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空想のリベリオン  作者: Abel
第一章 英雄 旅の果てに
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第二話 ボーイ・ミーツ・チルドレン①




「あの、炎宮さん」

「何か用か?」


 共闘を受け入れた春秋はひとまず休息を取ることにした。

 幸い周囲には敵意も殺意も感じない。奇異の視線は感じるものの、さして脅威にはなりはしない。


 だからちょうどいいとばかりに、少しばかし太い桜の木に寄りかかろうとして――怪訝な表情をする桜花に声を掛けられた。


「案内をしようと思ったのですが……」

「明日でいいだろ。ひとまず休む」

「どこで……ですか?」

「ここでいいだろ」


 当たり前の表情をする春秋に、桜花はおろおろと不安げにする。


「お部屋を用意します!」

「いや、必要ないだろ」

「します! 炎宮さんはもうお客様なんですから!」

「いや、必要ない」

「ダメです。これから忙しくなるんですから、衣食住は全て提供させていただきます!」

「いや、必要ない」


 春秋としては必要以上に関わるつもりはない。どの程度の敵を倒せばいいかわからないが、対峙した仁の実力を考慮しても、そこまでの脅威が来るのだろうか?


「……あのな、炎宮。大人しく受け入れた方がいいぞ」

「なんでだ?」

「ここは学園への通学路だ。朝になれば生徒でごった返すし、不審者として通報される」

「それが俺のデメリットになるのか?」


 話に割って入ってきた仁がため息を漏らす。

 春秋としては桜花や仁の言葉こそ理解出来ない。


「俺を納得させたいならメリットを呈示しろ。お前たちの言葉はデメリットによる警告だが、俺が気にしなければ譲る必要のないものばかりだ」

「ダメだこいつ言葉通じねえ……!」

「……違います、朝凪君。炎宮さんの言ってることは正しいです。私たちと価値観が違うのであれば、私たちにとってのデメリットは炎宮さんにとってデメリットにならないんです」


 苦い顔になる仁と、思案に耽る桜花。すぐに何かを思いついたのか、左手のひらで右の手を受け止めて笑顔になる。


「私、四ノ月桜花が――春秋さんの衣食住全てをサポートします!」

「は?」

「は!?」


 春秋よりも仁のほうが大声で驚いていた。


「お部屋の掃除も、ご飯も、春秋さんが望むならお風呂だって、……そ、その、夜とぎも、望まれれば……」

「いやいや四ノ月! お前だってまだ若いんだ、得たいの知れない奴にそんなこと――」

「いや、いい。わかった。お前らバカだろ」


 はぁ、と何度目かわからないため息を吐く。どうやらこの世界は自分の想像以上にレベルが低いようだ。

 それでいて頑固だ。今の提案が最善手だと確固たる決意で言ってくるのだから、大したものだ。


「俺が断ればお前はどこまでもよくわからない提案で食い下がってくるだろう。だからひとまずはお前の提案通り衣食住の確保に頷いてやる。さっさと案内しろ」

「ほら朝凪君、話せばわかってくれましたよ!」

「いやあの、あのさぁ……!」


 大口を開けている仁を尻目に春秋は二人を置いて歩き出す。必要はないが、確かに雨風を凌げる場所を提供して貰うこと自体はメリットだ。


 毒気を抜かれた、のが正しいのかもしれない。桜花の素っ頓狂な提案に肩の力が抜けてしまったのは事実だからだ。


「それでは炎宮さんを――「ちょっと待て」――はい?」

「春秋でいい。炎宮って名前はあんまり好んでいない」

「っ! はい、春秋さん!」


 桜花はこれ以上ないほどの笑顔を浮かべ、春秋の後を追いかける。すぐに追いついた桜花はにこにこと笑顔で春秋と並ぶ。数メートル離れたところから仁はそんな二人の後を追いかける。


 特にこれといった話題はない。ただ淡々と歩く春秋に桜花と仁が付いていくだけだ。

 時に曲がり角で指示を出し、春秋は何も言わずに指示された方向へ向かうだけ。

 あまりにも静かすぎる道中に、思わず仁が口を開いた。


「いや、喋れよ! 気まずいだろ!?」

「何が気まずいんだ?」

「私はこういう空気も好きですけど」

「いや、だって、ほら! 俺と炎み「春秋だ」……春秋は戦ったばかりじゃないか。それで――」


 仁の言い分は尤もだ。桜花の提案を受けたとはいえ、春秋と仁は先ほど刃を交えたばかりの敵同士。だからそんなすぐに打ち解けたり、仲良く歩く事など出来るわけがない――のだが。


 残念なことに、春秋からすれば仁は「敵」にもなっていない。


「戦った? あれが? お前は頭に花畑でも咲き誇ってるのか? 一方的に地面に叩きつけられて惨めに泣きべそかいてた奴が言うことか?」

「泣いてねーし! 泣いてねえし!!!」

「だったら何が言いたい。お前は俺にとって敵ですらない。興味がない。だから会話をする必要もない。当然の帰結だろう?」

「ぐ、ぬぬぬぬ……!」


 悔しげに歯ぎしりする仁を気にせず春秋は歩き続ける。必要以上に煽るのは、春秋にとって仁は脅威にすらなり得ないからだ。

 背中を無防備に晒しても危険性はないと判断している。何が起きても対処出来る。それだけの実力差が二人の間にはある。


「じゃあ、俺を鍛えてくれ!」

「……は?」

「は? じゃねえ。俺は強くなりたいんだ。そして目の前に、誰よりも強い奴がいる。だったら弟子入りしたいと思うのは当然だろう!?」

「……お前、情けないと思わないのか?」

「プライド捨てても強くなりてえんだよ」

「そうか」


 相も変わらず仁の言葉を背中で聞き流す。

 とはいえ、だ。


(なじ)られた相手であろうと自分の目的のためには利用する、か。そういう恥もプライドも投げ捨てれるスタンスは嫌いじゃない」


 二人には見えないところで春秋は口角を吊り上げる。


「お前の好きなタイミングで組み手くらいはしてやるよ。教えることはしない。お前が勝手に俺から盗め」

「……っ。ああ!」

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