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空想のリベリオン  作者: Abel
第一章 英雄 旅の果てに
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第四十五話 白銀の炎 アルマ・シルヴァリオ




 眠っている間、ずっとずっと問い続けてきた。


 力が欲しい。

 その為に、どんな代償を求められても……応えてみせると。


 熱にうなされる中で、炎が問いかけてきた。


『力を望むか?』


 勿論だ、と仁は即答する。

 シオンのように天才と持て囃されたことなど一度もない。

 桜花のように頭脳明晰なわけでもない。

 黒兎のように超越者というわけでもない。

 奏のようにセンスに任せた戦いが出来るわけでもない。

 ユリアと違い、「出来ること」が小さすぎる。


 少しばかし身体能力が良かっただけ。

 とても、才ある者に並ぶほどではない。


 だからその分だけ、努力を重ねた。

 魔法を学び、鍛錬を重ね、恥も外聞もかなぐり捨てて様々な人に教えを乞うた。

 魔法の才はなく、魔法使いとしての未来は元から考えていなかった。


 “あなたはどこまでいっても平凡の域を出ないけど、平凡の中なら一番を取れる”


 それは、訓練の折にユリアに言われた一言だ。

 突出したものなどなにもない。

 ただただ鍛錬を、努力をし続けてクルセイダース三番隊隊長へとなった。

 自分が認められたことが、嬉しかった。

 けれども同時に、それが自分の限界であることは悟っていた。


 ――――渇望していた。


 弱い自分が嫌いで。中途半端な域にしか至れない無力さが歯がゆくて。

 帝王たちの戦いを見て、自分の世界がどれほど狭いかを痛感して。


 もっと、もっと、もっと、もっと――――。


『では、君は何を差し出す?』


 炎が、語る。

 代償は、取り戻せないモノほど輝きを増す。


 最初は命を削っても良いと考えた。

 でも違うと気付いた。


 自分の命では、代償とはとても呼べない。

 命を捧げたところで、春秋やシオンに並べるわけがない。

 そもそも彼らと肩を並べられるほど秀でていないのだ。

 必然、彼らの命の方が重要度は高い。


 命の価値に貴賎はないと言うけれど。

 これからの未来、彼らが生きている方がよっぽど島に貢献出来る。


 だから、考えた。

 考えて考えて考えて、自らの全てを捨てる決意へ至る。


 “朝凪仁は、魔法使いとして大成はしない。”


 けれどその未来には人並みの幸せがある。魔法使いとして人並みの名誉が、神薙ユリアによって断言されている。

 秀でてないが、劣ってもいない――才なき者にしては破格の保証だ。


 だから、それを。


 人としての幸福なんて要らない。

 魔法使いとしての名誉なんて要らない。


『その選択を正しいと思っているのか?』


「正しいかどうかは関係ない。俺がするべきことは、島を守ることだから。島を守れなければ、俺の未来は存在しない。――だから、俺の未来一つで島を守れるなら安いもんだ。もっと欲しけりゃ命だってなんだってくれてやる。だから俺に、力を寄越せっ!!!」


 少年の渇望に、炎は応える。


『いいだろう。ならば我がアルマを呼ぶがいい。信念と渇望によって至った、限界を超えし者(リミットブレイカー)よ。我が名は渇望の白銀(しろがね)――――アルマ・シルヴァリオ!!!』


 ――――銀の炎が、仁の身体から溢れる。




「命の、炎。何故君が……貴様が、それを、使う!? それは、それはそれは春秋のもので、オレが手に入れられなかったのに! あれだけ焦がれた究極の力、貴様ごときがぁああああああああああああああ!?」

「お前のことなんて知らねえよ。俺はいつだって、一直線に、まっすぐ、自分に出来るちっぽけなことをするだけだ!!!」


 春秋は銀炎を眺めながら、手のひらに浮かぶ黒炎を握り潰す。

 下げていた視線を上げ、仁の背中を見つめる。

 遠い情景


「クルセイダース三番隊隊長・朝凪仁、敵は闇帝最後の帝王。唸れラグナロク!!!」


 銀炎が仁の身体を突き動かす。

 身体が軽い。自分のイメージ以上に身体が動く。

 一歩を踏み出すだけで以前よりも数倍の力を感じる。


「殺す。殺す、殺す殺す殺す。うら若き乙女に誓い命くらいは見逃してやろうと思っていたが貴様は別だ。その炎をオレの目の前で使うならば、それは死すら生ぬるい大罪であるッ!!!」


 闇帝――ハルクが身体から溢れた泥を握り締める。泥はハルクの意志に応じるように剣を形と成り、真正面から仁のラグナロクを受け止める。


 ぶつかり合った直後、ハルクは強引に剣を振り払い仁を突き飛ばす。

 けれど仁は中空で炎を噴出し、体勢を整えて着地した。


「っ……」


 これまでの自分ではない――抱いた違和感も何もかも、今の仁には関係ない。

 これが、春秋が戦っていたステージ。

 これが、春秋の戦い。

 命の炎を主体とした、一騎当千の力。


 それが今、自分の中にもある。こんなにも頼もしいことは、ない。

 一つ懸念があるとすれば――手に握るカムイ・ラグナロクだ。


 カムイとは、機械で作られた兵装だ。

 内蔵された術式を魔力で起動して、身体能力の強化やカムイ特有の術式を発動させる。

 今までは身体能力の上昇と、雷を纏う術式の二つで戦ってきた。


 だが、今の仁はそれらを使うことが出来ない。

 それらだけではない。

 仁は、魔法を使うことが出来なくなっている。


「……それがお前が捧げた代償か。不器用な奴だ」


 春秋は知っている。ずっとずっと命の炎(アルマ)と共に在ったから、その炎に誰よりも詳しい。


「……春秋は、確かこうやってたな」


 身体から溢れた銀炎を、ラグナロクに纏わせる。

 水帝スペルビアとの戦いで春秋が見せた、レギンレイヴが生み出した刃を喰らって生み出された黒炎の刃。

 仁はそれを模倣して、ラグナロクを銀の炎で包み込む。


「シルヴァ・ラグナロク――――いざ、もう一度っ!!!」

「ああ気に食わん気に食わん! その炎を簡単に使いこなして、貴様みたいな平凡のガキが、オレの前でその炎を使うな!!!」


 激昂するハルクへ向かい仁が駆ける。シルヴァ・ラグナロクを振り下ろし、ハルクはそれを受け止める。が――。


「貴様ああああああああああ!」

「いける、この力なら、いける!!!」


 シルヴァ・ラグナロクが泥の剣を瞬く間に粉砕してみせた。忌々しげに仁を睨むハルクは慌てて次の泥剣を作り出す。

 打ち合えば打ち合うほどに泥剣は崩れ砕け生み出されそしてまた失われていく。


 荒ぶる感情で仁を迎え撃つハルクは次第に追い詰められていく。泥の剣を失う度に少しずつ消耗していく。

 計算外の存在によって、絶対の自信があった作戦が打ち砕かれた。


 地帝と風帝の挟撃から始まり、雷帝による【春秋を狙う】作戦で春秋を追い込み、そして光帝で迎撃戦力の全てを無効にし、最後の最後に自分が全てを得る――考えに考え抜いた作戦が。


「――――許さん。貴様だけは絶対に許さん。闇帝インウィディアの名において、貴様を必ずや殺してくれようっ!!!」


 高ぶり過ぎた激情が、かえってハルクを冷静にさせた。

 執拗に、狡猾に水面下で動き続けたハルクだからこそ、想定外の事態にも対応出来る。


「貴様は所詮、炎に代償を捧げたとして春秋に並ぶのがやっと。それでオレを追い詰めている所は認めてやろう。だがな、オレにはまだ奥の手がある!」

「それは――」


 ハルクが自らの胸に手を沈め、白く輝く宝玉を取り出した。

 闇帝ではない。ずっとハルクの体内に残っていた、光帝ルクスリアの《力の核》だ。


「オレの覇王君臨(カイゼルドライブ)だけで足りないのならば、更なる力を取り込めばいいだけよ!」


 そしてハルクは、光帝ルクスリアの核を飲み込む。ごくん、と喉を鳴らし、体内に異物が侵入する。

 光と闇――相反する二つの力がハルクの身体に広がっていく。


「春秋とて帝王二体を同時に相手することだけは避けていた。それがどういう意味なのか教えてやろう――!」


 ハルクの指先が光ったと思った瞬間。光線が仁の足を貫いた。


「っ――」

「足が止まっているぞ!」

「シルヴァ・ラグナロクっ!!」


 ハルクの身体が残像を残すほどの速度で移動する。一瞬にして仁の至近迫り、泥の剣を逆手で突き落とす。

 仁は慌てて身体を捻って泥剣をかわし、勢いのままにシルヴァ・ラグナロクを振るう。

 しかしハルクが左手を翳すだけで生み出された光がシルヴァ・ラグナロクを弾いてしまう。


「光と闇、我ら表裏一体にして二対一体の帝王。元よりオレはこうした方が戦える!」

「が――――」


 空から降り注ぐ光線を回避しながら迫る泥剣と打ち合う。

 手数の多さに翻弄される仁は、ハルクの言葉を噛みしめていた。


『貴様は所詮、炎に代償を捧げたとして春秋に並ぶのがやっと』


 ――言葉通りだ。

 アルマ・シルヴァリオを駆使しているからこそよく分かる。

 今の仁は、春秋と並ぶほどの力を手に入れた。だが春秋に並んだだけなのだ。

 確かに春秋は強い。けれど異界の帝王たちは、そんな春秋ですら一人ずつしか相手に出来ないほどの実力者なのだ。


 その上でハルクは光と闇、二つの力で攻めてきた。対応が間に合わないのも無理はない。


(……だからこそ!)


 だからこそ、仁は考え続けながら戦っている。

 この状況を打破するために、何をすればいいか。

 答えは簡単だ。


(一瞬だけでいい。俺は、春秋を超えるっ!!!)


 頭の中にイメージは出来ている。

 あとはそれが、今の仁に出来るかどうか。


「応えろ、アルマ・シルヴァリオっ!!!」


 ハルクの猛攻を、距離を取ることで回避してみせる。

 当然ハルクは仁を追う。光線を幾度となく放ちながら、右手に握る泥剣をより強固にして。

 仁はそっと、シルヴァ・ラグナロクを腰に差すように構えた。

 銀の炎が静まる。仁が何をしたいのかを察したハルクは、無駄だとばかりに左手に光を集わせた。


「炎の刃を飛ばすくらいで、オレの光を止められると思うなッ!!!」


 これまでの光線よりも力を圧縮させた一撃。ハルクは左手を突き出しながら仁目掛けて突進する。万が一左の一撃を防がれたとしても、次いで右の泥剣で確実に仁を仕留める腹づもりだ。


 光と闇。どちらも間違いなく仁の命を奪えるほどの力が込められた一撃だ。

 死が迫る。けれども仁の心は至って冷静で。


「――――輝きを貫け、シルヴァ・ラグナロク・オーバーリミットッ!!!!!」


 仁が一歩を踏み込み、そして仁の姿が消えた。

 何かが砕ける音がして。

 何かを失う感覚があって。


「な――――――」

「……ほお」


 思わず春秋すらも声を漏らした、その一撃。

 仁はすでにハルクに背を向けていた。両者の立ち位置は入れ替わっており、仁は大きく咳き込んで片膝を突いた。


 ハルクは、何が起こったか理解できなかった。

 目の前に仁が迫ったかと思ったら、一瞬で消えて。

 そして、身体が両断されていることに気付いた。

 命が失われていくのが、わかった。


 仁はあの一瞬で、命の炎(アルマ)の神髄の一つに辿り着いた。


 命の炎は、ありとあらゆるモノを力へと変換し、力を万物に換える力。

 仁は未来を力へと変換した。そして、これから先の未来で得る魔力全てを捧げている。

 その上で、今の時代でさらに代償を支払った。


 命を力に。力を命に。

 変換する度に変換された力と命は増幅されていく。


 増えた力を命に換えて。

 増えた命を力に換えて。


 換えていく度に、エネルギーは膨れ上がっていく。

 だからこそ春秋は膨大な力を命に換え、傷を癒やしていた。

 膨大な命を力に変え、圧倒的な戦いを繰り広げていた。


 無限炎熱変換機構――――それが、命の炎(アルマ)


 アルマ・シルヴァリオはおおよそ三倍以上に増幅する。

 膨れ上がり、命に回す力すらも用いた身体能力強化術式。


 春秋はそれを、【アルマ・テラム】と呼んでいた。

 仁もまた、その域に至る。


 本来よりも銀炎を消費して放った一撃はハルクの思惑を大きく超え、彼の肉体を両断してみせた。

 的確に、ハルクの《命の核》すらも両断して。


「認めてやれ闇帝。お前の目の前にいる奴は、一瞬でも俺を超えた新たな炎の使い手だ」

「はるあ、き。おまえ、おまえ、おま、ええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


 ハルクの身体が崩れていく。二つの宝玉を取り込んでいた影響か、これまでのどの帝王よりも怨嗟の声を上げながら。


「オワラナイ! 終わらナイ! オレは帝王、世界最強ノ、テイオウ、ツギの、すてーじ、いく、ぜった、い!」


 地面に転がったまま、ハルクが空に手を翳す。ハルクの前に泥が集まり円状に広がっていく。

 それは先ほどクルセイダース本部へ転移した《ゲート》の力。


 だが《ゲート》を開いたところで《命の核》を失っている以上、ハルクはもう何も出来ない。

 最後のあがきとばかりに誰かを道連れにしようとしても、本部には黒兎がいるし、誰か(・・)へ手を伸ばしたところでハルクにはもうそんな力は残されていない。


 開いた《ゲート》の向こう側には、誰もいなかった。

 殺風景な部屋が広がっているだけで、ハルクは何の目的があってそこへ手を伸ばしたのだろうか。


「ァア、あった、アッタ、そこに、イタ!!!!」


 ハルクの手に吸い寄せられるように、五つの宝玉が《ゲート》より飛来する。

 それはこれまでの戦いで得てきた、帝王たちの《力の核》。

 炎水地風雷――そのどれもが星華島を滅ぼせるレベルの、極大の魔力の塊。


 五つの宝玉がハルクの残された身体に取り込まれていく。ニタァ、と口角を釣り上げて、ハルクが嗤う。


「――――覇王君臨(カイゼルドライブ)帝王全一(アルコバレーノ)


 ――――――――それはもう、生物の姿をしていなかった。

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