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空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割
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第五十一話 ナノ・セリューヌ




 《彼》は海上に佇んでいた。

 海は静かで、そこに《侵略者》がいるとは思えないほどの静寂。

 仮面の男は、けれど確かにそこにいる。


 一歩一歩ゆっくりと歩を進め、そして海岸線に足を踏み入れる。


「初めまして。星華島の諸君。私はアルバート、君たちの敵だ」

「最初っから敵だと名乗ってくれればやりやすい……が」


 相対するはリベリオンの面々。春秋と筆頭に黒兎、仁、奏が向かい合う。

 アルバートは各々を一瞥すると春秋に向き直る。まるで最初から要件は春秋だけだと言わんばかりに。


「お前の襲来は【予言】にない。――お前は本当に島を滅ぼす者か?」


 相対してわかるのはその脅威。肌で感じる魔力は明らかに異質なものであり、春秋や黒兎に並ぶほどだ。

 けれど明確な敵意を感じているわけではない。敵意も殺気も感じられない相手を、どう脅威として捉えればいいのだろうか。


「アルバート。お前は、本当に、アルバート……なのか?」

「わかりきったことを言うな茅見奏。私は“私”だ」


 次いで飛び出した奏の疑問にアルバートが肯定する。答えはそれだけで十分だとばかりにアルバートが構え、奏は複雑な表情をして後ずさりをする。


「戦う気が無いのなら下がるがいい。お前との因縁はあるが、私の狙いは炎宮春秋だ」

「俺が狙い? なら戦場を変えさせてもらおうか、ここで戦えば少なからず島に被害が出る」

「断る。だからいいのではないか。被害など知ったものか。私の狙いがお前である以上、お前に戦場を選ぶ主導権はない」

「……上等だ。速攻でぶっ潰してやる」


 春秋が静かに感情を高ぶらせる。春秋はすぐに黒兎に目配せをすると、頷いた黒兎が仁を連れて数歩後退する。

 仁は不満そうな表情をしているがすぐに表情を引き締めた。それは他ならぬ春秋と黒兎の表情から察したもので、二人が神経を張り詰めているほどの相手、ということだ。


「島に被害が出そうな時は俺と朝凪仁が介入させて貰う。多対一になっても文句は言わないでもらおう」

「構わないよ時守黒兎。――何なら最初か全員を相手にしても構わないくらいだ」


 どこまでもアルバートは自信に溢れた物言いをする。それを裏付けるのは彼から溢れ出ている魔力。

 島の測定器では観測しきれないほどの魔力量。こうして近距離にいるからこそ肌で感じる、帝王以上の魔力。

 量も、質も、何もかもが帝王以上――懸念点は、相対していてもアルバートから全くといっていいほど敵意を感じられないこと。


 けれど春秋にはそんなこと関係ない。目の前にいる存在が敵として星華島を訪れているのだから、敵として扱うだけだ。


 黄金の炎を掴み、振り払う。手に握られしは白銀のカムイ・レギンレイヴ。

 対するアルバートはその手に何も握らない。

 両者は静かに向き合い、そして、その時が訪れる。


「――――シッ!」

「遅いっ!」


 構えすら見せずノーモーションからの高速の刺突をアルバートがいとも容易く回避して見せた。挙げ句の果てに「遅い」の一言。

 けれどそこで攻撃を止める春秋ではない。槍のリーチを活かし、アルバートへ一方的に刺突を連続で放つ。


「遅いと言って通用しないことくらいわからないのか、間抜けめ!」

「間抜けはどっちだかっ!」


 繰り出される刺突の全てをアルバートは寸でのところで回避していく。だが逆に春秋はそこを突く。アルバートが身体をズラして回避したタイミングに合わせ、一歩を踏み込みレギンレイヴで薙ぎ払う。


 たまらずアルバートは腕を折りたたみレギンレイヴを受け止めた。


「ほう。馬鹿の一つ覚えではない、と」

「……っち。もう少しくらい痛がれよ」

「あぁ痛い。痛いなぁ!」

「成る程、お前は人の神経を逆撫でするのが得意なんだな?」

「ははははは」

「ははははは――ぶっ飛ばすッ!」


 露骨な煽りに逆上したわけではない。春秋は冷静にアルバートへ通用する攻撃を試す。

 レギンレイヴでの物理的なダメージはほとんど影響がない。

 物理的な攻撃を無効化出来るなら、最初から回避しなくていいのだ。

 回避している以上、攻撃を無力化出来るわけではない。

 つまり、純粋に耐久力が高いのだ。

 それが物理的なものだけなのか、他の要素もなのかはわからない。


「アルマトゥルース――スフィルアッ!」

「それは少し不味いか、なっ」


 一旦距離を取ってからの遠隔攻撃。命の炎(アルマ)を凝縮し、火球を放つ。

 命の炎(アルマ)は変換する度に増幅する。さすがに春秋の手から離れれば機能を停止するが、それでも十分だ。

 命を力に、力を命に。本来であれば星華島すら飲み込めるサイズの火球を、敢えて手のひら大まで凝縮する。

 圧縮し圧縮し圧縮し――限界まで抑え込まれたエネルギーがアルバートへ放たれる。


 不味い、とハッキリ言葉にした。けれどアルバートに追い詰められた雰囲気は一切ない。

 どこまでも余裕な態度でアルバートは火球を受け止めた。触れた瞬間、抑え込まれていたエネルギーが爆発を引き起こす。


 爆発の余波が海を抉る。海水を吹き飛ばし砂埃を巻き上げる。


「……手応えなし、か」

「その通り。もう少し込める命を増やすべきだな」


 砂埃の中からアルバートが姿を現した。その身は傷一つなく、砂を払いながら悠然と歩を進めている。

 アルバートの言葉通りに、さらに命を込めて火球を作ることも出来た。だがそれは島への影響を考慮して止めておいた。

 アルバートがどのような行動に出るかわからない以上、高すぎる火力によって島への被害が出ては本末転倒だ。


 故に、今の春秋には決定打が無い。

 無くはない。だが、それをするには少しばかし“今の”春秋には荷が重い。

 だからといって戦うことを止めるわけではない。

 決定打が無いから勝てないわけではない。

 決定打が有るから勝てるわけではない。

 戦いとはそういうものではないことは春秋自身がよく言っている。


「アルマ・コンバート:レギンレイヴ・ソーディア」


 言葉に乗せて炎を変化させ、二振りの剣を握りしめる。今までは名も無き剣であったそれに、春秋は敢えて名を与えた。

 特に意味があるわけではない。だがこれからも戦いを続けていく以上、名があったほうが便利だと判断したのだろう。


 春秋が地面を蹴りアルバートへ迫る。先ほどよりもさらに速く。大地を蹴り飛ばす勢いで跳躍した春秋がレギンレイヴ・ソーディアを振り下ろす。

 刀身に黄金の炎が宿る。重力による加速も合わせた一撃はアルバートに回避する余裕すら与えない。


 アルバートが、嗤う。仮面によって隠されていても、その表情がわかるほど悍ましい雰囲気。


「なん、だそれは……!」


 春秋にとって未知の力だった。いや、春秋はそれを知っている。知っているが、未知である。

 アルバートが両腕を交差させてレギンレイヴ・ソーディアを受け止めようとして、その両手を保護するようにアルバートから黒い光が溢れ出た。

 光が爆ぜる。両手が一つとなり盾となって受け止めた。

 命の炎(アルマ)を込めた一撃は、ダメージを与えられると踏んだ攻撃だったのに――。


「炎宮、それはナノ・セリューヌというナノマシンだ。電気による攻撃をすれば若干だが反応が遅れるっ!!!」

「おいおい、さすがにいきなりネタバラシをするなよ茅見奏っ!」


 レギンレイヴ・ソーディアを弾いたアルバートが遂に攻勢に出る。

 両手を一つとして造り上げた盾が形を変える。

 まるでカムイのように駆動の音を響かせながら、質量保存の法則を無視して変形する。


 その手に握られるは二振りの剣――――ではなく。

 (ピストル)(ブレイド)が一体化した兵装・ブレイドピストル。


 銃剣を構えたアルバートが奏へ視線を向ける。一つの銃剣を天に掲げ、声高らかに己が力を宣告する。


「この世界には三つの“絶対”が存在する。

 無限変換炎熱機構:命の炎(アルマ)

 死すら支配する刻の守人:終焉の闇(ベンヌ)

 そして我らが力――過剰増殖機皇帝(マテリアルロイド):ナノ・セリューヌ」


 アルバートの言葉に応じるように銃剣が変形を繰り返す。銃に、剣に、槍に、斧に、そして再び銃剣に戻る。


「理解したか炎宮春秋。私の力はお前や時守黒兎の力と同等同質。だから手を抜くと――――死ぬぞ?」

「ッ――!」


 お返しとばかりにアルバートが一歩踏み込み春秋の眼前に迫る。

 振り下ろされた銃剣をレギンレイヴ・ソーディアで受け止め――。


増殖(あふ)れろ、ナノ・セリューヌ!」

「ッ!!!」


 刀身からいくつもの刃が伸び、春秋を貫いた。

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