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空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割
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第百十四話 模双神帝オリジン




 ――――七日目。


 【物語の管理者】との決戦において、戦う場所の指定は特に定められていなかった。

 けれど自然と春秋たちは永遠桜の元に集まっていた。


 これ以上無いほどうってつけの場所であると同時に、出来ることならば傷付けたくない場所である。


「私の名に桜と入っているように、【物語の管理者】は桜咲き乱れる島という設定に拘ります。絵になる、と言えばいいのでしょうか。彼女は幻想的な光景を好みます」


 永遠桜に触れながら語る桜花の後ろ姿は儚い。

 今日という日を乗り越えられるかどうか、明日を迎えられるかどうか。


 【物語の管理者】の宣告は桜花だけを対象にしている。

 定義からして、この戦いの勝敗は桜花が生き残るかどうかだ。


 もちろん【物語の管理者】とて一方的に桜花だけを狙ったりはしない。

 彼女の狙いは桜花であっても、春秋を痛めつけることももう一つの目的としている。

 春秋を蹂躙し、無力さを痛感させた上で桜花を殺す。


 それが、【物語の管理者】の常套手段だ。


「――――来た」


 開幕は要らないとばかりに世界が歪む。

 咄嗟に気付いた春秋はすぐに桜花を抱きかかえ、世界の変化に対応する。

 次いで昂、仁、シオン――戦える者だけが世界の変容に巻き込まれる。


 戦える者とターゲットである桜花だけを狙った空間転移。

 仲間たちが転移させられていく光景を、ユリアはモニター越しに見守ることしか出来ない。


 言葉を届けることも出来ない。どんな言葉を掛けて良いかもわからない。

 クルセイダース本部に集う仲間たちを一瞥して、縋る思いで言葉を吐く。


「……みんな、帰ってきて」


 それは、この場にいる誰もが望む言葉であった。




   +




 春秋はこの感覚を知っている。昂もまた、この異質な世界の感覚を理解している。

 ここは、星華島では無い。ここは、普通の世界では無い。

 恐らく普通の物理法則は適用されているものの、全てが彼女の独壇場。


 そう、此処は【物語の管理者】の世界。


 管理世界と言うべき禁断の領域。


 落下しながら春秋は桜花を片手で抱き締め、右手にレギンレイヴを握りしめる。戦闘の気配を察した桜花は春秋に強くしがみつき、着地の瞬間を待つ。


「――――先手必勝。"オレ"よ、今すぐ桜花を離せッッッッッッッッッ!!!!!」


 眼下から迫るは闇紫の鎧を纏う青年・模双神帝オリジン。

 迷うこと無く一直線に春秋に向かって漆黒の剣先を向けて。


「【歪め】っ!!!」


 すかさずアライバルへ変身した昂が割って入る。その一撃は食らってはダメだと理解している彼だからこそ、空間を歪ませて一撃を弾いた。


「ししょー、桜花さんを!」

「頼むぞ、シオン!」


 急すぎるオリジンの襲撃に対応し、春秋はシオンに向けて桜花を投げる。

 蒼炎を噴出させて落下の勢いを減速させながら桜花を受け止めた。そのまま蒼炎を逆方向に噴出させて、シオンは壁に着地する。


 もちろん重力の影響を無視できる訳ではない。けれど壁を地面として利用することで確実に勢いを削ぐことが出来る。


「先輩は護衛を!」

「わかってる!」


「桜花を、寄越せっ!!!」


 オリジンはすぐにシオンにターゲットを切り替えた。

 オリジンからすれば桜花の確保が最優先であるが、春秋たちからすれば桜花を奪われればすぐに殺されると考えている。

 だからこそ死守を。その為に仁は此処にいると、それが自分の役割だと踏んでいる。


「……"オリジン"さん」

「っ」


 落下を続ける中で、桜花はそっと彼の名前を呼ぶ。愛しい想い人の名では無く、【物語の管理者】の手先としての名前を。


「邪魔だ、ジンっ!」

「うおっ!?」


 酷く辛そうな表情をするオリジンだが、すぐに表情を引き締めて護衛の仁を蹴り飛ばす。

 ここまでの攻防を経て未だ時間は一分も過ぎていない。


 誰よりも先に蹴り飛ばされた仁が着地して、次いで桜花を抱えたシオンが着地する。

 春秋と昂は高度の優位性を利用するために敢えてまだ大地を目指さない。レギンレイヴとエアトスを振るい、眼下に迫るオリジンとの交戦を継続する。


「退け、退け、退け退け退け退けガキ共がぁっ!!!」

「ガキが主役の物語にしたのは管理者だろうがっ!!!」

「お前を倒し、管理者を倒し、明日を迎えるためにもっ!!!」


 オリジンの攻撃は昂が防ぎ、アルマ・レイブを始めとした高出力攻撃をオリジンに放つ。


 春秋は見極めようとしている。

 アルマ・フレアの使いどころを。


 もちろんその一撃は【物語の管理者】を討つために必要な一撃だ。

 使ってみて理解している。一度使えばおおよそ五分間は命の炎が使えない。


 命を燃やし命に戻るアルマの全てを使うのだから、そのエネルギーが満ちるまでの時間がどうしても必要となるのだ。


 けれど相手は模双神帝オリジンあり、かつての自分。

 必殺技の一つを封印して勝てるほど甘い相手でないことは、誰よりも理解している。


 だからこそ、狙うべき一瞬を待たなければならない。

 使用してオリジンを倒すことが出来たとしても、その後五分間は【物語の管理者】と戦うことが出来ないのだから。


「春秋、あの剣はやばい。あの剣にだけは触れるな!」

「ああ、なんとなくわかる。あの剣は……!」

「そうだよ、奏に向かって咄嗟に使おうとしたヤバすぎる品物だ」


 幾たびの剣戟を交わして、三者は大地に足を付けた。

 春秋はすぐに位置関係を把握する。


 自分たちがいるのは、闘技場を思わせる円形の世界だ。

 以前潜り込んだ図書館のような世界とは異なるが、管理世界であることは間違いない。


 コロッセオの中心に春秋と昂は並び立ち、二人の後ろに仁、シオン、桜花と並んでいる。


 模双神帝オリジンは忌々しげに春秋を睨み、その後ろには【物語の管理者】が楽しそうな表情を浮かべていた。


「ようこそ春秋、私の世界へ」

「呼ばれたくなかったけどな」

「いやいや。オリジンや私との戦いを星華島でやるべきではないよ。星華島がいくつあっても保たないからね」


 さも当然のように【物語の管理者】はそう語る。それが虚言では無いことはこの場にいる全員が理解している。


 この戦いにおける最低条件は、昂のカオス・ヘリアルや命の炎(アルマ)を用いた高出力戦闘だ。

 仁とシオンでようやく付いていけるレベルの戦いは、とてもじゃないが星華島を破壊し尽くしてしまうだろう。


 事実、春秋のアルマ・フレアは世界を抉るかのような一撃だった。

 海岸に向けて放たれたからこそ被害は無かったが、無尽に再生する無尽神帝すら消滅させられる一撃だ。


 【物語の管理者】の気遣いに感謝することは絶対にあるわけがないが、星華島を巻き込まないで済むことは喜ばしい。


「さあさあオリジン、是非とも奮闘してくれたまえ。私を殺したいのだろう? 私を殺し、全てを取り戻したいのだろう? ならば加減は不要、その名に相応しい力を魅せるがいい!!!」

「…………言われなくてもわかっている。散々『見た』からな」


 オリジンの瞳が怪しく光る。その瞳に時計のような紋章が浮かび上がり、オリジンの身体から膨大なエネルギーが噴出する。


「っ!?」


 この場にいる誰もが息を呑んだ。オリジンから感じたエネルギーの正体。

 あまりにも身近で、使い慣れた力が。


命の炎(アルマ)……どうして、お前が」

「そうだな。この力は今回のお前が手に入れた力だ。本来であれば俺は使えない。使えない、が――――俺は『視』たモノ全てを扱える、それだけのことだ」


 オリジンの身体から噴出したのは、黒き炎。

 ナラカ・アルマと酷似していてどこか違う異質な雰囲気。


「名付けるなら、そうディマイズ・アルマ! 終焉の名を冠したアルマである。時守黒兎が消えた今だからこそ、その名を贈ろう!」

「五月蠅い、黙れ。貴様を殺す力の一つに貴様が名付けるな」


 陽気に笑う管理者と、心の底から侮蔑の表情を向けるオリジン。

 けれどもオリジンの脅威度が増したのは言うまでもない。

 命の炎(アルマ)を使えると判明した以上、どうしても決定打をアルマ・フレアに頼る必要性まで出てきたのだ。


「昂、必中のタイミングを作れるか?」

「俺のカオス・ヘリアルもコピーされる危険性が高いが……っち、やるしかねえか」


 昂はナノ・セリューヌでガントレットを造り上げ、少し大きめの盾を生み出す。

 命の炎の直撃は昂でも避けたいほどだ。ありとあらゆる力を『模倣』出来るのだとしたら、その危険性は非常に高い。


 使えるカードが限られる。けれど幸いなのは、同じ命の炎(アルマ)といえどこちら側に炎の使い手が三人いることだ。


 条件は不利なわけではない。けれど、互角だと胸を張って言える場面でもない。


「――――――これより、殺戮を始めよう。待っていてくれ桜花、必ずお前を救ってみせる」


 黒炎を纏ったオリジンが、黒炎の剣を二振り握りしめて地面を蹴る。

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