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空想のリベリオン  作者: Abel
第一章 英雄 旅の果てに
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第二十四話 次なる【予言】




 数日が経ち、春秋はクルセイダースの本部に招集されていた。

 桜花からユリアへ、新たな【予言】が提示された――今日はその、対策会議だ。


 会議室に集められたのは、春秋と、ユリアと桜花。

 そしてクルセイダース実働部隊から、仁とシオンだ。


 議事録を作成する為に眼鏡をかけた少女も同席しているが、どうやら口を挟むつもりはないようだ。


「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


 形式的に、桜花が立ち上がって頭を下げる。

 それに合わせるようにユリアがリモコンを操作すると、天井からスクリーンが降りてきた。


 映し出されるのは星華島の全体図だ。

 青い光が点在していく。これは平時におけるクルセイダースの配置図である。


「次の【予言】が来ました。今より一週間後に、この島が滅ぶ未来です」


 厳かに話す桜花は、普段の柔らかな雰囲気とは真逆である。

 水帝スペルビアの時もそうだったが、さすがに時と場所は弁えるようだ。


「それで、何処に現れる。一番重要なのはその情報だ」


 水帝スペルビアでの【予言】は、シオンが傷つき倒れる光景が見えていた。

 だからシオンを守る形で、春秋が駆けつける作戦を取った。

 それもこれも、先んじた手を打つことで《侵略者》である帝王たちが予定を変更する未来を呼び寄せないためだ。


 先手を打つことで、状況が変わるかどうかはハッキリ言ってわからない。

 だが予測不能な状況を考慮するよりも、後手に回って春秋が対応したほうが勝率が高い。

 それが、桜花とユリアによる作戦の主軸だ。


「……出現位置、ですが」


 どうにも桜花の歯切れが悪い。ユリアもまた苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 何が言いづらいのか、言葉を選んでいるのか。

 目を伏せた桜花は、意を決したのかユリアに目配せする。頷いたユリアがノートパソコンを操作すると、星華島の東海岸に赤い点が浮かび上がる。

 そして同時に、西の海岸にも。


「……帝王たちによる、挟撃です」

「はぁ!?」


 驚きの声を上げたのは仁だ。

 春秋も、そしてシオンも状況を淡々と冷静な視線で見つめている。


「で?」


 驚き戸惑う仁を余所に、春秋はすぐに桜花に言葉を投げる。

 帝王が同時に襲撃してくる――予測の範疇を超えた行動ではあるが、春秋にとってやるべきことが変わるわけではない。


「春秋さんには、西海岸に出現する帝王の迎撃に当たって貰います。東海岸は――――」


 ぐっ、と桜花が言い淀む。

 これから自分が提言する作戦が、誰も信用していないと宣言しているようなものだから。

 しかし、それが最善の策であると桜花は考えている。

 成功率も、そして、今の星華島の戦力からしても、最も妥当と言える作戦だ。


「――クルセイダース部隊長、朝凪仁並びに時守シオンに、帝王の『足止め』に尽力して貰います」

「それは愚策だろう、四ノ月。それならばまだ俺が一人で二人を相手にした方が無難だ」


 だからこそ春秋は、真正面から桜花の作戦を否定する。

 正直な話をすれば、帝王たちの『覇王君臨』を二体同時に相手すれば、春秋も無事では済まない。


「あいつらの目的はこの島だ。『覇王君臨』を二体同時に行えば、先に島が滅ぶ。だからあいつらはどちらかしか『覇王君臨』を使えない」

「それなら、通常形態の帝王であれば朝凪君たちでも対応は出来ます」


 桜花は『最悪』を回避するための選択肢を取っている。

 春秋は『最善』へと突き進む選択肢を取っている。


「過大評価だ。朝凪も時守も多少はマシとはいえ、あいつらに勝てるわけがない」

「過小評価です。朝凪君もシオンさんも、春秋さんが思っている以上強いです」


 二人の意見は、対極のようでいて、それでいて重なることのない平行線だ。

 桜花は仁とシオンを信頼し、二人ならば帝王の足止めが――春秋が来るまでの時間稼ぎが出来ると踏んでいる。

 春秋は相対する帝王たちの実力を把握しているから、二人では足止めにもならないと判断している。


 お互いに、わかっていることだ。


「なあ、春秋」


 今にも口論を始めそうな二人を止めたのは、仁の言葉だった。


「お前は、俺たちの実力を知っている。だから帝王に敵わないから、相手をするなって言っているんだろう?」

「そうだ」

「それで俺たちが死んでも本望だ、と言っても止めるんだろう?」

「当たり前だ。――この島にいる全ての人間を守る。それが四ノ月との契約だ。死傷者の一人も出さないと契約している」


 春秋の言葉に口を噤むしかなかったのは桜花だ。自分が言い出したことで、自分の首を絞めてしまっている。


 らしくない、と仁は思っていた。

 春秋が来てから、桜花はずっと春秋を優先してきた。作戦の中心に据え置くのは当然としても、私生活の全てを献身的にサポートしている。

 普通、そこまでするのだろうか。機嫌を損なえば、島にとって最大の脅威になるかもしれない相手を。


 ――答えはわかっている。

 普段は誰にも見せない笑顔を、春秋に向けていれば。

 だからこそ、だ。


 桜花の提言した作戦になくて、春秋の進言にある落とし穴。

 桜花がひた隠しにしている一つの事実。


 それを言葉にするほど野暮ではない。

 それを口にしてしまえば、春秋は思考を頑なにしてしまうし、桜花の思いも無駄にしてしまう。


 だから、仁は訴えるしかない。


「春秋、お前は帝王にだって負けないくらい強いんだ。だから一人を倒すとして、何分あれば片が付く?」

「……余計な邪魔が入らないと仮定するなら、五分で済む」


 春秋の言葉に嘘はないだろう。

 事実、春秋はそれだけ圧倒的な力を見せつけている。

 炎帝イラも、水帝スペルビアも、戦闘時間自体はかなり短い。


 故に、春秋の推察は確かなものだろう。


「だったら移動時間も込みで十分だ。十分間、俺と時守で時間を稼ぐ。怪我はする。そりゃそうだ。俺たちのちっぽけな実力じゃ、帝王を倒すどころか足止めが本当に出来るかもわからない。――だから春秋、すぐに助けに来てくれ。その間、全力で、どうにかする」


 仁は春秋に縋るしかない。最初から春秋が帝王二人を相手にする作戦を出さないのは、春秋にとっての『最悪』を回避するため。

 恐らくだが、桜花は【見えてしまった】のだろう。

 帝王二人を相手にした春秋が、【】んでしまうところを。


 でなければ、こんな作戦を立案しない。

 それを尊重し、かつ春秋の面目も潰さない方向で言葉を選ばなきゃならない。


 仁は不器用だ。嘘は苦手だし、戦闘スタイルだって真っ正面から突っ込む猪突猛進なことしか出来ない。


「俺たちにも島を守らせてくれ、春秋」

「そうですよししょー! ししょーが来るまでの時間稼ぎくらいボクたちにだって出来ますよ!!!」


 仁の意図を汲んだのか、シオンが言葉を繋げる。明るく振る舞う言動は頼もしさを感じさせるも、その意図自体は春秋には伝わらない。


「……なら、四ノ月との契約者として一つだけ言わせて貰う」


 春秋は、食い下がると自分から退くタイプだ。

 言い合っても、理論が間違っていても、会話にならないと判断した以上すぐに切り上げる傾向がある。

 今回ばかりはその悪癖を突くしかない。

 恐らくだが、桜花もそこを突くつもりだったのだろう。

 人数の差で多数決に持ち込んでもいい。


 とにかく、春秋を【】なせないために。


「死ぬな。お前たちが死んだら契約不履行になる。そうなったらお前たちを俺が殺す」

「もう死んでるんだが??????」

「死ななきゃ問題ないことだ。死なないんだろう? 時間を稼ぐのだろう? 任せたとは言わない。敵わないと判断したならすぐに逃げろ。命を最優先にしろ。どっちみち、帝王は俺が全て滅ぼしてやる」

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