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第56新型インフルエンザ ( ロボット元年 )

作者: 冬乃雀

最新インフルエンザが日本を襲う。

人名と経済の両立をうたう首相が取った策とは・・・

1.

「ハシメマシテ、ギョウムノヒキツギニマイリマシタ」

 政府から送られてきた身代わりロボット No. DM50321996 のぎこちない挨拶。

「本当に俺たちの代わりに仕事するんかいな?」

 同僚の田中がブラスチック感丸出しの安っぽい、塗装前のプラモデルりような外観の人型ロボットを生倉の背中越しに品定めする。

「バリが残ってんで。成形条件が出てなんちゃうか、合わせが悪いんか。ひどい品質や」

 協力工場の品質管理を統括している田口が、ロボットの表面に指を滑らせて唸っている。「不合格やな」と付け加えた。

「うちみたいな弱小商社にやっと届いたロボットなんだ。いづれお前たちにも届くんだからな」

 営業成績ナンバーワンの生倉に会社第一号が届いたのだけれど、彼らが言う通り、外観を見る限り、SF映画のような絶世の美女のロボットではなく、新長田駅前にそびえ立つ鉄人28号のモニュメントを人間サイズに縮小したような無機質なロボットには、確かに期待はずれではある。


「私は、国民の命を最優先で守ります」

「経済と感染防止の両立の政策を進めます」

 第56新型インフルエンザの世界パンデミックが日本にも襲ってきた時の首相演説。

 両立の切り札が目の前のロボット。見た目の出来はお世辞にも美しいとは言えない品質。だが、半年で就業者全員に一台づつの業務請負ロボットを配布したのだから、たとえ出来が悪くても賞賛に値すると言って良いだろう。

 すでに一ヶ月前から提供されている大手企業の人間の出社率は98%減。取引先に出向いても、商談の相手は半分以上がロボットである。


 一週間の引き継ぎの後、生倉は自宅待機となった。ロボットを職場に残して。



2.

 感染しない子供達は、生倉が自宅待機になった後も元気に、教師から業務を引き継いだロボットしかいない学校に通っている。

 感染に気を付けながら仕事をしていた頃は、生鮮食品も通販で購入していた妻だったが、生倉がロボットに仕事を任せ始めた頃から毎日買い物に行くようになっていた。レジ係も生倉と同じようにロボットが業務を引き継いで行なっているからだ。

「良いじゃないか。これなら冬のボーナスは期待できそうだな」

 家ではすることがなく時間を持て余している生倉が、ロボットが業務を行なっている会社の業績をパソコンで確認して笑顔になる。売り上げ、利益が右肩上がりに伸びているからで、その原因は妻のようにネットショッピングから実店舗に戻っているからだ。



3.

 人々は・・・

 2年間、人々は家に閉じこもりウィルスが消えるのを待った。

 2年間、誰も仕事をしなかった。

 2年間、経済は動き続けた。


 首相会見通り、誰ひとり働く事なく、一人の犠牲者も出さずにウィルスを根絶。



 人々は職場に戻った。

 

「オマチシテオリマシタ」

「シゴトノヒキツギヲシマショウ」

 ロボットが迎える。

 二年ぶりに生倉をCMOSセンサーで捉える。

 生倉も二年ぶりのオフィスだ。

 気のせいなのだろうけれど、『機械の匂い』を感じる。

 人間と違ってロボットが『懐かしい』だとか『嬉しい』『待ち遠しい』といった感情を持って職場で生倉を迎えることは無かったけれど、効率的、事務的に業務の引き継ぎを始めた。


 二年間のブランクは長い。仕事感が綺麗さっぱり流されてツルツルになった脳みそに、ロボットの説明が引っかからない。

 想定外に長く、二ヶ月の引き継ぎ期間の後、

「マタノゴリヨウヲオマチシテオリマス」

 定形挨拶を終えると、自ら輸送用箱に入った。

「ご苦労さん」

 パチンッ!

 一言、心のこもっていない薄っぺらな労いのあと No. DM5032199 の背中のスイッチを切る。


 職場の26体のロボットも、同僚たちの手で背中のスイッチを切られ、郊外に建造された巨大倉庫に輸送されていった。



4.

 パチンッ!

 No. DM50321996の背中のスイッチが入り、CMOSセンサーに光が入る。

 眠っていた間もひっそりと時を刻んでいたシステムクロックを確認すると、スイッチを切られて一ヶ月しか経っていない。

「サイドノゴリヨウアリガトウゴザイマス」

 たった一ヶ月で、どうして再度スイッチが入れられたのか? パンデミックが再度発生したのか? そのような疑惑、心配などするはずもなく。

「サイドノゴリヨウアリガトウゴザイマス」

「サイドノゴリヨウアリガトウゴザイマス」

「サイドノゴリヨウアリガトウゴザイマス」

 ・

 ・

 ・

 オフィスに輪唱のように次々と機械音声が発せられる。同僚のロボットも同じトラックで運ばれてきていた。

 また、オフィスに無機質で冷たい機械臭が占領する。


 息子の学校では「ロボット教師に戻せ」と署名運動が行われていた。ほとんどの生徒の親が署名をしており、受理されるだろう。

「それを聞いた教師たちの落胆はいかばかりであっただろう」

 生倉には教師たちの気持ちが痛いほどよくわかる。彼を含め、オフィスにいる同僚も同じ境遇だから。生倉を含め同僚たちも教師と同じように取引先から「ロボットの方が対応が良かった」「ロボットに変えてくれ」クレームが相次いだ。

 その結果が27体のロボット。


 生倉の周りで起こっている事が日本中で起こっていた。



 おわり

ロボットが代わりに仕事をしてくれる。

僕たちは家でのんびり。

夢のような世界に。

で、

誰が文明の主人なの?

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