ACT.2 負け犬令嬢と山賊団(Ⅱ)
△▼△
草木も眠る、深夜。
「――カシラ、次の計画ですが」
「おう、続けろ」
ファブレ侯爵領の西にあるファイガス山。
この山の山道は王都への最短コースになっており、正規の公道が整備された現在でも、急ぎの領民や行商人が利用していた。
だが、ソレに目を付けた彼ら――山賊団が数日前からそこに陣取って人を襲っていた。
山の中腹に野営をして、八人の山賊たちは焚火を囲んで話を進める。
「数日後、この山道を通る予想の馬車が斥候役から報告がありました」
「そうか」
そこで部下からの報告を聞いた頭目は考え込む。
ここで陣取って襲ってはいたが、実入りは思ったより少ない。
それでいて、街の方では噂が立ち始めているのを彼は知っていた。
「――その馬車をかっぱらって積み荷をいただいたら、此処を離れる」
「了解でさぁ!」
頭目の指示に部下が返事をしたところで――
「ふーん、それじゃあ、運が悪かったわね」
――このむさくるしい空間には不釣り合いな、冷涼な声が響いた。
驚いた山賊たちは、一斉に手元の得物を取り、声から距離を取る。
その動きを見た声の主――ジャンヌは意外なモノを見たといった風な顔をする。
「驚いた、山賊風情と聞いていたから、ただの烏合の衆かと思ってたのだけど」
ジャンヌの姿を視認した山賊たちは驚く。
そこにいたのは、此処にいるのが場違いも甚だしい、美しいドレスを身にまとった麗しい令嬢だったのだから。
あまりの驚き故に、ジャンヌに言われた言葉に答えることが、彼らにはできなかった。
「口をパクパクさせて、まるで鯉ね」
ジャンヌはあきれたような声を出し、生あくびをかみ殺す。
そしてふらっと無警戒に彼らに向かい、こう言った。
「私、もう眠いの。面倒だからまとめて来てくれる? ちゃっちゃと全員仕留めちゃうから」
ここにきて、ようやく山賊たちは気が付く。
――自分たちは、この少女に喧嘩を売られてるということに。
「なめやがって、後悔しな!!」
彼らの中でも沸点の低い若い山賊が、手斧を振りかぶってジャンヌに迫る。
迫りくる脅威を見ながらも、ジャンヌは余裕の表情を崩さない。
そして、次の瞬間。
「――じゃ、加減よろしくジュワユーズ」
『承知した、オーナー』
目にもとまらぬ一閃が、男の頚を捉えた。
そして、その男は走った勢いのまま倒れこむ。
――男の意識は、綺麗に刈り取られていた。
「――は」
眼の前で起きた信じがたい出来事に、彼等は硬直する。
そして、彼らはあるモノを目にした。
黄金の柄、黄金の鍔。
いにしえの文字が刻まれた刃と豪奢な装飾。
先ほどまで彼女が腰に吊るしていたのは、鉛色の凡百そうなロングソードだったはず。
それが、鞘から抜き放った瞬間、姿を変えたのだ。
「――お前、何者だ」
頭目が警戒心を露わに、彼女に問いかける。
だが、それに答えたのは壮年の男性を彷彿とさせる声だった。
『控えおろう。この方は、今代の三聖剣の一角“聖剣ジュワユーズ”の担い手、ジャンヌ・フォン・ファブレである』
「無駄な抵抗は止めてなんて言わないわ。私、今ちょっとむしゃくしゃしてるの。――だから、ストレス解消に剣の露と消えなさい」




