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第5話 邂逅

 近くで見ると思ったより小柄だなというのが第一の感想だった。そしてどことなくビーと印象が被る。先程にはなかった、あどけない笑顔を浮かべているからだろうか。式典では終始固い表情だったので違和感を覚えた。


 部長とコウタはダメだ。フリーズしている。ルーナに任せるのも場が荒れそうなのでここは俺がいくか。


 「初めまして、メアリー・ブラッドさん。時雨ハルです」


 「メアリーで良いわよ」


 そう言うとハルの前の席に腰を下ろした。くどくない優しいバニラがこちらにふわりと漂った。香りまで美人のようだ。


 どうぞの言葉と共に、メアリーの席にカップが置かれる。ルーナは相変わらずの平常運転だった。


 「はー!この香りだったのね。どれどれ……、美味しい!なんて紅茶なの?」


 「アールグレイです。メアリーさん」


 「へー、なんかカッコいいわね。R-GREY。でも灰色じゃないわね」


 「RじゃなくてEarlです」


 「何が違うのよ」


 なんだこいつら、仲良しか?


 貴族漫才に呆気を取られながらもなんとか冷静を取り戻す。


 「それでメアリー、なぜここへ来たんだ?」


 「凄いわね、アンタ」


 「?」


 「大体私と初対面の男ってオドオドしてまともに話せないことが多いのよ。それなのに堂々としてる。もしかしてソッチ?」


 「回答になってないし、俺と話をコッチに戻せ。何の要件なんだ?」


 「式の後時間が空いたから校内を見学してたの。一通り探索し終わったから、今度は部活動を見てみたくなっちゃって。今活動中の団体のリストを送ってもらって、惹かれたところにお邪魔してるってわけ」


 一通り探索し終わった?どれだけトキ高が広いと思っているんだ。何か特別な手段を使ったのだろうか。


 疑問に思っているとようやく部長が息を吹き返したようで興奮した面持ちでメアリーに詰め寄った。


 「え、えっとメアリーさん?初めまして、午後5時の紅茶部長の泡月ミラです」


 「ん、よろしくミラ」


 「か、カワイイ……」


 ダメだこりゃ。そういえばコウタは?あぁ、もっとダメだ。


 「で、この部活は何をする場所なの?」


 メアリーが首をかしげる。


 「放課後に集まってダラダラ過ごすだけだ」


 「ちょっとハル君!えっとね、メアリーさん。私達はただものぐさな時間を送っているわけじゃないわよ?この部活は放課後のちょっとした隙間を利用してお互いに勉学を教えあい、時には政治や経済の討議を重ねたり、時事的なニュースに関しての意見を述べたりする、とても有意義な会なの。そこに紅茶という彩りを添えるから午後5時の紅茶というわけ」


 流石は泡月ミラ。巧みな話術で今年善良な3人を釣ってきただけの事はある。


 部長の言葉にメアリーが目を光らせた。


 「と言うことはアレのことも話すわけ?」


 「アレとは?」


 「決まってるじゃない、ペンタゴンよ」


 納得したように部長が手を打った。


 「あー、はい。もちろん話題に上がりますよ。この前のキックコック事件も凄かったですね」


 「ペンタゴンのことなら僕に任せてください!」


 突然跳ね起きたコウタが口を挟んできた。


 「アンタ、誰?」


 「は、初めましてメアリーさん!僕は凪コウタと申すものです」


 「コウタはあいつらのこと知ってるの?」


 「コ、コウタ……」


 悦に浸るようにメアリーの言葉を噛みしめるコウタ。お前はゲイリーの方に興味があったのではなかったのか。


 「え、えっと素性を知っているわけではないんですが、警察関係者に知り合いがいまして、時折事件のことを聞かせてもらえるんです」


 「ウソ!コウタ凄いじゃない!早く聞かせなさいよ!」


 バシバシメアリーがコウタの背中を叩く。幸せそうな同級生の顔が面白い。


 「今回の事件で、キックコックは彼等をニセの情報で罠に嵌めたそうなんです。それで侵入してきた男二人を取り押さえるところまではいったそうなのですが、そこからがどうも釈然としなくて……。話によると、彼等は突然姿を消してしまったんです」


 「消えた?」


 「はい。さらには研究室のデータもいつのまにかハッキングされていて重要な情報は全て盗み出されていたそうなんです。警察はその話を聞いて、氏が失態を誤魔化すためについたデマカセだと判断したそうですが僕はそうは思いません。キックコックは稀代のテレキプラズムです。加齢により能力が衰えていたとしても優勢になった彼がそのチャンスをモノにできない筈がないんです。おそらく本当に彼と、そして我々の想像を超える何がそこで起きたんだと思います」


 その論理は破綻している。警察は魔法のようにペンタゴンが消え失せた事ではなく、キックコックが一時的にも侵入者を取り押さえた事自体を疑っているのだ。もっとも捕まったのは事実だが。


 「僕はキックコックの話からその男二人はテレキプラズムだと推測しました。しかもテレポートの真似まで出来るのであれば相当の実力者です。さらに考えを進めるのであれば侵入に窓やドアを破壊した形跡のないことから、遮蔽物があってもテレポートが可能なレモラを習得しているかもしれません」


 そこまで言い終えると、コウタはカップに手を伸ばした。


 メアリーが目を丸くしてそれを見つめる。


 「す、凄い!凄いわコウタ!最初は有象無象の男だと視界から外してたけど考えを改めるわ!」


 「そんな褒められても照れますよ」


 「たしかに情報が本当ならテレキプラズム以外考えにくいわね……。能力者の割合から言ってもその推論は間違っていと思うわ」


 いや、間違っている。片方はポンコツの電気使いで片方はエセアウターだ。


 「それなら広範囲の方術を練習しておいた方がいいかもしれないわね……」


 メアリーがボソッと呟いた言葉がハルを刺激した。


 「まさかペンタゴンを捕まえたいのか?」


 「まーね、ちょっと因縁があって」


 記憶を呼び起こす。全く身に覚えがなかった。間接的に彼女の気分を害してしまったのかもしれない。


 「それでコウタ、次にあいつらはどこを狙うと思う?」


 「もちろん決まってますよ」




 「六日後にジャンポール城で開かれるフランソワール伯爵のご子息誕生祭です」

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