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08 専属護衛と武器の山

 そして一週間が過ぎ、更に3日が過ぎた俺は、再び冒険者ギルドへとやって来た。

 ただし目的は仕事の依頼じゃない。


「……ああ、居た居た」


 俺はお目当ての人物を見つけて声をかける。


「メーネさん!」


「え? ……アキナさん!?」


 メーネは突然現れた俺に驚く。


「どうも、お久しぶりですって、言うにはまだ早いですね」


 俺が挨拶をすると、メーネも頭を軽く下げて挨拶をしてくる。


「ええと、私に何か御用でしょうか? あっ、もしかしてまた護衛の依頼ですか!?」


 期待を込めてメーネが聞いてくる。

 当たらずといえども遠からじだ。


「実はメーネさんにお話がありまして」


「私に、お話ですか?」


「ええ、損はさせませんよ」


「損と言う事はお仕事ですね!」


「ええ、詳しい説明は私の事務所でしましょう」


「分かりました!」


 ◆


「ここがアキナさんの事務所ですか? どちらかというと民家の様な」


 うん、その通りだよ。


「はっ!? まさか依頼というのは嘘で私を手籠めに!? お金で愛人にするつもりですか!?」


 何やらメーネがアホな事を言いだした。


「だ、駄目ですよ! そういうのは愛し合う男女がするものです!」


「そういうのじゃありませんから」


 まったく、飛躍し過ぎだ。


「メーネさんに依頼したいのはそんな事ではありません」


「じゃ、じゃあ何をするつもりなんですか!!」


 何もしねぇよ。


「その前に聞きたいのですが、メーネさんは私の依頼を終えてから冒険者のお仕事は順調ですか?」


「っ!?」


 俺の言葉にメーネがビクリと体を震わせる。

 その表情から、とても順調とはいいがたい様子だ。


「新しい武器はもう買われたんですか?」


「っ!」


 再びメーネの体がビクリと震える。

 やっぱり、また壊したんだろうな。


「どうやら、あまり順調ではないみたいですね」


 俺の言葉にメーネが泣きそうな顔になる。


「……はい、せっかく折れたミスリルの剣を買い取ってもらったのに、また新しい武器を壊しちゃいました」


 やっぱりなぁ。

 というか、あの頑丈さだけを考えて作られた金棒が折れたのだから、新しい武器が壊れない筈がない。

 ならばこれはチャンスだ。


「なら……メーネさん、俺の専属護衛になりませんか?」


「護衛……ですか?」


 メーネがキョトンとした顔になる。


「ええ、冒険者にその場限りの護衛として働いてもらうのではなく、専属護衛として個人的に貴方を雇いたいのです」


 それが、メーネをここに呼んだ理由だ。

 勿論同情心からなんかじゃない、ちゃんと俺なりのメリットがあるからだ。


「専属護衛って、どういう意味ですか? 護衛が欲しいのなら、ギルドに依頼を出せばいいのでは?」


 まぁそれも正しいんだけどね。


「私は現在この王都周辺のみで商いをしていますが、将来的には世界中を回って商売をしたいと考えています」


 実際には安全な土地を探して永住する為だけどな。


「けれど、そうなると冒険者を私の依頼に長時間拘束する必要があります。かといって、その土地その土地で護衛を雇いなおしていたら、いつか悪質な冒険者に裏切られないとも限りません」


 護衛が裏切るとか、娯楽作品のお約束だからな。


「だから専属の護衛として私を雇うと?」


「ええ、冒険者という仕事ではなく、護衛という仕事として私の部下になって頂きたいのです。勿論、様々な場所に行く為にも貴方の借金はこちらで肩代わりします」


「しゃっ、借金を!? それ本当ですか!? かなりの大金ですよ!?」


 突然の申し出にメーネは仰天する。

 っていうか、どんだけ借金してるんだよ。


「で、でもなんで私なんですか!? アキナさんも知っての通り、私はスキルの所為で武器を壊してばかりで、いつも足手まといになっているんですよ!?」


 あまりにも都合が良い話に、メーネは俺の言葉を信じられないみたいだ。


「そんなメーネさんだからこそ、俺は声を掛けたんですよ」


 そういって、俺は部屋の隅に掛けられていた布を剥がす。


「これを見てください」


「それは、武器ですか?」


 そう、メーネに見せたのは、山と積まれた武器だった。


「ただの武器じゃあありません。手に取ってみてください」


 そう言って俺は積まれた武器の一つをメーネに手渡す。


「……っ!? これ、ミスリルの武器じゃないですか!?」


 手にした武器がミスリル製と分かると、メーネが部屋の隅に積まれた武器を見る。


「ま、まさかそこにある武器も……」


「ええ、全部ミスリルの武器ですよ」


「ええーーーーっっ!?」


 驚きのあまり、メーネが大声をあげる。


「ミ、ミスリルの武器って凄く貴重なんですよ!? それがなんでこんなショボイ小屋にあるんですか!?」


 ショボイ小屋で悪かったな。


「貴方が私の専属護衛になってくださるなら、これらの武器を経費としてこちらで用意しましょう」


「え!? ホントですか!? あっ、でも壊れたら弁償しないといけないんですよね!?」


 うーん、疑り深いなぁ。

 とはいえ、深く考えずにあっさり受け入れるのよりはマシか。


「いえ、壊しても弁償の必要はありません。ただし、こちらからの条件を全面的に飲んでもらいます」


「じょ、条件ですか?」


 これが本命かと、メーネが警戒心もあらわに聞いてくる。


「まず一つ、仕事中は常に私の護衛として同行してもらう事」


「それは、まぁ護衛ですし」


「第二に、こちらが入るなと言った場所には絶対に入らない事」


「それも分かります」


「第三に、私の行く場所がどんなに危険な場所だろうとついて来る事」


「……ミスリルの武器を経費として用意してもらえるのなら、当然ですね」


 ここでようやく条件の良さの理由に納得してくれた。

 俺としては安全策をとるつもりだが、こう説明する事で、メーネに納得してもらおうという訳だ。


「三つ目の条件はいつも危険な場所に行く訳ではありません。ただ場合によってはかなり危険な場所にも行きますよという話です」


「な、成る程」


「護衛は一か月で金貨20枚」


「金貨20枚!? 本当にそれ、まっとうな仕事なんですか!?」


 まっとうだよー。俺的には。


「勿論犯罪行為を犯すつもりはありません。ただ、商売をやっている以上厄介事に巻き込まれる可能性はあります。取引相手の商人が全員善人とは限りませんからね」


「……そうですね」


 と言いつつ、メーネの目は貴方も怪しいですよねと語っている。


「貴方の借金は護衛報酬から毎月差っ引かせてもらいます。一体いくら借金をしているんですか?」


 ここで俺はメーネにゆさぶりをかける。

 彼女には借金があり、次に返済が滞ったら奴隷になってしまうという現実を思い出させたのだ。

 まぁ個人がしている借金だから、それほど多くは無いだろうしな。


「ええと……」


 しかし、ここでメーネが答えた金額はさすがの俺にも想定外の数字だった。


「金貨1000枚です」


「……は?」


「ですから、金貨1000枚です。借金が溜まりに溜まって、利息も凄い事に……」


 ……あー、変な利息率の借金をした所為で、利息が凄い事になったタイプの債務者かー。

 消費者庁辺りに相談した方が良くない?

 うん、

  この世界にそんなものないよな。


 だがこれは千載一遇のチャンスだ。


「ふむ、金貨1000枚ですか。まぁ問題ありませんね。次の支払いの時に纏めて支払ってしまいましょう」


 俺は平静を装ってそうメーネに告げた。


「ええ!? ちょっ、金貨1000枚ですよ! 1,000枚!」


「ええ、分かっています。金貨1,000枚ですよね。問題ありませんよ、支払えます」


「うそぉーっ!?」


 どうやら俺が金貨1000枚を一括で支払えるとは思わなかったんだろう。

 メーネが愕然とした表情になっている。


「ど、どれだけお金持ちなんですか!? こんなボロ屋に住んでいるのに……」


 だからボロ屋は余計だ。


「ここは雨をしのぐ程度の理由で暮らしているに過ぎません。それに中途半端な家よりも、ボロ屋の方が盗むものは無いと思うでしょう?」


「た、確かにそうですね」


 メーネは成る程と納得する。

 まぁ適当にでっち上げた理由だけどな。


「で、どうでしょう? 冒険者としてではなく、俺の専属護衛として雇われてくれますか?」


 俺が話を戻すと、メーネもまた身を正してこちらに向き直る。


「一つだけ答えてください。何で私なんですか? 先ほども言いましたが、私はスキルの所為で武器を壊してしまい、いつも足手まといになってしまいます。それなのにミスリルの武器をこれだけ用意して壊してもいいだなんて。どう考えても私を雇うメリットよりも出費の方が大きいじゃないですか!」


 確かに、メーネを雇った場合の出費は大きい。彼女の給料と武器代、それに溜まった借金も支払わないといけないのだ。特に武器代は雇った後でも増え続ける。

 ただの商人が雇うにはあまりにもデメリットが大きすぎる。


「そのスキルに期待しているからですよ」


「スキルに? でもこれは……」


 なおも自分を否定しようとするメーネを手で制し、俺は言葉を続ける。


「メーネさん。貴方のスキル『超人』 、それはとても凄いスキルです。でも貴方はそのスキルを活用する機会に恵まれなかった。だから貴女は自分のスキルに否定的だ。でもね、私はそのスキルに活躍する機会を与えたいんだ。貴方の力を、正しく発揮させたいんだ。だって、価値のあるものは、正しくその価値を認められるべきなんだから」


 そう言って、俺はメーネの手を優しく握る。


「メーネさん、私は貴方に武器を提供しましょう。貴方のスキルを万全に活かせる様に。そしていつか私は、貴方のスキルでも壊れない武器を仕入れるつもりです。そんな武器を、使ってみたくはありませんか?」


「っ……」


 メーネはフルフルと体を震わせるものの、言葉が出ないのか、ずっと黙ったままだ。


「俺はメーネさんのスキルの話を聞いた時、こう思いました。この人の力を正しく発揮させてあげたいと。誰も気付かない、活かせない貴方の価値を、私の下で開花させたいと思ったんですよ」


「っ!」


 メーネの目尻に涙が浮かぶ。


「どうですかメーネさん、貴方の価値を理解できる上司の部下になってみませんか?」


「……ほ、本当に私の力は役立たずな力じゃないんですか?」


「寧ろとても役に立ちますよ」


「無駄に強いだけの使いどころのない力じゃないんですか?」


「その強さを受け止める装備を用意して見せますよ」


「もう武器殺しなんて馬鹿にされずに済むんですか……?」


「勿論、その2つ名を笑って話せる思い出にしてさしあげますよ」


「……なりたいです。私、貴方の部下になって、自分の力を恨まないで済むようになりたいです」


「寧ろ好きにさせて見せますよ」


  メーネが大粒の涙を零す。


「私……貴方の専属護衛になります。貴方を……貴方を守る為に、全力で……戦います!」


「では交渉成立ですね。これからよろしくお願いします」


「はい! よろじくおねがいじますっ!!」


 感極まったメーネが涙だけでなく、鼻水まで垂らして頷いた。


「ほらほら、鼻水が出てますよ」


 そう言って、ハンカチで顔を拭いてやる。


「チーン!」


 あ、鼻かまれた。うわべったり。返すな返すな。

 何はともあれ、これで協力な護衛が手に入った。

 何より、借金の立て替えと、武器の補充をしてくれる唯一無二の雇い主として、俺はメーネになくてはならない人間となった。


 これでメーネはもう俺から離れられない。

 そして、これからメーネが武器を壊す度に、新たな武器を用立ててくれる俺という存在は彼女にとって大きな存在となるだろう。


 更に言えば、俺はメーネにとって、自らが疎んでいた力を唯一肯定してくれた存在だ。

 いうなれば唯一の理解者と言っても良い。


 ふはははははっ! 最高の上司の存在に心酔するが良い!

 俺が貴様をホワイト企業に就職させてくれるわ!


 ……うん、ちょっと冷静になろうか俺。


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[一言] スキルでも壊れない武器を探す前に スキルを制御できるようになろう(笑)
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