを増せ――アルマ・テラムッ!!!」


 春秋の身体が黄金に輝く。残像すら残すほどの加速を以て、春秋はシオンへ肉薄する――!

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