第1話 朱鷺高等方術学校
オートモービルを降りて、トキ高への道を歩く。いつもより賑わっていた。
朱鷺高等方術学校、通称トキ高は方術学校にしては珍しいアウターの受け入れを認めている学校だった。
日本に現在5505校ある方術学校の中で、アウターが入学できるのは125校しか存在しない。さらに「鳥かご」と呼ばれる都内の名門学校5校の中ではトキ高だけだった。
アウターは一般の高等学校に籍を置くのが通例で、それは彼等に対する差別というよりも、配慮であった。僅か6%しか存在しないアウターはそれだけで偏見の目を向けられるのが日常であり、悪い意味で一線を画す。その為、方術学校に通えるとあってもわざわざそこに飛び込む夏の虫は特に奇人の扱いを受けていた。
その点、トキ高は比較的温柔な校風と言えた。まず生徒数が3学年合わせて1300人にも上る、相当なマンモス校である。それは入試難易度は高いものの、筆記試験のみを入学基準としている為、受け口が広い事が起因しているのだろう。生徒数が多いということは、それだけアウターの数も多い。トキ高は100人を超える非能力者をいちいち睨め付けている暇は与えてくれない。設備は最新鋭のものを取り入れており、能力者だけでなく、優秀な研究者を多数輩出している。そのためアウターであっても羽ばたけるチャンスが転がっていた。学校運営も文武兼備を掲げており、ただ大きい火を起こせたり水浸しにできれば評価される訳ではない。日頃冷ややかな目を向けられるハルもトキ高にいる間だけは穏やかな時間を過ごせた。
そんな我が校にメアリー・ブラッドが留学生としてやってくる。それには世紀の盗っ人小僧ハルも流石に驚いていた。確かにトキ高は名門ではあるが、彼女の能力と立場を鑑みればクロ高(黒鶫高等方術学校)かライ高(雷鳥高等方術学校)辺りが適当ではないか。あの二つは能力者育成に特化している筈なので、今後フラムとして世界に君臨していく彼女にとってやはりそちらのほうか相応かもしれない。
思案しながら校門をくぐった。いつ来ても感じる。この学校はデカい。
まず目に入るのが中央に浮かぶ蒼い光で結ばれた球体だろう。地球を参考にしているらしく、近寄って触れるとその地域の説明が流れると噂だが、誰もその機能を使っていない。そもそも大き過ぎて手が届かない。
その広大な地球を囲むように、各施設が鎮座している。教室に向かうためにはそのまま直行して、教育街と呼ばれる高層ビル擬きを目指せばいい。そこは入口が水面のようになっていて、通るだけで関係者の判別ができるシステムが搭載されている。無駄にハイテクだ。
校内はさながら空港のようになっている。至る所に階段がジグザグに設置されていて、全てがガラス張りだ。青で統一されているところから、トキ高は寒色を好んでいるのかもしれない。
天井(というより高すぎてもはや上空)には月下美人や向日葵、プルメリアなどが混ざった夏の花が浮かんでいた。季節によって変わるようで、春には人工の美しい桜が芽吹いていた。この仕掛けだけはハルの琴線に触れた。
そんなトンデモ方術学校、トキ高。近未来をイメージしたと聞いたが、一体いつの未来を想像したのか。最初に訪れた時、脳が勝手にラスベガスを思い起こした。
さて、今日は臨時登校日となっているが事前に出席はとらないと連絡されていた。それなのになんだこの人の量は。まるでセンター街並みの混雑模様で、ちらほらマスコミの姿も垣間見える。メアリー転入式典は第1体育館で行われる予定だが、これだけの人数を収め切れるだろうか。
ハルは押し潰されそうになりながら、目的地へ急いだ。
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