60 魔女の故郷
「それで、どんなマジックアイテムを作ったんだ?」
あの後、モードに説教をされた事でサシャが冷静になったので、俺達はリビングでサシャが初めて完成させたマジックアイテムの性能について聞いていた。
「ふふふっ、これ自体はとても単純なマジックアイテムよ。本当に単純な魔法を発動するマジックアイテム。でも、とても大事な魔法なのよ」
何やら感慨深そうな様子でサシャは自分が作ったマジックアイテムを抱きしめる。
「ねぇショウジ君。このマジックアイテムの実験をしたいんだけど一緒に来てくれないかしら?」
「ん? ああ良いぞ。じゃあ外に出るか」
「待って待って」
俺が立ち上がって実験場に行こうとすると、それをサシャが制する。
「実験するのはここじゃないわ」
「ここじゃない? それじゃあどこなんだ?」
「あのね……」
立ち上がったサシャがちょっとだけ勿体ぶりながら俺に近づいて来る。
そして俺の腕に絡みつく様に抱き着きながこう言った。
「一緒に私の故郷に行ってほしいのよ」
「なっ!?」
「なんですってぇぇぇぇぇぇぇ!?」
と、何故か驚きの絶叫をメーネが叫んだのだった。
◆
「何でマジックアイテムの実験をするのにサシャさんの故郷に行かないといけないんですかー?」
これで何度目か、隣にいるメーネがそんな事をぼやき声を上げる。
「ふふふ、それは現地についてからのお楽しみー」
同じく反対側に座っていたサシャの方も同じ答えではぐらかす為に、メーネのフラストレーションは溜まる一方だ。
うむ、おかげで間に挟まれた俺は針のムシロです。
ちなみに馬車の運転はモードが行っており、フリューは我関せずと隅っこでゴロゴロしていた。
いつもなら用事が無い限り留守番している二人だが、今回はサシャの開発したマジックアイテムの実験を見る為についてきた。
何でもマジックアイテムの部品のいくつかはモードが作ったらしく、自分の作った部品が正しく作動するか気になるからという理由だった。
そしてフリューの方は単純に暇だったからが理由らしい。
最初の頃は森で留守番をしていた彼女だが、壊冥の森は魔物避けポーションが撒いてある家の周囲から離れるとかなり危ない為、気軽に散歩する事が出来なくてストレスが溜まるそうなのだ。
なのでそれくらいなら俺についてきた方が珍しい甘味が食えるだろうという事でついてきたとのこと。
ただ、それならこの状況をフォローして欲しいなぁ。
俺は二人に救いを求めるべく視線を送るが、二人共意図的にこちらを見ない様に視線を逸らす。
お前等、後で覚えていろよ?
「なぁ、サシャの故郷はどのあたりなんだ?」
俺は話題を変えるべく、サシャの故郷がどのあたりにあるかを質問する。
ちなみに現在の俺達は、壊冥の森から人間の国に出てエルフの国に近い街道を走っていた。
「私の故郷はエルフの国との国境境近くにある村よ」
「へぇ、エルフの国の近くなのか」
近いからってその村の料理も辛くないと良いけどなぁ。
「サシャさんの故郷ってどんな村なんですか?」
と、メーネも興味を持ったのか、サシャの故郷について質問する。
「何にも無い村よ。本当になーんにも無い村。食べ物も碌に無いし、水もそのままじゃとても飲めたものじゃないし、生きづらくて思わず飛び出しちゃう様な村よ」
なんと言うか、絵に描いた様な限界集落って感じの故郷なんだな。
「まぁ、それでも故郷なんだけどね」
そんなサシャの呟きを聞いた俺は、恐らく彼女が作ったマジックアイテムと言うのは彼女の故郷に何らかの関係がある品なのだろうなと感じるのだった。
◆
「ほら皆、村が見えて来たわよ!」
サシャの言葉に外を見ると、馬車の前方に村が見えて来た。
村は木と土で作られた壁で覆われていて、意外と物々しい雰囲気だ。
「結構防衛に力を入れているんだな」
「この辺りを統治する領主は国境付近の小競り合いの方が大事だから、こんな辺鄙な村に気を掛けたりしないわ」
つまりこの村の住民は自力で身を守るしかないって事か。
村に近づくと、入り口近くに立っていた櫓に登って監視をしていた見張りがこちらをに弓を向けながら声を上げた。
「村に何の用だ!?」
まだ敵対的行為もしていないのに弓を向けるのか。
ちょっと敵意が強くないですかね?
「旅人に変装した盗賊を警戒してるのよ。魔法使いやスキル持ちがある程度の距離まで近付いてきたら、冒険者でもない村人じゃ対抗できないもの」
ああ、そういうものなのか。
どうにもこの世界の当たり前にまだ慣れないなぁ。
「ここは私に任せて。私よ、サシャよっ!」
馬車からサシャが顔を出すと、物見櫓から弓を構えていた村人の表情が変わる。
「お前サシャか!?」
「ええ、だからその物騒な物は仕舞って頂戴」
「ああ、悪い悪い。今門を開けるから待ってろ。おーい、サシャが帰って来たぞ! 門を開けてくれ!」
どうも門の裏側にも門番が居たらしく、物見櫓の村人が指示を出すとすぐに門が開いた。
「さっ、入りましょう」
サシャに促され、馬車が村の中に入っていく。
「へぇ、ここがサシャの故郷か」
「馬車はここに置いてくれ。村の中を走り回られると困るからな」
「うむ、承知した」
門番に言われて、モードが馬車を指示された場所に止める。
「儂はここで馬車の番をしよう。実験する時は呼んでくれ」
「ああ、頼んだよ」
久々に馬車から降りた俺は、大きく伸びをして体をほぐす。
すると、建物の中や陰からこちらをチラチラと見て来る人影に気付いた。
「誰かしらあの人達?」
「お客さん?」
好奇心旺盛な子供達がこちらに近づこうとするが、大人達に掴まって連れ戻されている。
まぁ俺達はよそ者だからそういう反応になるのも仕方ないのかなぁ。
「久しぶりねカッツェ、エルク」
と、そんな大人達にサシャが手を上げる。
「……え? もしかしてサシャ!?」
「サシャだって!?」
サシャの名が挙がった事で、物陰から警戒の視線を向けていた村人達が声を上げる。
「ええ、そうよ。久しぶりね皆。それとも、私の顔忘れちゃったかしら?」
「本当にサシャなのか!?」
「おいおい何年ぶりだよ」
村人達は俺達への警戒心を無くして、サシャの下へとやってくる」
「うふふ、久しぶりね」
「ホント久しぶりよ! 今まで何をしていたの!?」
「ねぇねぇ、あの人達サシャの友達なの? もしかしてあっちの男の人は旦那さん!?」
「違います!」
その質問に関してはメーネが強い口調で否定する。
って、そんなはっきりと否定しなくてもいいじゃんかよ。
おじさん切なくなっちゃう。
「「「あらあらまぁまぁ」」」
けれど強い口調で否定したメーネを村の情勢陣がニマニマと笑みを浮かべながら見つめる。
「な、なんですか!?」
「何よサシャ、随分と面白い事になってるじゃないの! 詳しい事教えなさいよぉー!」
「こらこら、純真な女の子をからかうんじゃありません」
俺とメーネとの関係を聞き出そうとした友人らしき女性の額を軽く小突くと、サシャは手を広げて興奮する村人達を征した。
「ちょっと井戸の事で帰って来たの。村長は生きているかしら?」
「おう、まだ生きておるぞ」
そんな声が聞こえたかと思うと、村の奥からよぼよぼの老人が姿を現した。
うん、いかにも村長って感じの爺さんだ。
「久しいな。他の連中の様にもう戻ってこないかと思ったぞ」
「ふふふ、ちょっと試したい事があってね」
そう言うとサシャは懐から例の新型マジックアイテムを取りだす。
「井戸でちょっとした実験をするつもりなの。構わないかしら?」
「井戸で? 何をするつもりじゃ? あの井戸の水は使い物にならんぞ?」
「だから試す意味があるのよ」
何やら二人にしか通じない会話をされているなぁ。
だが、会話から察するに、サシャのマジックアイテムというのは、その井戸をどうにかする為に作られたっぽいな。
でなければわざわざこんな所まで実験には来ないだろうからな。
「まぁ好きにせぇ」
「ありがと村長」
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