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悪役令嬢、聖剣を抜く  作者: 宇奈木 ユラ
第1章 負け犬令嬢、聖剣を担う
3/5

ACT.2 負け犬令嬢と山賊団(Ⅱ)

△▼△


 草木も眠る、深夜。


「――カシラ、次の計画ですが」


「おう、続けろ」


 ファブレ侯爵領の西にあるファイガス山。

 この山の山道は王都への最短コースになっており、正規の公道が整備された現在でも、急ぎの領民や行商人が利用していた。

 だが、ソレに目を付けた彼ら――山賊団が数日前からそこに陣取って人を襲っていた。

 山の中腹に野営をして、八人の山賊たちは焚火を囲んで話を進める。


「数日後、この山道を通る予想の馬車が斥候役から報告がありました」


「そうか」


 そこで部下からの報告を聞いた頭目は考え込む。

 ここで陣取って襲ってはいたが、実入りは思ったより少ない。

 それでいて、街の方では噂が立ち始めているのを彼は知っていた。


「――その馬車をかっぱらって積み荷をいただいたら、此処を離れる」


「了解でさぁ!」


 頭目の指示に部下が返事をしたところで――


「ふーん、それじゃあ、運が悪かったわね」


 ――このむさくるしい空間には不釣り合いな、冷涼な声が響いた。


 驚いた山賊たちは、一斉に手元の得物を取り、声から距離を取る。

 その動きを見た声の主――ジャンヌは意外なモノを見たといった風な顔をする。

「驚いた、山賊風情と聞いていたから、ただの烏合の衆かと思ってたのだけど」


 ジャンヌの姿を視認した山賊たちは驚く。

 そこにいたのは、此処にいるのが場違いも甚だしい、美しいドレスを身にまとった麗しい令嬢だったのだから。

 あまりの驚き故に、ジャンヌに言われた言葉に答えることが、彼らにはできなかった。


「口をパクパクさせて、まるで鯉ね」


 ジャンヌはあきれたような声を出し、生あくびをかみ殺す。

 そしてふらっと無警戒に彼らに向かい、こう言った。


「私、もう眠いの。面倒だからまとめて来てくれる? ちゃっちゃと全員仕留めちゃうから」


 ここにきて、ようやく山賊たちは気が付く。

 ――自分たちは、この少女に喧嘩を売られてるということに。


「なめやがって、後悔しな!!」


 彼らの中でも沸点の低い若い山賊が、手斧を振りかぶってジャンヌに迫る。

迫りくる脅威を見ながらも、ジャンヌは余裕の表情を崩さない。

 そして、次の瞬間。


「――じゃ、加減よろしくジュワユーズ」


『承知した、オーナー』


 目にもとまらぬ一閃が、男の頚を捉えた。

 そして、その男は走った勢いのまま倒れこむ。

 ――男の意識は、綺麗に刈り取られていた。


「――は」


 眼の前で起きた信じがたい出来事に、彼等は硬直する。

 そして、彼らはあるモノを目にした。

 黄金の柄、黄金の鍔。

 いにしえの文字が刻まれた刃と豪奢な装飾。

 先ほどまで彼女が腰に吊るしていたのは、鉛色の凡百そうなロングソードだったはず。

 それが、鞘から抜き放った瞬間、姿を変えたのだ。


「――お前、何者だ」


 頭目が警戒心を露わに、彼女に問いかける。

 だが、それに答えたのは壮年の男性を彷彿とさせる声だった。


『控えおろう。この方は、今代の三聖剣の一角“聖剣ジュワユーズ”の担い手、ジャンヌ・フォン・ファブレである』


「無駄な抵抗は止めてなんて言わないわ。私、今ちょっとむしゃくしゃしてるの。――だから、ストレス解消に剣の露と消えなさい」

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