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57 大樹の支援

 そして補修を始めて丸一日が過ぎた頃、王都全体に大きな振動が起き始めた。


「くっ、やはりだめだったか」


 残った者達が不眠不休で大柱の補修を続けていたが、資材を使い切る前に大柱に限界が訪れる方が先だった。


「若い者はすぐに逃げろ! ワシ等はギリギリまで補修を続ける!」


「もう間に合わん! なら最後まで仕事をするだけだ!」


 やれやれ、ドワーフってのはワーカホリックな種族なのかね?

 こんな時ぐらい命を優先すればいいだろうに。


「フリュー!」


「うむ、儂の出番じゃな 精霊達よ、偽りの大地を支えるのじゃ! プラントピラー!」


 フリューが精霊魔法を発動させると、突如大柱の周囲から幾つもの植物の芽が飛び出した。

 そして植物の芽はみるみる間に巨大な樹へと成長し、大柱を支えながら瞬く間に地下都市の天井まで伸びた。

 何本もの大樹が大柱と天井を支えたお陰か、地下都市に鳴り響いていた音が小さくなる。


「ふーっ、これでしばらくは保つじゃろう」


 地下都市の天井を支える様な大樹を何本も生やした事で、相当疲れたのだろう。

 フリューは倒れる様に地面に転がる。


「お疲れ様フリュー」


「うむ、後はお主等で何とかせぇよ。それと後でホイップクリームを山盛り用意せい」


 クリームだけ山盛り食うって気持ち悪くならないか?

 ともあれこれで時間は稼げたし、こちらも頑張るとするか。


「商人! 今のはお前達がやったのか!?」


 おっと、驚いたドワーフ王達が何事かとこちらにやって来た。


「フリュー、説明は任せた。俺は準備に戻るからな」


「あっ、ずるいぞお主!」


 俺はドワーフ王に掴まって事情を説明させられているフリューを置いて、畑へと戻っていった。


 ◆


 鉄喰らいが現れて数日が過ぎた。

 フリューが生やしてくれた大樹のお陰か、今の所大柱が倒壊する気配はない。

 そしてドワーフ達の不眠不休の努力の成果か、かなりの急ピッチで大柱の補修が進められていた。

 アダマンタイトで大柱に走った無数の亀裂を埋めつつ、鉄喰らいの開けた穴を小さくして柱の強度を増す方向で補修しているそうだ。

 ただ、モード曰く鉄喰らいによって開けられたあの大穴は完全には埋めない事にしたらしい。


「今回の事件の原因は、大柱の内部に巣食っていた鉄喰らいが原因だからな。今後同じような事が起きない様、定期的に内部を検査できるように通路を作る事にした」


「急いで修理しないといけない割には後の事まで考えながら補修してるんだな」


「フリューのお陰で多少猶予が出来たのと、他の連中が寝食を惜しんで補修作業に没頭してくれたおかげで後の事を考えるだけの余裕が出て来たのさ」


「それってつまり」


 ニヤリとモードが笑みを浮かべる。


「ああ、何とか大柱倒壊の危機は脱した。あとはこのまま補修を続けていけば、大柱の完全な補修が完了する」


「やったなモード!」


「ああ、お前さんのお陰だ」


 俺とモードは互いの手を上げてハイタッチをする。

 と言っても人間とドワーフの身長さがあるので、ハイタッチするのはモードだけだが。


「その件についてだが、是非儂にも事情を教えて貰えんかな?」


「「うぉっ!? 陛下!?」」


 そんな俺達の背後から、突然ドワーフ王が声をかけて来た。


「じ、事情と言いますと?」


 おいおい、突然後ろに現れてびっくりしたじゃねぇか。


「いやなに、部下からの報告でお前の所から納品されるアダマンタイトの量が明らかに多すぎるという報告を受けてな」


「おや、そうでしたか?」


「うむ、そうでしたよ。本来ならここまでの補修だけでも納品された分の二倍近いアダマンタイトが必要だったそうだ。だがお前のとこのやたら怪力の娘が運んでくるアダマンタイトはいつまで経っても品切れになる気配もなく次々と運ばれてきたそうではないか。これはいったいどういう事だ? あの囲いの中では何をしておるのだ?」


 ううむ、ちょっとばかしやり過ぎたか。

 だが、必要な量のアダマンタイトを用意するには、こうするしかなかったのも事実だ。

 さて、どうしたもんかな。


「……陛下、それは陛下にとって必要な事でしょうか?」


「何っ?」


 王である自分が質問したというのに、アンタその質問になんか意味あんの? と逆に聞き返されてドワーフ王が目を丸くする。


 まぁ普通に考えれば国王にこんな口に聞き方したら不敬罪で死刑一直線だが、どうもこの王様そういう貴族として傅かれるのを面倒くさがっている感じなので、この対応で行けそうだと判断したのだ。


「陛下、陛下にとって何より重要な事は国を支える大柱の補修を完成させる事ではありませんか? その為なら、アダマンタイトの数がどうこうなど大した問題ではないのでは?」


「……ぬっ!?」


 あまりにもぶっちゃけた発言に、ドワーフ王が驚いて息を飲む。

 そして何とも言えない感じに眉間に皺を寄せながら何やら自問自答をし始める。


「…………くはっ!」


 と、百面相をしていたドワーフ王が噴き出すように笑い声をあげた。


「はははははははっ! 確かにその通りだ!」


 ドワーフ王は心底愉快そうに笑い続ける。


「確かに確かに、お前の言うとおり今の儂に必要なのは大柱の補修を完了する事だけだ。ああ、そうであるな。確かにお前がどのような手段でアダマンタイトを集め続けているかなど、その問題の前では些細な事だとも!」


 よっしゃ納得してくれた!

 やっぱこの王様話が分かるわ。


「良いだろう。詰まらん事を気にするのは止めだ。その変わり集められるだけアダマンタイトを用意せよ。先の約束通り、相場以上の値で買い取ろう!」


「ははー、ありがとうございます国王陛下」


 こうして俺はドワーフ王の追及を回避し、相場以上の値でアダマンタイトを売る事に成功したのだった。

 ……はー、今回の取引は精神的に疲れたわ。


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