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第6話 仮面

 あの後メアリーはどことなく現れた専属メイドに連れられ行ってしまった。おそらく改めてお偉方への挨拶へ出向くのだろう。その流れに乗るかのように活動もお開きとなった。


 学校を出てオートモービルを捕まえる。ハルの自宅はここからだと徒歩で30分ほどだった。歩きでたどり着かないわけではないが、交通費に関しては学校から補助金が出るので有りがたく利用させてもらう。


 車内は冷房が効いていた。行き先を設定し、そのまましばらくアイドリングさせる。メアリーの事を思い返しているとコンコンと窓が叩かれた。


 「お待たせしました」




 車窓から高層ビルが次々に流れていくのが見える。都内の中でもこの地区は開発が進んでいて、多くのベンチャーや先進企業が密集していた。未来を感じさせる、温度のない世界だった。


 ルーナも窓の外を眺めていた。いつの間にか制服を着替えている。


 「さっきは驚いたな」


 「えぇ、まさかメアリーさんが訪れてくるとは夢にも思いませんでした。楽しいひと時でしたね」


 「コウタには感謝しないといけないな。もしかしたら彼女は入部するかもしれない」


 「彼女を部員に迎え入れたいんですか?」


 「男なら誰でもそう思う」


 世間話はこのくらいでいいか。ルーナも暇ではない。


 「ところで」


 「はい」


 「キックコックの件はどう弁明してくれる?」


 ハルの質問にルーナは薄く笑った。やはり何を聞かれるかは予想がついていたのだろう。


 「怒ってますか?」


 「真意を知りたいだけだ」


 「やっぱり怒ってますよね。困りました」


 「困っているのはこっちだ」


 掴み所のない会話で茶化される。彼女のペースに乗せられてはいけない。この話はおふざけでは済まされない。


 「最初は嵌められたのかと考えた。ただ、あまりにも遠回りすぎる。俺達を売るなら直接息の根を止められる所へ密告すればいい。キックコックに何か借りがあるのかとも思えない。何故偽の情報を流した?」


 「悪意があったわけではありません。全て私の落ち度です」


 ルーナが伏し目がちに顔を落とした。どこか演技じみている。


 「アルバート・キックコック氏は追い詰められていました。彼に関する黒い噂は全て事実です。結果として貴方達に暴かれましたがそうでなくても警察、さらには学術議会が真相を突き止めるのは時間の問題だったそうです。そこで貴方達ペンタゴンです。彼は貴方達を捕まえる事で悪者から正義のヒーローに返り咲く策略を考えつき、そのことで悪評が払拭されると見込んだのです。その程度では目眩しにもならないとは思いますが、彼の精神状況を鑑みるとあり得ない話ではありません」


 「その程度……」


 「彼の情報操作は完璧でした。わざわざ影武者を用意しモスクワへ向かわせ、当の本人は自宅にずっと篭って貴方達を待ち続けていたんです。おそらくペンタゴンが誘いに乗るか、悪事がバレるかの根比べだったのでしょう。結果として賭けには勝ったのですからお見事という他ありません」


 「つまり、偽の情報を掴まされたわけであって俺達を陥れようとしたわけではないと」


 「その通りです」


 ルーナが力強い眼差しでハルを見据えた。


 おおよそ予想していた回答だった。理にはかなっているが根拠が無い。憶測と心情だけの机上の空論だ。


 それでもハルは目の前の情報屋を疑うつもりはなかった。元々彼女がその気になればこちらをどうとでもできるのだ。今更信頼度を測ること自体ナンセンスだと言えた。


 「ハル、今回のことで私の信用は地に落ちたと思います。ですが同じ失敗は犯しません。もう一度私に機会をください」


 「待て待て、勝手に熱くなられても困る。別にルーナを責める気は一切ないし、これからも君を頼る」


 ビル街を抜け、街並みが少し落ち着きを取り戻した。目的地の到着が近づいていた。


 ふと疑問が浮かぶ。


 「一つ聞きたいんだが」


 「どうぞ」


 「何故ペンタゴンに力を貸す?君の働きは無償のはずだ」


 当然だという表情でルーナが見返してきた。


 「私はペンタゴンに協力しているわけではありません。貴方に協力しているのです」


 「何故?」


 「強い男性に惹かれるのは当たり前ではないですか」


 「アウターだとしても?」


 「物理的強さに魅力を感じるのなら核ミサイルでも眺めていればいいんです。私が言いたいのは内面の話です。貴方は私にとっての光です。私が道に迷った時に貴方がお手本となって行く先を照らしてくれるのです。そんな人のお手伝いを出来るなんて幸せじゃないですか」


 彼女の言葉に一瞬、押し倒してしまいたい欲に駆られる。もっともオートモービル内で情事を重ねると必ず見つかり罰金を払わなければならない。そのくらいの理性は残っていた。


 到着のアナウンスが鳴り、ドアが開いた。外の熱気が一気にハルを包み込んだ。


 ルーナは車内に残ったままだった。もちろんこのまま返すわけにはいかない。


 「今から家に来ないか?」

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