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09 メーネの武器庫

「じゃあ仕事に行きましょうか」


「はいアキナさん!」


 正式にメーネを専属護衛として雇った俺は、再び隣町へと行商に向かった。


「どんな敵が現れても私がやっつけて見せますから!」


 新しい武器を手に入れたメーネはやる気満々といった風情でこぶしを突き上げる。

 そんな今のメーネは、一見すると異様な格好をしていた。


「ふんふーん、ミッスッリッルの武器がたーっくさーん!」


 鼻歌交じりに歩くメーネの姿は、その言葉通りに体中に大量のミスリルの剣を装備していた。

 腰には左右3本のミスリルの剣を装備し、背中にも2本で計8本のミスリルの剣を装備していた。

 更に馬車には予備のミスリルの剣があり、手持ちの武器が壊れても補充は十分である。


「さーいつでも来なさい!」


 いい加減物騒な事言うのは止めてくれんかなぁ。

 武器が手に入って嬉しいのは分かるが、それでも襲われないに越した事はないんだからさ。


 だがこういう時にそういった願いが叶えられる事はない。

 つまり、襲撃だ。


「グォウ!!」


 街道を進んでいた俺達に向かって、近くの森から大きな熊の様な獣が何頭も向かってくる。


「フォレストベアですね! あまり森の外に出て来る魔物ではないんですが」


「魔物か、あの速さだと逃げ切るのは難しいな」


「大丈夫です! 武器さえあれば私が退治します!」


 おお頼もしいな。


「頼みますよメーネさん!」


「はい! おまかせあれ!」


 メーネが馬車の御者台から飛び出しフォレストベアに向かって駆け出す。

 さぁメーネ、君の真価を見せて貰うぞ。


 メーネは走りながら両腰の剣を抜刀すると、先頭のフォレストベアの前に飛び込む。


「グォウ!」


 フォレストベアは自分から飛び込んできた愚かな獲物を返り討ちにするべく、右の爪を振り下ろす。

 だが、メーネはスピードを落とすことなく姿勢を低く保ち、フォレストベアの右をすり抜けていく。

 そしてその後をフォレストベアの爪が通り過ぎる。


「この間と動きが全然違うな」


 メーネの動きには怯える様子は微塵もなく、寧ろ自信に満ちた動きだ。


「グァァァオゥ!?」


 しかもタダ通り過ぎただけではなかった。

 メーネは通り抜けざまに左手の剣でフォレストベアの胴体を薙いでいたんだ。

 普通の戦士が相手なら、腰の入っていない攻撃など毛皮を少し切るくらいだっただろう。


 だが相手はメーネ、『超人』のスキルを持つ少女の攻撃だ。

 ただ薙いだだけの攻撃でも、その一撃はフォレストベアの体を深々と切り裂いていた。


 先頭のフォレストベアが倒れた事で後続の動きが乱れる。

 メーネはその隙を逃さず、すぐさま後続のフォレストベアに切りかかった。

 力の入った一撃に二頭目のフォレストベアが倒れる。

 そして三頭目に切りかかった時、ミスリルの剣がパキンと音を立てて折れる。

 折れた剣はフォレストベアの体半ばで止まる。

 だがメーネは慌てる事無く反対側のミスリルの剣で逆袈裟に切ってフォレストベアを両断する。

 そして腰の鞘から予備の剣を引き抜くと、更に勢いを増してフォレストベアの群れを薙ぎ払っていった。


 「いやー、予想以上だな」


 目の前で凄まじい戦いを繰り広げるメーネは、以前ともに冒険したメーネとは別人だった。

 これまでのメーネは武器を壊す事を恐れるあまり、攻撃そのものを厭う様になっていた。

 それは彼女の心と体を竦ませ、繰り返される失敗の経験が彼女の態度を卑屈なものへと変貌させる結果となった。


 だが、今のメーネは違う。

 今のメーネは武器が壊れる事を恐れる理由がないからだ。

 どれだけ武器を壊しても、予備の武器が供給される。

 しかも武器の予算は俺持ちとくれば、メーネが全力を振るう事を恐れる理由が無かった。


 それがこの無双状態の戦いぶりであった。


「それにしても凄い。これが、スキル持ちの真価って奴か」


 俺は前回の戦いから、スキル持ちであるメーネが全力で戦える様になれば、『超人』スキルの力で数人分の戦いを出来るのではないかと踏んでいたのだ。


 だが彼女の力は俺の想像をはるかに超えるものだった。

 今メーネが戦っているフォレストベアという魔物だが、名前とその外見から熊の魔物である事は間違いない。


 そして熊は地球にも存在し、俺の実家の村でもふもとまで降りてきて畑を荒らす熊の存在には皆難儀していた。

 何しろ連中、巨大な体に分厚い毛皮、それに見た目の割に足も速いときたもんだ。

 銃があれば倒すのは簡単だろうと言われるかもしれないが、それだって距離と当たり所次第では熊の反撃を受ける。

 野生の獣は人間が思う以上に生命力が強く、攻撃が当たっても映画みたいに即座に死んだりはしないのだ。


 しかも今のメーネは銃なんて持っていない。

 武器は手にした二本の剣のみ、それで何頭ものフォレストベアとたった一人で互角以上に渡り合っているのだから、その力は尋常ではない。


「これは、王様達がスキル持ちを欲しがっていたのも分かるな」


 本来ならメーネも、このスキルを使って戦場で縦横無尽に活躍していたかもしれない。

 だが、この国の人間達には、メーネの力を100%活かすだけの財力が無かった。


「やっぱり世の中金か」


「アキナさーん! 終わりましたよー!」


 などと考えていた間に、メーネはフォレストベア達を全て討伐してしまっていた。


「お疲れ様ですメーネさん。全力で戦った気分はどうですか?」


 俺はメーネをねぎらいながら、彼女に感想を聞く。


「さいっこーです! 武器が壊れるのを気にせずに戦えるなんて、本当に夢見たいな気分です!」


 よしよし、メーネもご機嫌だな。

 そしてなにより、これで彼女は俺から離れられなくなった。

 武器が幾らでも使えるという快感を覚えてしまった彼女は、もはや俺というスポンサーの存在が無くてはならないものになってしまったのだから。


「それは何よりです」


「えへへ、アキナさんは私が絶対に守りますからねー!」


 こうして、幸先の良いスタートを迎えた俺達は、二回目の行商を気持ち良く終える事が出来たのだった。


 ◆


 そして、一月が経ったある日、俺達は王都のある場所を目指す。


「さて、それじゃあ行きましょうか」


「は、はい!」


 俺達が目指す場所、それはメーネが借金をした男の本拠地であった。


「さぁ、一括で借金を返して自由になりましょうか!」


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