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空想のリベリオン  作者: Abel
第一章 英雄 旅の果てに
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第三話 ボーイ・ミーツ・チルドレン②




 外灯が明滅する夜道を桜花と共に並んで歩く。視界を塞ごうとする桜の花びらが若干鬱陶しい。


「咲きすぎだ」

「そうですか?」

「道のあちこちに花びらが積もってるじゃないか、邪魔だ」

「朝になれば綺麗になってますので。夜桜を眺めるのも風情があっていいですよ」

「花を眺める趣味はない」

「あら、残念です」


 他愛のない話をしながら桜花に案内される。仁は周囲を警戒しているのか、春秋と桜花から数メートル離れたところを歩いている。


「……で、朝凪は何処まで着いてくるんだ?」

「俺は四ノ月の護衛だからな」


 春秋はまだこの世界のことを大して知らない。「桜花は護衛が必要」という情報は、桜花と仁の関係を知るのになかなか重要な情報だ。

 仁はそもそも出会い頭に「防衛隊」と名乗っている。深く考えなければ、この島を守る戦力だろう。

 つまり、その仁が桜花を護衛している。そこから導き出される結論は。


「私は、一応ですが《予言者》として籍を置かせていただいています」

「心を読めるのか?」

「いえ、春秋さんだったら私の素性について考えるのかな、と思ったので」

「……思考の先読みか、気味が悪いな」

「申し訳ありません。なんだか春秋さんのこと、わかっちゃうみたいで」

「やりづれぇ。……で、《予言者》っつーのはなんだ」


 自分より一歩先を行かれている感覚が、春秋には馴染みない。そこから来る小さな嫌悪感は置いておいて、春秋は桜花の言葉を詰める。


「私は、一部ですが未来が分かるんです。……とは言っても、【この島が滅ぶ】ことについてだけですが」

「ほう」

「四ノ月は凄いんだぞ。《侵略者》が《ゲート》から出てくるタイミングまで全部教えてくれるんだ。四ノ月が協力してくれるようになってから、防衛作戦の成功率が格段に上がったんだぜ!」


 その話題は少しばかし興味深い。

 【島が滅ぶ未来が見える】と、いうことは。


「つまりお前は、俺を待ち構えてたってわけだな」

「はい。その上で、春秋さんなら協力して貰える、と判断しました」

「島を滅ぼす存在を敢えて味方に引き入れる、か。とんでもないギャンブルだな」

「協力して貰えなかったらどのみちこの島は滅んでいました。細い可能性でも、そこを目指すのが得策です」

「……やっぱお前、気味悪いわ」


 桜花の言葉は自信に満ちている。それはつまり、「春秋ならば説得すれば協力して貰える」と判断されたのだ。

 出会ってすらいない、【予言】とやらで知っただけの相手をどうしてそこまで理解出来る?

 春秋には心底信じられないことだった。

 気付けば放浪の旅を続けて、誰にも心を開くことがなかったからこそ。

 腹の底まで見抜いていそうな桜花が、春秋にとってはたまらなく不気味な存在だ。


「春秋さん」

「ん」

「私は、何があっても春秋さんの敵になりません。それくらいは信じて貰いたいです」

「……俺の思考を先読みするな。警戒はする、敵意を少しでも感じたら、誰であろうと斬る」

「わかりました。敵意を見せなければ春秋さんは味方でいてくれるってことですね」

「解釈は任せる」


 警戒しているからこそ、話していて疲れる。諦めのため息を吐いたところで桜花が「着きました」と声をかけてくる。


 案内された建物は、何の変哲もない三階建ての建物だった。暗い視界では全容まではわからないが、部屋数から察するに多人数が暮らしていると推察できる。


「星華学園の寮です。いいお部屋を抑えてありますよー」

「……寮?」

「はい。基本的に協力して貰える《来訪者》の方にはこちらを使って貰うんです」


 ふーん、と興味なさげに答える。先を歩く桜花を追いながら、一階の一番奥の部屋に通される。


 中は一通りの家具は揃っているものの、殺風景な部屋だった。人の暮らしている痕跡があるはずがないのだが、寂しい印象を受ける。


「春秋さんはここを自由に使って下さい。必要なものがあれば取り寄せます」

「……必要なもの、ねぇ」


 ここでの暮らし方もろくに知らない春秋からすれば、その必要なものすらわからない。

 最低限寝床はあるし、雨風は凌げる。それで十分だと判断する。


「寝れるし雨風は凌げる。何か欲しくなったら言う」

「はい。それでお願いします」

「……それで? 本題には入らないのか?」


 春秋が聞きたいのは、《侵略者》のことだ。

 桜花は【島が滅ぶ】未来を回避するために、春秋に協力を申し込んだ。

 その契約は《侵略者の撃退》。それが意味するのは。


「俺を味方に引き入れても、【この島は滅ぶ】んだろ?」

「……はい。春秋さんも私の考えを見抜いてくれたんですね」

「わざわざ言葉にするな」

「はい。……詳しいことはここでは話したくないので、明日、お時間を貰えますか? ……いえ、明日なら、全部教えられます」

「なるほど。明日にでも《侵略者》が来るって事か」


 桜花は無言で頷いた。


「わかった。今日は黙って寝るとしよう」

「ありがとうございます。それじゃあ春秋さん、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 言語は通じた。そこから桜花の言葉が一夜を越える別れの言葉と理解し、言葉を返す。

 桜花は返事をした春秋に微笑むと、頭を下げて部屋をあとにした。

 一人部屋に残された春秋は、手持ち無沙汰のままベッドに身体を放り投げる。


「……ふう」


 柔らかいマットレスが全身を受け止める。

 瞳を閉じて、小さく深呼吸。身体を休めるための動作を繰り返す。


「……」


 眠気は来ない。周囲に敵意も殺意も感じないが、長い旅の中で培った警戒心が春秋を休ませない。


 微睡む事は出来る、が熟睡することは出来ない。


「……十五分か」


 自分が眠ることの出来るラインを見極めてベッドの上に座る。

 窓から夜空を見上げると、桜の花びらが視界を流れた。


「本でも用意してもらうか。何もしないで過ごす夜は久しぶりだ」


 星を眺めながら用意した水を飲み干す。


「……この島が滅ぶ未来、か」


 桜花が見たというこの島の未来。

 春秋が訪れて――結果として、島はどう滅ぶのか。春秋が知りたいのはそこだった。

 この世界を、この島を訪れて――春秋は正直興味が全くなかった。

 危害を加えるつもりはない。滅ぼすなんてもってのほか。

 だから、春秋が世界を滅ぼすと言われても理解が出来なかった。


(まあ、いい)


 どちらにしても、向こうから協力を申し出て来たのだ。その条件は理解出来る限りでも破格の条件で、断る理由も大してない。

 《侵略者》がどんな存在であろうと負けるつもりもないし、負ける未来も見えない。


 だから、春秋は何度でも同じ言葉を呟く。


「どうでもいい。全部終わらせて、さっさと去ればいい。どうせ、俺の願いは叶わない」


 ふう、とため息を吐き、春秋は気長に朝が来るのを待ち続けた。

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