未来過去
―冗句―
Q1 全ての仕事でコンピューターが発達したら失職する人は増えるか?
A1 増えない(コンピューターの世話をする人が必要だから)
Q2 では、全てのコンピューターの世話をするコンピューターが生まれたら、人は失職するだろうか?
A2 しない(コンピューターの世話をするコンピューターの世話をする人が必要だから)
Q3 全てのコンピューターをコンピューターが管理し、世話するとき、人は失職するか?
A3 しない(そんな時代が来る前にコンセントを抜いてしまう)
―肉しか作れない家畜―
豚というのは、特殊な家畜である。
それは、宗教的にタブーとされるところが多いという意味ではなく、その家畜としての部分で他と異なる特性を見せているからである。
他の家畜、牛やヤギ、ヒツジ、ニワトリ、アヒルなどは最終的に肉として食されるかもしれないが、それ以外に乳や毛、卵など他の利用が見込め、牛などは近代以前、田畑の開発、運搬輸送などで立派な労働力として見られていた。
しかし、豚だけはその肉のみを目的として飼育される動物である。
また、豚は雑食で人と食べるものが重なる部分が多い。現在は事情が異なるが、本来は牛、ヤギ、ヒツジなどは放牧で草など食むから、穀物をわざわざ用意することはない。また、ニワトリ、アヒルも雑食であるが、人が食べる領域と異なるもので十分足りた。
だが、豚だけは人が食べる穀物を食べてしまう。これは十分にあるならば問題ではないが、十分に用意できなければ、人は自分が食べるはずの穀物で豚を大きくするという事になる。
先ほど、宗教的なタブーといったが、おそらくこういった事情も多分に含まれている。
豚には汗腺がない。だから、暑さに弱い。
豚を宗教上のタブーとして見ている地域は基本的に気候的に暑さが厳しい地域で、豚由来の寄生虫による病気、食中毒なども原因であろうが、その飼育に貴重な穀物が使われるという事も関係していると思われる。
肉しか作り出せない家畜に人が食べれる穀物を与えるべきか、やめるべきか、その選択を迫られて決定したことなのかもしれない。
―天才が開発したモノとは―
会場の人は科学者が断言した言葉に深く唸り、拍手を送った。彼らは天才である彼が生み出したそれの正体を十分に知っている。だから、頷く以外の行動をとる気など一切なかった。
「この研究、開発は本当に奇跡的なことでした」
科学者は目を閉じ、何か、見てきたことを思い出すように口を開く。
「人類の未来のため、何もないところから資源を生み出す方法を考えるという馬鹿らしい研究です。しかし、その過程で自分自身、まさかこんなことが出来るなんて思ってみませんでした」
そこで、科学者は目を開け、ゆっくりと会場を見渡した。すべての人の目が自分に集まっていることを確認すると、ぽつりと言葉を吐き出した。
「タイムマシーン」
そう彼は口にした。
「皆さんからそう呼ばれています。しかし、私はこれをタイムマシーンだと言う気はありません。人やモノが自由に未来や過去に行き来できるものではありませんし、そもそも、過去にしか行けないこれは、過去修正機がいいところでしょうか」
そこで彼はニコリと笑った。
「これができて、出来上がって、私は驚きました」
「初めは自分の間違いを疑いました。かつて自分自身がくみ上げたプログラムに誰も手を触れていないはずなのに、私がいま書き上げたコードが書き込まれている。全く別の場所にあるそれが、コードが反映されたのです」
それまでの様子と一変して、喜々して語る科学者はさらに話を進める。
「研究を進めました。過去というのはどこまでも遡れる訳ではありませんでした」
「2010年代、ちょうど、人工知能、AIと人間との知恵比べが盛んであった時期までしか影響を残せることが出来ませんでした」
「歴史に関して、私が知る範囲、正しく、正当にそれを理解していれば、それは私の記憶の中に残ります」
「事故、事件、天災以外、私はそれをできる限り覚えて、過去に影響を与えました」
「しかし、そうすると歴史は思っていた方向と全く違う方向に動いてしまう」
「善であれ、悪であれ、名前が残る人、記憶に残る人は影響力がある」
そう話す彼に会場の人は皆、自然と手を合わせた。
形は様々だ。手のひらをぴったりと閉じて合わせる人、優しく何かを包み込むようにする人、指を交互に組み上げて掲げる人、その先に彼はいた。
「だから、何もない人を選ぶことにしました」
「歴史を、結果を先に見て、何も残せなかった人、何もしなかった人、何もやらなかった人を選ぶことにしました」
「嘘、虚構にあこがれて、現実を見なかった人、家族以外、誰も覚えていない人ならば、彼らが生きる上で必要となる資源は未来の別な人たちのために剪定する」
「人が生きる。人類が生き残るために、こうするしかない」
「人が次の人のための肉になる。人が食べれるように、次の人が食べていけるように、人類がいつまでも続いていくには、厳しい上限を設けなくてはならない」
科学者はそこまで一気に語り、万雷の拍手を浴びながら頭を下げた。
「ありがとうございました」
会場の人、世界中の人、おおよそ二億の瞳が彼の演説を見つめた。
地球には今、人類は一億しかいない。