表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割
49/132

第四十九話 黒衣のアルバート




「それで、アンタが俺に何の用だよ」


 黒衣の少年が問いかける。テーブルを挟んだ向こう側には誰もいないというのに、虚空に言葉を投げかける。

 否、違う。誰もいないは否である。

 モヤが蠢いている。まるで人のように。まるで生物のように。


 ゆらゆらゆらゆら揺らめいて。

 ゆらゆらゆらゆら揺らめいて。


 それが、酷く、不快にさせる。


「用がないならもう行くぞ。俺は行くべき場所があるからな」


 少年は背を向ける。ゆらゆら揺らめくモヤが嗤う。


『おやおや勿体ない。せっかく私自ら契約を持ちかけに来たのに』

「……契約。お前がか?」

『オフコース!』


 足を止めた少年にモヤが愉快げに嗤う。その提案は少年にとっても予想外のものだったのか、足を止めるに十分な理由だったのだろう。

 少年が卓に着く。


『契約条件は簡単だ。“星華島を襲うこと”』

「……ほう。俺が今から星華島に協力に出向こうとしていることを知って、か」

『そうだよ。何しろお気に入りの帝王が全て死んでしまってね。今の手駒では春秋どころか黒兎と仁すら倒せないからねぇ』

「それで、見返りは?」


 モヤの提言に少年はすっかり興味を失っている。自分の目的と真逆のことをしろと言ってくるのだ。意味がわからず理解出来なければ納得もするわけがない。


 モヤが手を振ると、テーブルの上に三枚の紙切れが浮かびあがった。それが想定外すぎるものだったのか、少年が身を乗り出す。


『三つだ。三つ、お前が求めているであろう力を貸してあげよう』

「……なるほどな。お前の考えはわからんが、これらが手に入るなら星華島に協力する理由は無くなるな」

『そうだろうそうだろう? お前の真意と私の本意は限りなく近いからな。お前のことなんてすぐわかるのだよ私には』


 三つの紙片を手に取り、少年が席を立つ。


「契約成立だ。仕方ねえ、星華島を滅ぼしてやるか」

『おやおや。早速乗り気で助かるよ』

「当たり前だろう。――俺如きに滅ぼされる島ならそれはそれで必要ない」


 少年が歩を進めた先には何もなかった。

 空だ。空に浮かぶ空中庭園とも呼べる場所で、眼下に広がる世界を見下ろす。

 三つの紙片を胸に仕舞い、左腕を天へ向かって掲げた。

 左手首に付けられたリストバンドに光が灯る。


「――――マテリアル・コンバート」

『チェンジ・コンバート――マテリアルッ!』


 それは世界を変える言葉。

 リストバンドから黒い光が溢れ出て瞬く間に少年を包み込む。

 電子の声が雄叫びを上げる。応えるように、少年は掲げた手を振り下ろした。


 黒衣の少年は仮面の戦士へと姿を変える。

 漆黒の装衣は体格を強調するかのように全身に張り付く。

 頭すらも飲み込む仮面は僅かな変化すらも隠してしまう。

 仮面の戦士が降臨する。その立ち居振る舞いは堂々としたもので、モヤは愉快げにその背中を見送った。


「マテリアル・アルバード――いざ、介入を始めよう」


 少年が、マテリアル・アルバードが一歩を踏み出し空へと身を投げた。

 風が全身を包み込む。微塵の恐怖も感じぬままに、マテリアル・アルバードは大空を謳歌する。


 落下に身を任せ、世界に向かって拳を突き出す。


「《ゲート》よ開け。――――我は昏き淵より蘇りし復讐者。天獄に至りし大罪人。我は友を捨て世界を捨て、己すらも捨てた咎人である!」


 マテリアル・アルバードを待っていたかのように《ゲート》が開く。

 空間に罅が入り、空が割れる。その先に見えた彼方の世界に少年は手を伸ばす。


「目指すは星の華咲く彼方の島。彼の地にいる英雄に問う為に、我は敵意の剣を執る。――――さあ、応えてくれたまえ。お前は何の為に剣を執る!」


 《ゲート》はマテリアル・アルバードを歓迎し、異なる世界への道を繋げた。


 世界が変わる。

 青い空、白い雲。鳥がが踊る静かな世界。


 桜の花びらが空を舞っている。マテリアル・アルバードは、視界を埋め尽くす花びらを振りほどきながら島へと迫る。


「――――お前は、この島にいるんだろう。だからこそ此処に来た。でも済まないな。俺には俺の目的がある。さあ、久々に殺し合おうか。英雄よ、死神よ、剣帝よ、予言者よ、――白きマテリアルよっ!」


 新たな《侵略者》が島へ迫る。


 その出現を予期していたかのように、島の海岸線に並ぶ四つの影。

 仮面の下で、少年が口を歪める。


 金の炎、死の雷、銀の炎、白き光。

 待ち構えるは星華島が誇る四つの最大戦力。


「さあ、“私”を殺してみせろっ!」




 空想のリベリオン 第二章

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ