第2話 ブラッド家
案の定、体育館はごった返していた。
体育館とは言え、内部はアリーナホールのようになっている。それは大人数を収容するためではなく、時折実技演習に使われる為、ある程度の広さがないと訓練に支障をきたすからだった。
辺りを見渡し席を探す。4階B19列付近に空間が出来ていた。
ハルは人酔いに鬱屈しながら、階段を登った。同時に今更ながら登校を後悔していた。
今日は転入式が終わった後の時間に部活動の招集がかかっていた。本来ならそこの時間に合わせて家を出れば良いものの、せっかくならとたまの優等生を発揮したのが間違いだった。
4階に着いた。思わずため息が出る。移動の間に席は埋まっていた。
仕方なしに奥の壁にもたれかかる。この位置からでもギリギリ彼女を捉えられそうだ。
それにしても女生徒が転入してくるだけでこれほどの騒ぎになるとは。
当初、ハルはメアリー・ブラッドの事を全く知らなかった。それどころかあまりの持ち上げられ方に彼女を王室の人間だと勘違いしていた。しばらくしてブラッド家の息女だと分かると感心した。王族よりそちらの方が説得力があったからだ。
ブラッド家は現在、世界でも五本の指に入る名家である。ユダヤの血筋を引いているその家柄はかなり昔まで遡ることが出来るらしいが、そこは彼等を語る本質ではない。何故ならブラッドの名を現在の地位までたらしめた一番の要因は現当主、ゲイリー・ブラッドの存在である事が明白だからだ。
ゲイリー・ブラッド、世紀の大能力者。
まず、能力の度合いを測るためにTTPというものが存在する。これは世界中で一律に定められているものであり、6項目からなる計1000点満点で能力が評価されるというものだ。平均は年代や性別、国によって異なるが一般に500点辺りが常人の壁と言われている。そしてこの数値こそ社会的な評価における第一の要素であり、極端に言えばTTPが高ければそれだけで成功者と呼べる。
彼のTTPは862。あり得ない数値だ。
そもそも、TTPは個人における最も重要な情報であるため通常、他人の数値を公に調べる事はできない。自ら公表する事は自己責任として認められているが、彼のTTPは彼自身ではなく、国際機関から公開された。半年に一度、WTR(World TTP Ranking)が国際方術機構から発表される。そこには世界のTOP10の能力者が名前、国籍、能力の種類、 TTPと共に挙げられるのだ。プライバシーの観点から名前と国籍は非公表に出来るのだが、能力の種類と TTPに関しては載せなければいけない。ゲイリー・ブラッドは21年前、その栄誉ある名簿に名を連ねた。それから今では第4位に位置しており、フラムとしては世界で1番の能力を持っている。
その次元まで到達してしまうと、各界に与える影響もまさしくワールドクラスなのだろう。特に軍事的しがらみは絶えず彼に寄ってくるらしく、素人目にも大変さが伺える。王に等しき扱いも当然といえた。
そんな元に生まれてきたメアリーも複雑な思いで過ごしてきたはずだ。若くして才能を発揮し、ブラッドの一族として相応の立場を築いた。きっとその影には表舞台には映らない重圧や困難を耐え凌ぎ、研鑽の日々を送ってきたに違いない。
そう考えると彼女がどんな人物なのか少し興味が湧いてきた。
会場のアナウンスが鳴った。式典開始の合図だった。
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