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53 王との遭遇

 ドワーフの国の地下王都へとやってきた俺達は、そこにそびえ立つ大柱の惨状に圧倒されていた。


「あの雄大だった大柱にあんな亀裂が走るとは……」


 大柱の惨状を見つめるモードが痛々しそうな声をあげる。

 普段泰然としたモードも、自分の故郷がこんな事になっては思う所があるんだろう。


「まぁでも、今まで用意したアダマンタイトがあれば修理できるんだろ?」


「ああ、そうだな。あの亀裂の中に小さく砕いたアダマンタイトを埋め込み、隙間に溶かしたアダマンタイトを流し込んやれば亀裂で弱くなった大柱を補強する事が出来るだろう」


「なんかかなり大雑把な修理だけど大丈夫なのか? 亀裂が拡大したりしない?」


「大丈夫だ。おおざっぱに説明しただけで、実際にはドワーフの秘密の技術を使って直すからな。国の命を支える柱だ、ちゃんと手入れの方法も考えられている」


 ですよねー。


 そうして壁面に掘られた通路を下った俺達は無事地下に造られた王都へと降り立つ。


「資材置き場はこっちだ」


 ガストンに案内され、俺達は馬車を走らせる。

 馬車が方向に進むにつれ、進行方向の大柱の姿が少しずつ大きくなっていく。


「天井付近から見た時も大きかったけど、下から見上げるとかなりスゲェな」


 なにしろ天井まで伸びる柱だもんな。大きいのは当然か。

 それにこの地下都市も俺の想像以上に広かったらしく、天井付近で見た時は全景を見る事の出来た大柱が視界一杯に広がった様な錯覚を覚える程だ。

 なんというか子供の頃に初めて東京タワーを見た気分だな。


 そしてさらに進むと、沢山の資材が集められた広場へとたどり着いた。


「荷物はあそこの開いている場所に運んでくれ。俺はここの責任者に資材が届いた事を報告してくる」


「分かりました」


 俺達はガストンに指示された場所まで馬車を移動させると、アダマンタイトを馬車からおろし始める。

 といっても俺とサシャは手伝わずに、もっぱらメーネとモード、それにバリアンの仕事だ。

 え? 俺も手伝わないのかって?


 ……いやだって、アダマンタイトって重いんだよ。

 中身の詰まった箱を持ち上げようとしたら危うく腰をやっちまうところだった。

 うん、金属の塊なんだから当たり前だよね。


 中身を取りだして一個一個下ろそうかと思ったんだが、メーネ達が箱ごと運びだした方が圧倒的に速かったので、俺の仕事は横から応援する事になりました。


 うん、トラック用の昇降機かクレーンでもあればともかく、普通の人間にこんなクソ重い荷物の積み下ろしとか無理です!


「ちょっと良いか?」


 と、そこでガストンが戻ってくる。


「何かありましたか?」


「それなんだがな、ちょっとウチの一番上の責任者がお前さん達に会いたいって言っていてよ」


「一番上の責任者?」


 なんか妙な言い方だな。

 ファンタジー世界に社長とか居るのか?


「おお、この者達があの大量のアダマンタイトを運んできた商人か!」


 やたらと大きな声がガストンの後ろから聞こえてくる。


「よくぞ我が国の危機に駆けつけてくれた勇敢な商人達よ! 儂の名はミルド、ミルド・ユーグレース・ダイアスだ!」


 な、なんか凄そうな名前のドワーフが出て来たぞ。

 あと、頭に冠を乗せて真っ赤なマントを羽織っているんですけどこの人。

 もしかしてこの人って……


「……我が国の国王陛下だ」


 やっぱりぃぃぃぃぃぃっ!

 何でこんな所に国王が現れるんだよ!?


「え、ええと、旅の商人でショウジ・アキナと申します国王陛下」


「フハハハハッ! そんな堅苦しい呼び方せんで良い! それにしてもお前達のお陰で本当に助かったぞ。これだけのアダマンタイトがあれば十分大柱を修復する事が出来るだろう」


「それは何よりです」


 どうやら今回持ってきた分で国のピンチはなんとかなりそうみたいだな。


「とはいえ、何故突然大柱に亀裂が走ったのかは儂等にも分からんのでな。大柱の補修をしつつ亀裂から内部の調査を行う必要がある。場合によっては追加でアダマンタイトを集めて欲しいのだが、可能か?」


 ミルド王は一転して真剣なまなざしでこちらを見つめて来る。


「お任せください。報酬さえ頂ければ満足いただく量のアダマンタイトを集めて御覧に入れましょう」


 問題ないと答えると、何故かミルド王が目を大きく見開いてこちらを見ていた。


「ク、クハハハハハハッ! 金さえ出せばいくらでも用意するとは、とんでもない大見栄を切ったものだ! だが悪くない! 商人ならそのくらいの見栄をきって貰わんとな!」


 どうやら俺が幾らでも用意できるなんて言うとは思わなかったので驚いたみたいだ。

 まぁアダマンタイトは希少金属らしいからな。

 今回の納入量ですら十分過ぎる量なのに、さらに用意できると言われれば驚きもするか。


「それではよろしく頼むぞ。細かい打ち合わせはコイツ等としてくれ。儂は大柱の補修指揮に戻るからな」


 そう言ってミルド王は上機嫌に笑いながら大柱の方に歩いて行った。


「っていうか、王様が直々に補修指揮を執るのか……」


 でもそれって国王が工事現場の親方をする様なモンじゃね?


「国王陛下は我が国で最も優れた職人だからな。それにあの方が直接出向けば現場の指揮もあがる」


 とはガストンの言葉だ。

 どうやらこの国はあまり国っぽくない集団なのかもしれない。

 どちらかといえば、会社がそのまま国家になった感じか?


「まぁともかく、これでこの依頼も完了か。あとは必要に応じて追加のアダマンタイトを納入すれば良いと」


 終わってみれば簡単な依頼だったな。

 ダンジョンの大暴走の時と違って魔物の大暴走が起きたりもしなかったし、大きな問題も起きなくて何よりだ。


 などと言ったのがいけなかったのだろうか。

 帰り支度を始めていた俺達の背後から、突然金属を擦り合わせるかの様な不快で巨大な音が鳴り響いた。


「うぉぉぉっ!? な、なんだ!?」


 馬車を牽いていた馬達も今の音に怯えてパニックを起こす。


「落ち着け! 大丈夫だ!」


 モードが慌てて馬を宥めるも馬達のパニックは静まる気配がない。


「ぬんっ!」


 危うく馬達が暴走を始めるかと思ったその時、メーネが馬達を下から抱えて持ち上げたんだ。

 って、すげぇ!?


「大丈夫、大丈夫ですよー」


 優しい声で宥めるメーネに馬達が大人しくなるが、どちらかと言うと突然凄い力で持ち上げられた所為でビビッて大人しくなったのが正しい所だろう。

まぁ迅速に馬を鎮めてくれたので素直に感謝しよう。


「はーい、落ち着いてー」


 他の馬車の様子が気になったが、そちらはサシャが何かの液体を馬にかけて大人しくさせていた。


「鎮静効果のあるポーションよ」


 お、おお、そんなモンがあったのか……

 ともあれ、皆の活躍のお陰もあって馬達は暴走する事も無く落ち着いた。

 街中で馬車が暴走でもしたら大変だからな。


 だが音は未だに鳴り止む気配はない。

 というか、寧ろ大きくなっている様な気がする。


「なぁモード、この音はなんなんだ? ドワーフの国はいつもこんな音がするのか?」


「知らん! こんな音は聞いた事もない!」


 モードにとっても初めての出来事だったらしく、一体何が起きているのかと困惑しているた。


「というか大柱は大丈夫なのか?」


 正体不明の現象が大柱に何らかの悪影響を及ぼしたりしないかと思って大柱を見たその時だった。

 突然、大柱が破裂した。


「―――え?」


 一瞬何が起きたのか分からなかった。

 一拍遅れて爆発音かと思う程凄まじい音が響く。

 その音に気付かされるように、俺達は大柱に起きた出来事を認識する。


「こ、今度は何だ!?」


 俺はもうもうと土煙をあげる大柱を見る。

 土煙が次第に収まっていくと、俺は大柱の中から何か赤いモノが流れ落ちている事に気付いた。


「なんだアレ?」


 アレは何かの液体か? 赤土混じりの泥水か?

 だがそんな疑問も土煙の奥から顔を覗かせたソレと目が合った事で吹き飛ぶ。


「へっ?」


 それは俺も良く知っている生き物だった。

 つい最近もこの世界に暮す魔物の一種として遭遇した記憶がある。


「白いアリ?」


 そう、あれはアリだ。

 確か皆がビッグアントと言っていたアリの魔物。

 そしてコイツはロードレッグ鉱山で見たビッグアントとは違い全身が真っ白だった。


「白い、ビッグアント……?」


 ただしその姿は、このドワーフの国の王都を支える巨大な大柱、それに空いた直径100メートル近い巨大な亀裂の実に半分を埋める程の巨体だった。


「って、デカァァァァァァァァァァァッ!?」


 そう、ちょっとどころではなくこのアリは……大きすぎた。


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