07 ドワーフの鍛冶屋とミスリルの山
「くっ、重い……」
よろよろと重い荷物を背負いながら、俺はある店を探して王都を歩いていた。
「っていうか、先に店を探しておけばよかったぜ……」
そしてようやく俺は目的の店を見つけた。
「剣の看板、多分あそこだ」
◆
「熱い!」
店内はモワッと熱気に満ちていた。
「何だこの暑さは!?」
周囲を見回すと、そこは店というよりは作業場という感じだった。
そして建物の中では、カーンカーンと金属を叩く音が聞こえる。
俺は薄暗い店内を見回し、店の奥に小さな人影を見つける。
「すみません」
その人物は、手に金槌を持って、何度も振り下ろしていた。
そして振り下ろす度に カーンカーンという音が鳴り響く。
「客か、ちょっと待ってろ」
低い男の声だ。
なんとなく邪魔出来ない雰囲気だったので、俺は言われた通りじっと待ち続ける。
それにしても熱い。
そしてもうしばらく経って、ようやく男は作業を終えたのか、立ち上がった。
「待たせたな。それで何の様だ?」
こちらを振り向いた男は、俺の半分程度の身長しか無いものの、逞しい肉体と、長いひげを伸ばしていた。
「もしかして、ドワーフ?」
そう、目の前の男は、いかにもゲームに出て来るドワーフの様な姿をしていたのだ。
「なんだ、ドワーフが珍しいのか?」
一瞬機嫌を損ねてしまったのかと焦ったが、男はそんな様子もなくキセルを吹かす。
「あ、すみません。私の故郷にはドワーフの方が居ませんでしたので」
「ほう、まぁそういう国もあるだろうな」
良かった、納得してくれた。
「それで、何の用だ? 武器が欲しいのか? それとも修理か?」
さすが職人は話が早い。
こういう連中は余計なおべっかが要らないのが良い所だ。
「……はい、まずはこれを見てほしくて」
そう言って、俺は背負っていた袋から、大量の折れたミスリルの剣を取り出した。
「これは……ミスリルの剣か!? だが、全部折れているのはどういうこった!?」
ふふふ、驚いているな。
そうさ、これは栽培スキルで栽培したメーネのミスリルの剣である。
ミスリルが金になると判断した俺は、それをすぐに量産したのだ。
「このミスリルの剣ですが、一本は直して、残りは溶かして他の武器にしていただけませんか?」
「まぁ、溶かして作り直すのは理解できるが、どこでこんなモンを手に入れたんだ? 何処かの古戦場から掘り出してきたのか? いや、その割には鞘や拵えが綺麗だな」
そらまぁついこの前まで盗賊が使ってたからな。
とはいえ、その辺りの事を答える義理はない。
「できますか?」
「そりゃあ出来るに決まってる。ただ剣もこんな有様じゃあ直すより鋳溶かして作り直した方が早いぞ」
ふむ、
プロがそう言うならそうするかな。
「勿論この剣よりも良い出来になりますよね?」
「当然だ!」
俺の挑発に、不機嫌さと自信を滲ませてドワーフが答える。
職人のやる気を刺激するには、プライドをつつくのが一番だ。
勿論出来た品を褒めるのを忘れてはいけないが。
「ではそれでお願いします。あと、溶かしたミスリルは一個だけインゴットにしてもらえますか」
栽培スキルを使う事を考えると、武器そのものよりもインゴットの方が良い時もあるだろうからな。
折れた状態の剣をそのまま渡さずに量産したのも、いろんな種類の武器に作り直してもらう為と、インゴットにしてもらう為だ。
俺だけじゃミスリルを加工なんて出来ないからな。
そういう仕事はプロに任せる。
「数が多いからな、仕事代として金貨20枚だ。材料持ち込みだから細かい金額はサービスしてやる!」
「分かりました」
そう言って俺が即金で金貨20枚を差し出すと、ドワーフは少しだけ驚いた表情を見せる。
「おいおい、前金で全額渡すかよ」
「ドワーフの鍛冶師を信頼しての事です。自分の仕事に自信があるのでしょう?」
「……へっ、挑発してくれるじゃねぇか! 良いぜ、気に入った! まずは一週間後に最高の剣を用意してやる! 残りは出来次第受け取りに来てくれ!」
「ではよろしくお願い致します」
そう言って俺が手を差し出すと、ドワーフもまた手を差し出してお互いに握手をする。
「へっ、妙な客がきたもんだぜ。おっと、名乗るのが遅れたな、俺はモードだ」
「ショウジ・アキナと申します」
ドワーフことモードに折れたミスリルの剣束を渡した俺は店を出る。
「ふー、上手くいった!」
ああいう頑固な職人タイプは、軽く挑発するくらいが丁度良いんだよな。
その上で報酬をバンと先払いで渡せば、こっちの事を気前の良いクライアントだと認識してくれる。
あと大事なのは、お前の技術を信用しているぞアピールをする事だ。
取引相手を信頼するのは商売の基本だからね。
というか信頼できない取引相手と仕事なんてしたくない。
地球に居た頃は、報酬が良いからって上が怪しい所から仕事を受けてきて、それが原因で支払いトラブルに何度もなったからなぁ。
特に最初だけ気前よく支払って、次回以降から理由をつけて支払いを渋る所は最悪だ。
この世界で商売をすると決めた俺は、そういう怪しい連中とは取引しないし、相応しい仕事をする職人には真摯に接するんだ。
俺がなりたいのは、搾取する側だが、それでも守るべき信義というものがある。
俺はこの世界で、そういう商人になるんだ。