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58 鋼の恩義

「陛下、大柱の補修計画ですが、予定通り鉄喰らいに開けられた穴を利用して点検用の通路を作成したします」


 儂は家臣より鉄喰らいによって大柱に開けられた大穴の報告を受けていた。


「うむ、任せる」


 今回の事件の真相を考慮し、大柱の補修はただ直すだけではなく今後のメンテナンスも考慮した形状に改修する事とした。


「進捗はどうだ?」


「それが、大柱の奥は鉄喰らいめが柱を食べる為に出したと思われる大量の蟻酸が水たまりが出来ておりまして、それの排除もしないと作業に移れぬ有様です」


「厄介だな」


 鉄喰らいはその名の通り鉱石を溶かす程強力な蟻酸を出す。

 故に蟻酸を取り除かねば大柱が溶けてしまうので面倒だ。


「それと鉄喰らいが開けた穴ですが、どうやらヤツめ地下から穴を掘ってやってきたようです」


「地下だと?」


「はい、大柱のほぼ中央にぽっかりと穴が開いていたそうです。おそらくはそこから入ってきたものと」


 やれやれ、地面の下からとは、それではたとえ頑強な城壁を建てようと進入を防ぐ事はできんな。


「そして我々に見つからぬよう、大柱を喰らって成長していたという訳か」


 よもや絶滅したと思われていた鉄喰らいが生き延びていただけでなく、あそこまで成長しておったとは。


「軽く調査をした所、穴はエルフの国の方向にのびていたとの事です」


「ほう、ではあの鉄喰らいはエルフの策略と?」


「いえ、流石にそれは無いかと。過去の鉄喰らい討伐ではエルフも共に戦いました故」


「であろうな。だが逆に考えると、エルフの国の地下にも鉄喰らい共が潜んでいるかもしれぬと言う訳か」


「可能性はありますな」


 もしかしたら我々だけの問題ではなくなるかもしれんな。


「穴がエルフの国まで続いているようなら、連中にも共同調査を要請しろ。地下とはいえ、他国に無断で侵入してはトラブルの元となる」


「ですな」


 鉄喰らいだけでも面倒だと言うのに、ここにエルフまで敵に回しては叶わん。

 やれやれ、第二、第三の鉄喰らいが残っているかもしれぬなどと、随分と頭の痛くなる話だ。


 報告を終えた家臣達が現場に戻ってゆく。

 補修だけでなく調査も必要とは、まったくもって面倒くさい。


「それにしてもとんでもない連中が来たものだ」


 儂は、補修作業が続けらえる大柱を見ながら、ここ最近に起きた数々の事件を思い出す。

 まず最初に儂等ドワーフの心の拠り所にして、文字通り国の屋台骨である大柱が謎の崩壊を始めた。

 そしてその原因は、絶滅したはずの鉱石を喰らう魔物鉄喰らいによるものであった。


 いつから潜んでいたのかはわからぬが、大柱に巣食っていた鉄喰らいによってあわや儂等は町ごと生き埋めになる所であった。


 だが幸いにも、大柱を補修する為のアダマンタイトを納めに来た商人達の協力で鉄喰らいの撃退に成功した。

 もっとも、本当の危機はその後であったのだが。


 しかしその危機も商人達の協力によって解決する事となった。

 正直言えば気になることだらけだ。


 あの鉄喰らいを易々と撃退した護衛の少女といい、どこからか大量という言葉では語りきれない量のアダマンタイトを持ち込んできた謎の商人。

 間違いなくまっとうな手段で持ち込んだのではないだろうな。


「となれば、おそらくはスキルであるか」


 そう、あの状況であれほどの量のアダマンタイトを用意する方法と言えばスキル以外にありえん。

 となればあの少女の力もスキルなのであろうな。


「王としてはあの者達をなんとかして取り込みたいところだが……」


 あの商人達は儂等にとって恩人と言える。

 だが同時にその力が儂等に向けられたならば、相当な被害をこうむる事だろう。

 特に周辺国に侵略の手を伸ばし続ける人間の国などに協力されたら溜まったものではない。


 ゆえに王として儂が行うべきは彼らの排除か抱え込みだ。


 しかし……


「下手な真似をすればさっさと逃げるか即座に反撃してくるであろうなぁ」


 うむ、間違いない。

 あの状況で躊躇いなく自分達の手札をさらけ出して見せたのも、それがスキルの力である事がバレたところで痛くもかゆくもないという自信の表れであろう。


 現にあ奴は儂にこういってきた。

 お前が必要なのはアダマンタイトだけだろう、と。

 お前が問題にするべきは国と民を救う事だろうと。


 平然と言い切ったのだ。

 まがりなりにも王である儂に向かってな。


 正直言えば痛快であった。

 儂にこんな物言いを出来る者がいた事に心底驚いた。

 いや小言を言う連中は山程おるがな。

 やれ振る舞いが王らしくない、やれ王が現場に出てどうすると。

 ああいや、話が脱線したな。


 そしてあの商人は、余計な手出しをしないのならアダマンタイトなぞいくらでも売ってやると言ってのけたのだ。

 まったくもってその通りだと思わず唸らされてしまったわ。


 確かに、とりあえずの危機は去ったものの、まだまだ大柱の修理には多くのアダマンタイトが必要だ。

 ならばその力利用させてもらうとしよう。

 望み通り、こちらは一切お前達の邪魔はせん。


 だからその代わりに儂も利益を享受させてもらうぞ?

 儂等に利益を与えると、お主が言ったのだからな。


 そうそう、あの者は商人であったな。

 ならば与えた土地に店を建てる時は優秀な職人を融通してやる事にしよう。

 商人ならば店がある方が良かろう。


 あれほどの量の物資を扱うのだ、どうせ他の国にも店を持っている事だろうしな。

 この際我が国もあの者のお得意になるとしよう。


 状況が状況な為に、儂はあの商人達に対して消極的ともいえる程手を打たなかった。

 そしてその選択は正しかったのだと、後に儂は知るのであった。


 ◆


 ドワーフの国でアダマンタイトの量産を始めてから二週間が過ぎた。

 その頃には大柱に空いた巨大な穴も殆ど塞がっていて、完全な修理まであと少しとの事だった。


「いや本当にお前さんに会えたのは幸運だったぜ」


「ああ、最初は本当に必要な量のアダマンタイトを集められるのかと不安だったが、ふたを開けて見ればこの通りだ」


 アダマンタイトの補充にやって来たガストンとバリアンが何度目か分からない感謝の言葉を口にする。


「あはは、ちゃんとお代は戴いていますからそう何度もお礼を言わなくてもいいですよ」


「いやいや、これはこの町に住むドワーフ全員の感謝の気持ちだからな。毎日言ってもまだ全員分足りねぇ」


「うむ、その通りだ」


 おいおい、毎日礼を言いにやってくる気かよ。

 ちなみにガストンとバリアンは元々旅人と言う訳ではなく、アダマンタイトを集める為に派遣された戦士団の一員だったらしい。


 なので俺が必要な量のアダマンタイトを用意できると分かってからは戦士団に復帰して、物資の搬送の為に俺の畑と大柱を毎日行き来していた。


 ちなみにその物資輸送に使っているのはウチの新型馬車だ。

 大柱倒壊の危機を免れて余裕の出たドワーフ達がウチの馬車に興味を示し、ドワーフ王が研究したいから一個売ってくれと言ってきたのでサクッと売った。


 ちなみにエルフの国でもやったライセンス契約についても説明をし、一から時間を変えて開発するよりは楽だとドワーフ王も契約を承認してくれた。

 そんな訳で売りつけた馬車の一台は、研究用としてあっというまに解体されていた。


「ほうほう、成る程。ここがこうなっているのか」


「こりゃあ面白い。だがここをこうすればもっと良くなるんじゃないのか?」


「ならここもこうするべきだろう」


 と、馬車を研究していたドワーフ達がああでもないこうでもないとただ作るだけでなく、改造案まで出し合っているのにはちょっと驚いたが。


 っていうか、このままだと馬車が魔改造されすぎて、ライセンス品と別物になっちまわねぇ?


「いや、それをやるなら、ここもこうするべきだろう!」


 と気が付いたら何故かモードまで馬車の改造案に参加してるんだが。

 何やってんだよアンタ。

 ちなみにモードだが、新型馬車の開発に携わっていたという事で、これまで接点のなかったドワーフ達からも一目置かれるようになったらしい。


「ほほう、ではここをこうするともっと早くなるのではないかな?」


「おお、それは良いな! 強度と速度を両立するとはやるなお前……って陛下!?」


 突然会話に加わって来たドワーフ王に気付いてドワーフ達が慌てて跪く。


「かまわんかまわん。仕事に戻るが良い」


「「「「「はっ」」」」」


 ドワーフ王が手を振ると、ドワーフ達はすぐに立ち上がって仕事に戻っていった。

 皆若干緊張気味だけど。


「さて商人、いや確かショウジと言ったか」


「はい、私に御用でしょうか?」


「うむ、お前についての処遇をどうするかきまったのでな」


 俺についての処遇?

 何か面倒そうな物言いだな。国の専属になれ、ならなきゃ捕らえるぞとかそんなのか?

 でもそんな事言う人間、いやドワーフには見えなかったんだがなぁ。


 視界の端に移ったメーネ達がちょっと緊張気味な反応を見せている。

 慌てるなよー?


「お前達はこの王都を救ってくれた恩人だ。本来なら英雄としてパレードを行った後に爵位を授けるのが筋なのだが……」


 とそこでドワーフ王は大げさに肩をすくめるジェスチャーを行う。


「だがお前はそう言った堅苦しい事は好まんのであろう?」


「ええ、あくまでも私は商人ですので」


「儂としては名誉爵位くらいは受け取って貰いたいものなのだがな。爵位があれば、トラブルに巻き込まれた際に我が国が助けるぞ?」


「いえ、陛下のお手を煩わせるような真似はしたくありません」


 まぁ国がバックに立ってくれるのは確かに便利かもしれないが、それをするとドワーフ国のお手付きだと宣伝する様なもんだからなぁ。


 商売をする際に俺の背後にドワーフ王の存在が感じられたら逆に纏まらなくなる取引があるかもしれない。

 あとトラブルを解決した借りを盾にドワーフ国から何か面倒な頼みごとをされかねないしな。


 同じ面倒を商売として受けるのなら、報酬が同じでも別件で国の援助を受けられる方が得かもしれないが、誰かの下に立つのは御免だ。


 目先の利益に飛びついて初志を見失っては本末転倒である。

 だから俺の対応はやはり報酬を受け取るだけのビジネスライクな関係が良いだろう。


「そうか。では仕方が無いな。代わりと言っては何だが、お前に与えた土地に店を建ててやろう。我が国で商売をしたいのであろう? ならば儂の名において優秀な職人を集めてやる。むろん金の心配はいらん。鉄喰らいを倒した褒美として全額支払おうぞ」


 へぇ、エルフの国でもそうだったけど、ドワーフの国も太っ腹だなぁ。

 俺と仲良くするメリットが高いと知ると、あっさりとお互いの接点となる店を与えて来た。

 商人である俺にとって一番嬉しい物が、商品を販売する為に必要な店であると理解している証拠だ。


「それとアダマンタイトの代金であるが、こちらは相場の二倍で買い取ろう」


「二倍ですか!?」


 すげえな! 二倍だぞ二倍!


「とはいえ、これだけの量のアダマンタイトを買い取ると国庫が空になってしまう。故に一部は貨幣ではなく現物での支払いになるが良いか?」


「はい、構いません」


 まぁ無理に金での支払いを要求する必要もないだろう。

 寧ろ現物支払いなら、ドワーフの国の特産品とかを色々とゲット出来て栽培スキルで増やせる商品が増えるから、むしろ金を貰うより得かもしれない。


「支払いの一部にはマジックアイテムも居れるとしよう。お前達はマジックアイテムを求めておるのだろう?」


 何か向こうでサシャがウンウンと嬉しそうに頷いているんだが、王様マジックアイテムを欲しがってるのは俺じゃなくて向こうのお姉ちゃんの方ですよー。

 まぁマジックアイテムも高値で売れるから良いんだけどね。


「しかしマジックアイテムは貴重な品なのでは?」


「……っ!!」


 向こうでマジックアイテム大好きな人が「バッカお前! 余計な事言うなよ!」って顔して睨んで来たけど無視だ。


「構わん、どうせ宝物庫の肥やしになっている様な品ばかりだ。本当に外に出せない物以外はこの機会に放出してスッキリするつもりだ」


 断捨離ですか王様?


「それにだ、いずれは儂等ドワーフが古代のマジックアイテムを超える道具を作るつもりだからな。過去の遺産などに執着するつもりはない」


「っ!?」


 向こうに居る人が「ライバル出現!? って顔になってる。

 ちょっと面白過ぎないあのお姉さん?


 それにしても人間の国と違って大盤振る舞いだなぁ。

 人間の国は食糧難だった癖に、俺のスキルの評価が町はずれのボロ屋と畑だけだったからなぁ。

 もし俺の素性とスキルがバレても、人間の国よりはマシな待遇で雇って貰えるかもしれないな。

 まぁバラす気はないけど。


 ともあれ、こうして俺は更なる大金と売り物を手に入れ、更にエルフの国に続いてドワーフの国にも拠点が出来たのだった。


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