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55 女王討伐作戦

「よし、荷物の受け渡し完了だ!」


 全てのアダマンタイトを資材置き場に運び終えた俺達は、安堵交じりの歓声を上げる。


「あとはあっちの問題が解決すればなんとかなるかな?」


 俺は今なおドワーフの戦士団達が戦っている大柱を見る。

 ここからじゃあ詳しい戦況はよくわからないが、敵である巨大な鉄喰らいの負傷の度合いから戦いの終わりがそう遠くはないと感じていた。


「だいぶ傷を負っているな」


 積み下ろしの終わったモード達も戦況を見守る様に呟く。


「あれだけ攻城槌を撃ち込まれたんだ。もう先は長くない」


 ガストンの言う通り、ドワーフの戦士団達は俺達が荷物の受け渡しをしている間にかなり健闘していたらしく、何本もの攻城槌が鉄喰らいの巨体に打ち込まれていた。


「むぅ、俺達も参加したかったものだな」


 と、少し残念そうなのは、戦士のバリアン。


「伝説の鉄喰らいと戦ってみたかったのだが……」


 どうやら戦士として、未知の相手の強さが気になったらしい。


「っていうか、あんなデカブツとまともに戦ったら死にますって」


 なにせ相手は怪獣だぜ?

 特撮で超化学兵器を使う軍隊や巨大ヒーローが相手をするような存在相手に、普通のサイズの生き物が叶う筈がない。

 大きいっていうのは、それだけで武器になるんだ。


「まぁ諦めろ。今回は大柱を守る事と鉄喰らいを滅ぼす事が最優先だ」


「分かっている」


 ガストンに宥められ、バリアンが渋々納得のポーズを見せる。

 ガストンって無口で落ち着いた感じに見えたけど、割とバトルジャンキーなのかね?


「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」


 とその時、ひと際大きな歓声が上がる

 見れば新たな攻城槌が鉄喰らいの胴体に命中し、その巨体が傾いたのだ。


「これはそろそろ終わりそうだな」


 と思ったのがいけなかった。

 世の中にはやったか? と言ったらやれていなかったという事は沢山起こるのだから。

 ……特に仕事が完成したと思った直後にな。


 そしてそんな嫌なジンクスはこの世界でも同様だった。

 体を傾かせた鉄喰らいだったが、傾く勢いのままにその巨体を振り子の様に振って無理借り体を起こすと、両の足でアダマンタイトの塊を持ち上げて放り投げたのだ。


 だが、ただ金属の塊を投げたと思ってはいけない。

 何故なら相手は四〇メートル近い巨体なのだから。

 その巨体が投げた金属塊となれば、その大きさだけで恐ろしい武器になる。


 案の定凄まじい轟音と共に、アタマンタイトの塊によって破壊された建物や弓の破片が宙を舞う。


「って弓!?」


 いやちょっと今のヤバくない?

 この距離から吹き飛ぶ建物と同じサイズで見える弓って事はつまり……


「あらー、あの機械弓壊されちゃったみたいよ」


 戦場を観察する為か、近くの建物の屋根に上っていたサシャが状況を報告してくる。


「ちょっと良くない状況ね。今の反撃で戦士団自体も負傷者が多く出たわ。戦列もめちゃくちゃになってるわよ」


「マジかよ……」


 せっかく上手くいってると思ったら、たった一発で形勢逆転なんてこんな所まで怪獣映画を再現しなくても良いだろうに。

 いや、向こうにそんなつもりはないんだろうけど。


 見れば鉄喰らいは反撃の手段を失った戦士団に興味を無くしたのか、振り返って大柱に近づいて行く。

 ご馳走の山である大柱を食べるつもりなのだろう。


「こりゃあ本格的にマズくなってきたな」


 どうする? 俺達が残るのはあくまでもアダマンタイトの受け渡しを終えるまでって話だ。

 それもこっそりついてきたフリューの精霊魔法で大柱の倒壊を一時的に阻止できるからって話で合って、鉄喰らいはドワーフの戦士団が倒す前提の話だった。


 だが大型機械弓が破壊され、ドワーフの戦士団もダメージを負った以上、時間を掛ければ勝てるかもしれないがその前に大柱が持たないだろう。


「こりゃあ住民を避難させて逃げた方が良いんじゃないか?」


 ドワーフ達だって、都市を守るためなら最悪全滅しても良いとは思わないだろうし。

 ここは素直に逃げるのが大人の判断ってもんだ。

 だがここで俺の考えに待ったをかける声が発せられた。


「助けに行きましょうショウジさん!」


「え?」


 言葉を発したのはメーネだ。


「このままじゃ町がめちゃくちゃになっちゃいます! 助けに行きましょう!」


「いや助けにって言っても、あの巨体相手じゃどうにもならないぞ。マナグレネードを大量に使えば倒せるかもしれないけど、あんな派手に爆発するものを使ったらそれこそ衝撃で大柱を破壊しかねない」


 うん、間違いなく俺達の攻撃がとどめになるね。

 あと今回はアダマンタイトを運ぶのが目的なので、マナグレネードは護身用にちょっとしか用意していない。

 

「サシャ、あのデカブツを倒せる魔法ってあるか?」


 一応魔法使いのサシャなら何か良い方法があるかもしれないので聞いてみる。


「うーん、無い事もないけど、この状況じゃあ私も使えないかな」


 手段があった事には驚いたが、やはりサシャも大柱を守りながらあの巨体を倒すのは難しいと難色を示す。


「おう、旦那」


 と、そこにモードがやって来る。

 鎧を纏い、その肩に大型の戦斧を担いだ姿で。


「モード? その格好は?」


「いやな、武器は持ってきたんだが鎧までは持ってきてなくてよ、ちと知り合いに借りてきた」


 借りて来たってアンタ、お醤油切らしたとかいうノリじゃないだろその格好。


「せっかく危ない橋を渡らせてまで荷物を下ろしても貰ったのに悪かったな。アンタ等はもう逃げても良いぞ。後は俺達がやるからな」


「俺達がやるってどういう意味だ?」


 いや、本当は聞かなくてもわかる。

 モード達は覚悟を決めたんだろう。


「俺達はアイツと戦う。王都を守るためには誰かがアイツを倒さなけりゃいけねぇからな」


「けど、あの巨体が相手じゃまともな戦いにならないぞ!? もう切り札だって無いんだろ!?」


「まぁな。だが黙ってやられる訳にもイカン。ここは俺達の町だ」


 そう告げると、モード達は俺達に背を向けて鉄喰らいに向かって歩き出す。


「スマンな。せっかく一緒に面白そうな事が出来ると思ったんだが。俺の事はクビにしてくれ」


「お、おい!?」


「行くぞお前等っ!」


「「「おうっ‼」」」」


 応えたのはガストン達だけではなかった。どこからか現れた完全武装のドワーフ達もまたモードについて進んでいく。


 皆装備はバラバラで、戦士団の正規の団員でないのは明らかだ。

 おそらくはモード達と同じく、自分達の町を守りたいと立ち上がった連中なんだろう。

 

 戦いに勝ったからって生き残れる保証もないのに。

 誰もが臆する様子もなく進んでいく。


 ドワーフ達の歩みが少しずつ速くなり、次第に足の動きが大きくなっていく。

 決して早くはない、だが力強い足音を立てながらドワーフ達は走り去って行った。


「ショウジさん……」


 そんな彼等の姿を見つめていたメーネが俺に視線を向けて来る。


「やっぱり私達も戦いましょう!」


 メーネの目は決意に満ちていた。

 ドワーフ達の町を守りたいとその目が語っている。


「私の力はこういう時の為に使うものなんだと思うんです!」


 それはメーネが宿す超人スキルの事だろう。

 これまでさんざん自分を苦しめてきた力を、人を助ける為に使いたいとはっきりと宣言する。


「確かにメーネのスキルは強い、けどそれだけじゃあの巨体には勝てないぞ」


 メーネがやる気に満ちている事は悪い事じゃない。

 だが勝算の無い無謀な戦いに送り出す事は絶対に出来ない。


「私にはモードさんが作ってくれたこのハンマーがあります! これならどんな魔物でも叩き潰せますよ!」


 確かにモードが作ってくれたアダマンタイトのハンマーなら、普通の武器よりはあの巨体にも攻撃は通るだろう。

 だがそれは小さな一撃だ。


「駄目だ、それじゃ相手の大きさに比べて小さすぎる」


 そう、相手からすればちょっと針でつつかれた程度のダメージだろう。

 なにしろ大きさが違い過ぎるんだから。


「だ、だったらもっと大きな武器で攻撃します! 私の力ならすっごい大きな武器でも持ち上げる事が出来ますから!」


「いやそんな武器どこに……っ!?」


 どこにある、そう言おうとして俺は気付いた。

 そうだ、あるじゃないか。


 あの巨体を倒すのにうってつけの武器が、あの巨体を倒す為に用意された最高の武器がすぐ近くに。

 だがそれを実行すると言う事は、あの化け物に今以上に近づく必要がある。

 それに天井の件も心配だ。

 一応そっちの問題はフリューが何とかしてくれるらしいが。


「……ったく、しゃーない、か」


 正直言って今回の戦いは危険すぎる。

 普通に考えれば逃げるべきだ。


 しかしここで逃げればモードは間違いなく死ぬ。

 俺と協力してエルフ達との大口取引を実現してくれた有能な男だ。

 そんな彼が死ぬことは、俺の会社にとって大きな損失にほかならない。

 

 それにこれは商機と考えるべきだろう。

 見事鉄喰らいを倒す事が出来れば、大柱の完全補修の為に更なるアダマンタイトの取引が締結されるのは想像だに難くない。


 ドワーフ達が命を懸けてまでこの町を守ろうとしているのだから、大柱の完全補修は彼等にとって必須事業だ。


 いやまぁ、色々理由を考えてはみたが、まぁアレだよな。

 有能な社員を見捨てるってのは、流石に経営者として寝覚めが悪すぎる。


 地球に居た頃でも、有能な社員が様々な事情から会社を辞める姿を見ていた。

 有能なんだから、会社が相談に乗ってやれば良いのにと仲間達とよく話していたものだ。 


 だがウチの会社は有能な社員よりも、文句を言わずに黙って働く社員だけを求めて彼等を引き留めなかった。

 あの時上司が、会社がちょっとだけ手を貸してやれば、今頃彼等はより良い商品を生み出していただろうにと今でも残念に思う。


 そうだ、社員を使い捨てる様な経営者に使われるのが嫌だったから、俺は自分が使う側である経営者になろうと思った訳だしな。


 だったら、ここで俺が選択する道はもう決まっているって事じゃないのか?

「よしっ! メーネ、サシャ! 俺達も鉄喰らい退治に協力するぞ!」


「っ!? はい!」


 俺が戦う事を決意した事がよほど嬉しかったのか、メーネが満面の笑みで返事をする。


「ええ、協力するわ」


「よし、鉄喰らいの下へ急行だ!」


 俺達は急ぎ馬車を走らせると、大柱へと向かう。

 戦士団の居る場所は分からなくとも、鉄喰らいの巨体が良い目印になってくれている。


「いいか、メーネは現場に到着次第近くにある筈の攻城杭を捜してそれを武器にするんだ。メーネ自身を大型機械弓の代わりに使う!」


「攻城杭って……あっ、そうか!」


 メーネが俺に意図を察して目を輝かせる。


 そう、鉄喰らいと戦う為の問題は武器の大きさだ。

 だがドワーフの戦士団が大型機械弓で放っていた攻城杭なら、鉄喰らいと戦うのにちょうど良いサイズの武器になる。

 武器そのものの大きさと重量の問題も、メーネの超人スキルならクリアできる。


「流石ショウジさん! 分かりました!」


「それじゃあ私は負傷者の治療を優先かしらね」


 とサシャはポーションを取りだして自分の役割を確認する。


「上級ポーションなら多少盛って来てあるわ。重傷者以外の怪我人なら、これを水で薄めれば効果は下がるけどその分治療できる人数も増やせるしね」


 へぇ、ポーションって水で薄める事が出来たんだ。


「でも、水で薄めたポーションは腐りやすくなるから、普通のポーションほど長持ちしなくなるわよ」


 成る程、必要にかられない限りやるなって事ね。


「では儂は奴めが避けられない様に掩護するとするかの」


 とフリューも顔を出してくる。


「フリューにはいざとなったら大柱の崩壊を阻止して貰わないといけないからな、無理に戦いに参加しなくてもいいぞ」


 方法は分からないが、フリューには大柱の崩壊を一時的に阻止する手立てがあるらしい。

 俺としては万が一に備えてそっちに専念して欲しいんだがな。


「なぁに、無駄な力は使わんよ。ちょっとアヤツを足止めするだけの事じゃ」


 そうこうしている間に、鉄喰らいの巨体が近づいて来る。

 うーむ、近くで見ると本当に大きいな。

 こういう時ばかりは新型馬車の性能が恨めしいぜ。


「よし、メーネ! まずは攻城杭を確保だ!」


「分かりました!」


 戦場に到着した俺達は即座に行動を開始する。

 と言っても俺は戦力にならないので、後ろで待機……と言う訳にもいかなさそうだ。


「う、うう……」


 戦場には多くのドワーフの戦士達が負傷して動けなくなっている。


「俺達は彼等の救助に専念した方が良さそうだな」


「そうね、ウォーターボール!」


 サシャが魔法で作った綺麗な水を近くにあった桶に入れると、そこに上級ポーションを注ぎ込む。


「手分けしてこの水増しポーションをドワーフ達にかけましょう。全快しなくても自力で避難できるまで回復させれば良いわ」


 あっ、これ飲まなくても大丈夫なんだな。


「よし、それじゃあ救助作業開始だ!」


 俺達は桶を担いで目についた負傷者の傷口に水増しポーションを掛けていく。


「ぐ、うう……おお、痛みが……」


「ス、スマン、助かった」


 水増しポーションが効果を発揮して、倒れていたドワーフ達が体を起こす。


「アンタ達はすぐに避難してくれ。できるなら一緒に動けない仲間を安全な場所まで運んでくれると助かる」


「わ、分かった。今の俺達じゃ戦いに戻る事は出来そうもないからな」


 よし! 動けるようなったからまた戦いに行くぞ! とか言ったりいしないかとちょっと心配だったが、意外にもドワーフ達は大人しく下がっていった。

 どうやら冷静に状況を見る事の出来る連中が多いらしい。


 そうしてドワーフ達の救助をしていたら、前線の戦いに変化が起きていた。


「おお!? 鉄喰らいが突然生えて来た蔦に絡めとられたぞ!?」


「何だ!? エルフの魔法か!?」


 どうやらフリューの言っていた掩護の事らしく、鉄喰らいの巨体が太い蔦でからめとられていた。


「今度は植物怪獣かー」


「よーっし! いっきますよー!!」


 そして身動きが取れなくなった鉄喰らいに、メーネが攻城杭を叩き込む。

 たまらず鉄喰らいが体をくねらせると、その巨体が大柱に何度もぶつかる。


「ああっ!? ダメですよ! 広い所でグネグネしてください!」


 いや無茶言うなよ。


「だったら、動かなくなるまで縫い付けます!」


 メーネは直ぐに新しい攻城杭を手にすると、大きくジャンプして上から攻城杭を叩き込んだ。

 攻城杭は鉄喰らいの体を突き抜けて、地面へと突き刺さり鉄喰らいの体を字面に縫い付ける。


「まだまだー!」


 メーネの第二、第三の攻撃が更に鉄喰らいの体を地面に縫い付けていく。


「さぁ、植物達よ!もっともっと巻き付くのじゃー!」


 そしてフリューの魔法によって更に鉄喰らいの体に蔦が巻き付いて行き、その動きを拘束していく。


「これでとどめですよーっ!」


 メーネは手にした助走と共に攻城槌を投げつけ、鉄喰らいの顔面へと叩き込んだ。

 綺麗に命中した攻撃だったが、勢いが強すぎたのか鉄喰らいの頭部がもげ、攻城杭諸共地面へと突き刺さった。


 頭を失った鉄喰らいの体は、昆虫らしく暫くの間悶えていたが、時期にその動きを小さくしていき、遂には動かなくなったのだった。


「て、鉄喰らいの頭が……」


「た、倒したのか?」


 突然参戦してきたメーネ達の嵐の様な活躍に晒されたドワーフ達は、困惑し何が起きたのかを理解できないでいた。


 そして鉄喰らいの体に跳び乗ったメーネが手にした攻城杭を天に突きあげて叫ぶ。


「鉄喰らいを、倒しましたよぉぉぉぉぉっ!!」


「……はっ!?」


 メーネの勝利の雄叫びを聞き、ようやくドワーフ達が現状を理解する。

 そして傍にいた仲間達と顔を見合わせると、再び鉄喰らいの上で攻城杭を振り回して勝利をアピールしているメーネに視線を戻す。


「お……おお……おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」

 そして、勝利を実感した喜びと興奮の雄叫びが地下王都中に響き渡ったのだった。


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