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05 ミスリルの剣と初商売

 盗賊を倒した俺達は、再び隣町への旅を再開した。


「ふんふーん」


 馬車を走らせる俺の横を、ご機嫌な様子のメーネが歩いている。

 さっきの戦いでメーネは半泣きになってなかったかって?

 ああ、その通りだ。

 さっきまでメーネはこの世の終わりのような顔をしていた。


 けど、倒した盗賊の荷物を回収した際に彼女はご機嫌になったのだ。

 この世界、討伐した盗賊の持ち物は、倒した者が所有権を得るらしい。

 そんな訳で大半のお宝は遠距離から弓で盗賊達を倒しまくったキャバだったが、お宝の質という意味ではメーネが倒した盗賊が最も良い物を持っていた。

 それこそが彼女がご機嫌な原因だった。


「ふんふーん、ミッスリッルの武器ー」


 今、メーネの腰には折れた金棒の代わりに、装飾の着いた豪勢な剣が納まっていた。

 カイル曰く、それはミスリルの剣だそうだ。


 ミスリル、ファンタジーゲームではお約束の魔法の金属で作られた剣で、鉄や鋼の武器よりも強い特別な武器なのだそうである。

 そんな希少な金属で作られた武器を、たまたまメーネが倒した盗賊が所持していた訳だ。


「まったく運の良いヤツだ」


 自分が倒した盗賊からはたいした物が手に入らなかったので、カイルは不満そうだ。


「どうせその剣も壊しちまうだろうさ」


 キャバは弓使いである事と、既に十分なお宝を手に入れて居たので、ミスリルの剣に関しては我関せずの構えらしい。

 ミスリルの剣はかなり高価な品ではあるが、どうせ自分の戦闘スタイルには合わない武器なのでつまらない嫉妬で無駄な騒ぎを起こしたくないとの事だ。


「ちなみにミスリルの剣ってこの国では幾らくらいするんですか?」


「そうですなぁ、あれなら金貨200枚は堅いかと」


「ほう、金貨200枚ですか」


 あれをメーネから買い取って栽培すれば、最低価格金貨200枚の武器を大量に売りさばけるのか。


「う、売りませんからね! 絶対売りませんからね!」


 おっと、予防線を張られてしまった。


「壊す前に売った方が得だと思うぞ。 どうせお前の力じゃミスリルの剣を壊すのがオチだろ」


 毒舌なキャバがメーネにミスリルの剣を売るべきだと告げる。


「絶対売りません! それにミスリルの剣なら絶対折れませんよ!」


 今までどんな武器でも壊してしまったという武器殺しのメーネ。

 果たしてミスリルの武器は壊れずに済むのだろうか?


 ◆


「隣町に到着しましたよ」


 街道の先に見えた町を指差しながらカイルが告げる。


「ふぅ、途中トラブルはありましたが、何とかたどり着きましたね」


 一時はどうなる事かと思ったよ。

 町に到着した俺達は、馬車を預ける事の出来る宿へとチェックインした。

 そして三人に行商をしている間の行動方針を告げる。


「俺は明日一日この町で行商を行うので、皆さんはあさっての朝まで自由にして下さってかまいません」


「え? 護衛なのに良いんですか?」


 俺の言葉にカイル達が驚きの表情を浮かべる。


「町の中なら盗賊も出ませんし、自由にしていただいてかまいませんよ。ああ、行商の手伝いをして下さるなら小遣いくらいは出しますが」


「おー、仕事の途中で好きに行動していいたぁ気前の良い雇い主だぜ!」


「ですが休んでいる間の報酬はどうなるんですか?」


 四六時中護衛をしないでよくても、それを理由に報酬を減らされたらたまらないといいたいんだろう。


「大丈夫ですよ。ちゃんと報酬は満額お渡ししますから」


「そういう事なら、明日はありがたく休ませて貰います」


 キャバは遊びに、カイルはゆっくり休むみたいだな。


「あの……私はお手伝いさせていただいて宜しいですか?」


 そんな中、メーネだけは俺の手伝いをしたいといってきた。


「少しでも稼いでおきたいので」


 なる程、副収入が入るのなら、働いておきたいわけか。


「こちらは正式な依頼ではないので、あくまでお小遣い程度ですよ?」


「はい、それでかまいません」


「それではよろしくお願いします」


 よっしゃ日雇いの労働力ゲットだ!


 ◆


 翌朝、この町の商人ギルドに話を通した俺は、町の自由市場に店を出す事になった。


「重い荷物を持って貰って悪かったね」


 俺は一緒に荷物を運んでくれたメーネに感謝の言葉を贈る。 


「いえ、この程度の事ならお安い御用ですよ」


 正直メーネには驚いた。

 彼女は馬車で運んできた荷物の大半を自由市場まで運んでくれたのだ。

 元々メーネを荷物番にして、宿から荷物を担いで何往復もしようと思っていたので、正直助かった。

 まぁ、よくよく考えるとこの子はあの金棒を振り回して戦っていたので、力があるのは当然か。

 そしてその金棒すらも壊してしまうんだからなぁ。

 っていうか、どうやったらあんなモンが壊れるんだよ。


「じゃあこのシートの上に荷物を並べていくよ」


 重い食料品は前に、軽くて貴重な衣服や装飾品は後ろに置いていく。

 盗まれた時にダメージが少ない順番だ。


「よし、準備完了」


「うわー、綺麗な布きれですねぇ。それにスベスベです」


 商品を見ていたメーネが、その中の一つであるハンカチに反応する。

 彼女がハンカチにだけ反応したのも無理は無い。

 なにしろ、あのハンカチは俺が地球から持ち込んだ私物だ。

 あれだけ他の古着と違って布の質が段違いなので、イヤでも目立つのだ。


「それにこの模様、刺繍でもないのに一体どうやって?」


 ホームセンターで売ってる大量生産品なんだけどね。


「よかったら一つあげようか?」


「い、いいんですか!? こんな綺麗な布を!?」


「いいよ、荷物運びを一度で終わらせてくれたお礼だ」


「は、はわわわっ、ありがとうございます!」


 メーネがおっかなびっくりといった風情で、ハンカチを手に取ると、それを胸元でキュッと抱きしめる。


「本当にありがとうございます」


「おお、見ない顔の商人さんだな」」


 さっそく町の人達が俺達の売り物を見に近づいてきた。


「ただ今よりアキナ移動商店開店です! 皆さんどうぞ見ていってください!」


「み、見て行ってくださーい!」


 俺の呼び込み、というよりもメーネの呼び込みにつられて他の男達も物色しにやってくる。

 やはり女の子の呼び込みの力は大きいぜ。


「食料に酒、服にアクセサリまであるのか? 随分と色々取り扱っているんだな」


「ウチは品揃えの豊富さが売りですので」


 高い物だけにしようかと思ったけど、他の町の景気が分からないので、一応食料も持ち込んだ。

 王様の話だと、この国では食料が少ないらしいからな。


「この野菜は幾らなんだい?」


 さっそく野菜に目が行ったか。

 つまりそれだけこの町の人達が食料を欲しているという事だな。


「ええと、それは銅貨二枚です」


「これが銅貨二枚か!? ボールスの店より安いな!」


「じゃあこっちの干し肉は!?」


「そっちは銅貨三枚ですね」


「肉も安いな! ザッパの店より安いぞ」


「一つ、いやふたつくれ!」


「俺も三つ、あー金がない! すぐに取ってくる!」


「俺にも売ってくれ!」


 やって来た人達は争いあう様に肉や野菜を買い始め、さらにその騒ぎを何事かと見に来た人達が更に買い求め、店の前はちょっとした渋滞になってしまった。

 そして……。


「肉と野菜は売り切れです! 売り切れです!」


 あっという間に食料品が売り切れてしまった。

 ちなみに気付いたら酒も売り切れていた。


「はー、これなら食料品をもっと持ってきても良かったなー」


「そしたらもっと大変な事になっていたと思いますよー」


 確かに、持ち込んだ量が少ないから、この程度の渋滞で済んだのかもしれない。

 あまり大量に持ち込んだら、開店セールの某大手スーパー付近の大渋滞みたいになるかもしれないな。


「まぁ客はハケたんだし、ちょっと休憩だ」


「ですねー」


 俺達は床にへたり込んで一服……するのはまだ速かった。


「ここが野菜の安い店なの!?」


「お肉も安いって聞いたわ!」


 なんと第2陣としてご近所の奥様軍団がやってきたのだ。


「す、すいません! もう肉も野菜も酒も売り切れてしまいました!」


「えー! 折角来たのに!」


「申し訳ございません」


 奥様達はお目当ての食料品が無かった事をしきりに残念がる。


「ところでこっちの古着、結構綺麗だけどお幾らなの?」


 無いものは仕方がないと、奥様がたの目的が残った商品に移る。


「こちらの品は金貨3枚になります」


「ええ!? これが金貨3枚!?」


 奥様方の目が大きく見開かれる。

 金貨三枚、大雑把に言って3万円近い金額だ。

 もちろんブランド品などではなく、普通の衣服だ。


「ちょ、ちょっと待ってて!」


 だがそれでも奥様達はこの服に興味を示した。

 何故なら、こんな高値でも、この世界ではとても安いと判断されるからだ。


 現代の世界で一般的な衣服は上下合わせても1万円いくかいかないかだ。

 既製品のスーツセットだってセールを狙えば2万くらいで購入できる。


 だがそれはあくまで現代だから出来る価格だ。

 そもそも衣服が安くなったのは産業革命以後の話で、それまでは服というものはとんでもなく高かった。

 新品の服を買うのに、日本円で約40万円するのだ。

 ちょっとした中古車の価格である。


 そんな世界なので、状態の良い古着が3万円で売っていたらとてもお安い訳だ。

 案の定、奥様達が戻って来た


「これは私のよ!」


「これはアタシが先に取ったのよ!」


「ちょっとアナタ! 何着買う気よ!」


「別に数を制限されてるわけじゃないでしょ!!」


 まるで、バーゲンセールの様な凄まじい勢いで奥様方が服の奪い合いを始め、瞬く間に古着は売り切れとなったのだった。


 オバちゃんおっかねぇなぁ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 金銭の価値勘定がおかし過ぎて混乱する。 仮に金貨1枚を1万円相当の価値としよう。 するとギルドへの依頼費用が3人で金貨1枚に届かないのは安すぎる。 金貨1枚が10万円、銀貨1枚1万円、銅…
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