56 緊急再建開始せよ
「さて、鉄喰らいを倒したがこれからが大変だぞ」
既にドワーフ達は鉄喰らいの巨体を解体して大柱からどかす作業をしている。
同時に納品されたアダマンタイトを運んで急ぎ大柱の補修作業を再開をしていた。
いや本当に動きが早いなドワーフ達。
それも坑道拡張の際の魔物との遭遇が日常茶飯事なのが理由だろう。
「あとは大柱が倒れるのが先か、修理が完了するのが先かのスピード勝負だな」
ここまでくれば俺達に出来る事はほとんどない。
「おお、ここに居たか!」
と一段落した所でやって来たのは、鎧に身を包んだドワーフ王だった。
その鎧姿はいかにも貴族といった華美な姿ではなかったが、その洗練された形状には機能美を感じさせる。
「これはドワーフ王陛下」
「ああ、堅苦しい呼び方は不要だ。お前達は王都の恩人だからな」
「では陛下と」
「……まぁそれでよかろう。あまり楽にさせると大臣達がうるさい故にな」
ドワーフ王がフランク過ぎて部下が苦労しているんだろうなぁ。
「今回は本当に助かった。お前達が手を貸してくれたおかげで、最小限の被害で鉄喰らいが倒せた。それに部下を治療してくれた事も感謝する。おかげで多くの命が助かった」
「いえ、お気になさらず。ドワーフ国は私にとって大切な取引先ですから」
「はははっ、ならばアダマンタイトの代金は期待しておけ。相場以上の値で買う事を約束しよう。それと今回の礼は別で出させてもらう」
どうやらドワーフ王は結構義理堅いらしいな。
例ならアダマンタイトの買い取り額アップだけで良いだろうに。
「なんなら貴族になるか? お前達なら子爵の地位くらいやるぞ?」
「いえ、貴族の地位に興味はありませんので」
貴族の地位とか面倒事の匂いしかしないのでパスでお願いします。
一部の国とだけ仲良くなると、後々面倒くさそうだからな。
あと商品の値段にも考慮しないと行けなくなるのは却下だ。
俺はあくまでも商人として大儲けしたいんだからな。
「そうか、まぁそれも良いだろう」
ドワーフ王も本気で貴族に誘っていた訳ではないらしく、あっさりと引き下がる。
「ところで、大柱は修理出来そうですか?」
ここに来るまでは材料さえ足りれば何とかなるって話だったが、鉄喰らいが大暴れして更に柱がダメージを負ったこの状況ではどうなるかちょっと予測がつかない。
「鉄喰らいが姿を現した穴から大柱の内部を調査させている。その答え次第ではちと厳しいな」
だがその表情に楽観は無い。
寧ろ最悪の状況を想定しているのか、眉間のシワが険しくなっていた。
「陛下!」
と、そこに鎧を着たドワーフ達がやって来る。
「どうであった?」
「それが……大柱の中は予想以上に状態が悪く、恐らくですが長い間あの鉄喰らいに内部あら食い荒らされていた模様です」
「……そうか」
嫌な予感が当たってしまった事に、ドワーフ王が溜息を吐く。
「今あるアダマンタイトの在庫でどれだけの補修が出来る?」
「正直言いまして、内部の損傷の所為で当初の想定以上にアダマンタイトが必要です。最優先で補修が必要な場所を優先すればある程度時間は稼げますが、所詮は時間稼ぎです。数日以内にアダマンタイトを最低現在の貯蓄量の4倍は補充する必要があります」
「4倍だと!?」
そこまでとは思っていなかったんだろう。ドワーフ王が驚きの声をあげる。
というか今の貯蓄量の4倍ってかなりの数字だよな。
俺達が納品したアダマンタイトでさえかなりの量だった。それプラス他から集めたアダマンタイトとあらかじめ貯蓄してあった量を足した上での4倍だ。
「……やむを得んか」
と、そこでドワーフ王が沈痛な声で何かを決意する。
「急ぎ民に避難する様指示を出せ。王都を放棄する」
「誠ですか陛下!?」
町を放棄すると言われ、ドワーフ達が驚愕の声をあげる。
「民の命には代えられん。急ぐのだ、時間が無いぞっ!」
「……はっ!」
ドワーフ達は苦渋の表情を浮かべつつも、ドワーフ王の指示に従う。
「陛下、陛下もお早く避難を」
家臣のドワーフ達が避難誘導を開始すると、側近とおぼしきドワーフ達がドワーフ王にも避難を勧める。
だがドワーフ王は首を横に振ってそれを拒絶した。
「いや、儂は最期まで大柱の補修を行う」
「な、何をおっしゃいます陛下!? 陛下はこの国の指導者なのですぞ!?」
驚いた側近達がドワーフ王を諫めようとするが、ドワーフ王は彼等の言葉に決して頷こうとはしなかった。
「王だからこそだ。偉大なる先祖達がつくりあげた都市を棄てる事なったのは儂の責任だ。ならば最後までこの国の王として、儂等の誇りである大柱の補修はせねばならん」
「陛下……」
ドワーフ王の言葉を聞き、俺はこの国に来る時に見た壁画の事を思い出す。
かつて世界で巻き起こった災害から身を守る為に、ドワーフ達は地下に国を作った。
そんなドワーフ達にとって、この町はただ自分達が住む場所という以上の意味を持つのだろう。
ドワーフ王の意思は堅いと知った側近達は、これ以上の説得を諦めると、ドワーフ王の前に跪いた。
「承知いたしました。ならば我等も共に。老いたとはいえ、我等も職人。最後の時まで陛下と共に我等が誇りを守り抜きましょうぞ」
「……良かろう、許可をする」
一瞬何かを言いたそうだったドワーフ王だったが、その言葉を飲み込むと側近達が最後まで残る事を許した。
そして話は終ったとばかりにこちらに身を向けてくる。
「済まぬな。報酬は弾むと言ったがそれどころではなくなってしまった」
ドワーフ王がスマンと頭を下げて来る。
おおぅ、王様に頭を下げられちゃったよ。
「いえ、この状況ですからお気になさらないで下さい」
さすがにこの状況で奮発してくれとは言えんわ。
「代わりにこれをやろう。国一番の職人である儂が打った逸品だ。それなりの値にはなるぞ」
と言ってドワーフ王が手にしていた戦斧を差し出してくる。
いや、気持はありがたいがそんなクソ重たそうな武器持てねぇよ。
売るにしても買い手が居ないから、栽培スキルで増やすメリットもねぇときたもんだ。
「ん? 待てよ?」
「む? 何だ? どうしたのだ?」
人が居ない、スキルで増やす……
これ、イケるんじゃね?
「あの陛下、その斧の代わりに欲しいものがあるのですが……」
「何っ? 儂の渾身の逸品が要らんのか? いやまぁ、確かにお前には使いづらいかもしれんが……」
いやそもそも使えねぇし。
あとあからさまに残念そうな顔すんなよ。
そんなに自分の作った戦斧に自信があったんかい。
「まぁ良いだろう。お前達は我等の恩人なのだからな。何が欲しい? 今なら何でもくれてやるぞ?」
王都が崩壊する以上財宝を抱えていても意味が無いと王は気前よく許可をくれる。
まぁそんな心配は不要なんだが、ここは素直に甘えておこう。
「はい、実はこの町に土地がほしいのでございます」
「何っ!? 土地だと!?」
いきなり何を言いだすんだコイツはという顔でドワーフ王がこちらを凝視してくる。
「話を聞いていなかったのか? 王都は、大柱はいつ崩壊するか分からぬのだぞ?」
「ええ、聞いておりました。そのうえで言っているのです」
「……むぅ」
ドワーフ王は不可解極まりないと言った様子で俺を見て来る。
「それと場所はアダマンタイトを貯蔵している土地を望みます」
「何だと!?」
ドワーフ王はもう分けわからんと言った顔になって眉を潜ませる。
「それと、アダマンタイトの管理を我々にお任せいただきたいのです。物資の現場への搬送もうちの馬車と従業員をお貸ししますので」
「本当にお前は何をするつもりなのだ? 全く理解が出来ぬぞ」
ははは、そらそうだ。
土に埋まる土地をくれと言い出したり、これから使う資材の管理をさせてくれと言ったり、ドワーフ王でなくとも首をかしげるのは当然だろう。
「ご安心を。絶対に損はさせません。寧ろ陛下にはこれ以上ない程の利益をご提供する事を約束いたしますよ」
「利益だと……?」
この状況でどんな利益が得られるのかとドワーフ王は眉間にシワを寄せて考えるが、やがて考えるのを止めたのか、大きく溜息を吐いて肩を落とした。
「分かった分かった、好きにするがよい。どうせ失敗しても全てが土に埋まるだけだ。お前こそ巻き込まれて死んでも恨むでないぞ」
「ありがとうございます陛下」
よっしゃ言質とった!
「メーネ! サシャ! モード! フリュー! これから大仕事だ! 手伝ってくれ!!」
メーネ達に声をかけると、近くで撤収準備をしていた従業員達がやってくる。
「旦那様、私達はどうすればよろしいしょう?」
「そうだな……」
うーん、正直言って俺のスキルの事を知らない従業員は下手に仕事を手伝わせられないんだよな。
「皆は馬車でドワーフ達の避難を手伝ってくれ。料金は取らなくていい。国境あたりまで運べば王都の崩落に巻き込まれる心配もないだろう」
「分かりました! 旦那様もお気をつけて!」
俺の指示を受けた従業員達がすぐに動き出す。
こういう時、素直に指示に従ってくれるのは助かるな。
いちいち説明する必要が無くて楽だ。
「ショウジさん、私達はどうすればいいんですか?」
従業員達への指示出しが終わるまで待っていたメーネ達がやって来る。
「ここに畑を作る。そのためにも中を見られない様にフリューは精霊魔法で植物を操って垣根を作ってくれるか?」
「うむ、まかせるが良い」
「メーネは土地を耕してくれ」
「分かりました!」
「モードはドワーフ達に畑の中に入らない様に指示をして、すぐ修理に使う分のアダマンタイトを外に出しておいてくれ」
「分かった」
「サシャはポーションを作って重傷者の治療に当たってくれ。必要な材料の代金は俺が出す」
「はいはい、お姉さんにお任せよ」
皆俺が何をするのか既に分かっているので余計な事は聞いてこない。
「それじゃあ追加在庫の発注といきますか!」
まぁ実際には再生産だけどな。