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悪役令嬢、聖剣を抜く  作者: 宇奈木 ユラ
第1章 負け犬令嬢、聖剣を担う
5/5

ACT4. 負け犬令嬢とめんどくさい聖剣

△▼△


 山賊退治から、一夜明けた翌朝。

 ジャンヌの寝室にも、カーテンの隙間からキラキラと輝く朝陽が差し込んでいた。


『――朝である。目覚めるのだ、オーナー』


「う、うぅ。今何時よ」


 ベットの脇に立てかけられた状態のジュワユーズが、声でジャンヌに起床を促す。

 昨夜、山賊相手に遅くまで起きていたジャンヌは、まだ眠そうにうつらうつらと半身を起こす。


『朝六時である』


「寝かせて」


 そういって、彼女はバタリと再びベットに倒れこむ。

 ――だが、それをジュワユーズは許さない。


『健全な肉体にこそ健全な精神は宿るのである。さぁ、早起きして健康的な一日を始めるのだ、オーナー』


「私、六時間しか寝ていないのだけれど」


『人間、六時間睡眠で十分である。さぁ、起床を』


「むり、八時間は寝たい。あと二時間したら起こして」


 起床を促すジュワユーズの言葉を受け流し、再び寝息を立て始めるジャンヌ。

 そこでしばらく声を掛け続けたものの、ジャンヌは一切起きる素振りを見せない。

 ジュワユーズはソレを見て嘆息し、最終手段に打って出た。

 次の瞬間。


『ジリリリリリリリリリリリリリ――!!!!』


 ジュワユーズは、屋敷を揺るがす大騒音を出した。

 これには流石のジャンヌも耳を塞いで飛び起きる。


「え、ちょ、うるさーーーーーーい!!」


 そして瞬時に傍らで騒音を出すジュワユーズをがしっと掴むと、壁に向ってぶん投げた。

 投げられたジュワユーズは、三メートル先の宙でピタリと動きを止め、そのまま時間が巻き戻るかのようにシュルシュルとジャンヌの元に戻ってきた。

 聖剣ジュワユーズには、主から三メートル以上離れると自動で戻ってくるという機能が備わっていた。

 この機能は、本人曰く盗難防止用らしい。


『おはよう、オーナー。良い目覚めであるな』


「どの口がいうか!」


『我は剣であるがゆえに、口はない』


「減らず口を!」


『だから我に口は――』


 こうしてなんだかんだジャンヌは起床する。

 こんな大騒ぎしても、屋敷の使用人たちが外で慌てる様子が無いことから、これは彼女らがここに帰ってきてからの日常ということが伺えた。


△▼△


「嫌、なんなのコレ!? アレックス!」


「どうしましたか、お嬢様」


 そして着替えて朝食の時間。

 運ばれてきたその朝食を見た瞬間、ジャンヌは小さく悲鳴を上げてアレックスを呼びつける。

 そして、呼ばれてきたアレックスにこう訴えた。


「ねぇ、なんで! なんで私の朝食にこれがあるの!?」


「――これ、とはトマトのことですか」


 涙目のジャンヌが指さした先にあったのは、何の変哲もないトマトサラダだった。


「アレックスは、私がトマト嫌いなの知ってるわよね!」


 ――そう、ジャンヌはトマトが嫌いだ。

 今までの人生で、負けず嫌いを発揮して大抵のことは克服し、勝利してきた彼女ではあるが、これだけには全面敗北・敗走していた。

 ゆえに、ジャンヌの食事にはトマトという仇敵は普段現れないのであったが――。


『食べるのだ、オーナー』


「――まさか」


『うむ、我が入れてくれるようにアレックス殿に伝言した』


 その言葉に、ジャンヌの顔色は恐怖の青から怒りの赤に変わる。


「な、なんてことしてくれるのよこのナマクラ!」


『ナマクラではない、聖剣である』


 ジャンヌはヒステリックにジュワユーズをガンガンと床に叩きつけるが、不壊・不滅の聖剣はビクともしない。



『好き嫌いは、良くないぞオーナー。健全な精神は肉体から、そして食事は肉体を作る上で最も大事な要素である。トマトに含まれるリコピンは――』


 健康うんちくを話し始めたジュワユーズを、とうとうジャンヌは窓の外にぶん投げた。

 ――まぁ、すぐに戻ってきたのだけれど。


「あんたが来てから私の食事ものすごい変わっちゃったじゃない! 肉は全部ササミになるし、毎日ヨーグルトの上澄み飲まされるし!!」


『うむ、筋肉をつける上で最も大切なのはタンパク質であるからな』


「誰がマッチョになりたいといったー!!」


 そうやって騒ぐ一人と一本を見つめながら、「今日も平和だなー」とアレックスは呟いた。

賞に応募する作品を仕上げる為に、一時更新をストップさせます。

申し訳ありません!

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