49 メーネの新しい装備
「よーっし、完成したぞ!」
壊冥の森の家に隣接した工房からモードが出てきた。
「早いな、もう出来たのか?」
モードが作っていたのは、前回鉱山で見つけたアダマンタイト鉱石を使った装備だ。
俺の栽培スキルで増やしたアダマンタイトで、超人スキルの持ち主であるメーネの力に耐えれる装備を作ると息巻いていたからな。
「さぁ装備してみてくれお嬢ちゃん!」
「は、はい!」
モードに促され、メーネが工房へと連れていかれる。
そして数分後、新しい装備を身に纏ったメーネが工房から出て来た。
「へぇ、今回は防具も作ったのか」
工房から出て来たメーネは、金属製の軽鎧を身に纏っていた。
「お嬢ちゃんのスキルは単独で敵陣に飛び込むのに向いているからな、動きやすさを重視しつつ、体の要所を守る装備にしてみた」
確かにメーネの装備は全身を覆う様なフルアーマーじゃない。
胸や肩を守りつつ、盾を兼ねた大型の小手を腕に装備している。
「アダマンタイト製の鎧は同じ厚みの鉄やミスリルの装備よりも硬い。その分重くなるが、嬢ちゃんのスキルなら問題あるまい。小手は特に分厚く作ってあるから、これ自体が盾であり武器になる」
確かに、小手はボクシングのグローブみたいに大きなサイズだ。
「そしてこれが嬢ちゃんの新しい武器、マイトハンマーだ」
そう言ってモードが指さしたのは、メーネの手にしたハンマーだ。
このハンマー、一見すると柄の長い戦槌なんだが、先端に槍の様な刺突部が付いており、まっすぐに着けば槍として使えそうだ。
そしてハンマー部分も平たんな鉄の塊ではなく、ダイヤカットのデコボコした形状をしており、これが叩きつけられた相手は一瞬でひき肉になってしまいそうな怖さを感じる。
って、これ、ヒロインの武器じゃねーよ!
「嬢ちゃんの戦い方なら、細い剣や槍よりもこっちの方が長持ちするだろ」
まぁ確かにな。
「あとはこれをお前さんに量産して貰えば、嬢ちゃんの武器のスペアの心配もないって訳だ」
「けどさ、これを大量に運ぶって重量的にもスペース的にもキツくないか?」
いくら新型馬車が早いとはいえ、それを運ぶのはあくまでも馬だ。
こんな武器を大量に運んだらすぐに馬がバテちまうだろ。
だがモードはニヤリと笑みを浮かべる。
「おっと、ソイツは実際に使ってみてから言いな」
とモードは自信満々だ。
何か考えがあるみたいだな。
「よしメーネ、さっそく魔物相手に試してみようか。試し切りならぬ試し叩きだ」
「はい!」
◆
「たりゃぁぁぁぁっ!!」
道行く俺達に襲い掛かって来た魔物に、新しい武器を手に入れたメーネが襲い掛かる。
如何にも重そうなハンマーをメーネは軽々と振り回し、襲い掛かって来た魔物達を用意に吹き飛ばす。
一見すると簡単に魔物を吹き飛ばしてるんだが、あのハンマーの重さを知っていると結構笑えない。
試しにちょっと持たせてもらったんだが、危うく腰を痛める所だった。
アレ、ヘタすると自動車とぶつかってる様なもんだぞ。
などと冷や汗をかきながら戦いを眺めていたが、あっという間に魔物達は全滅し、動くものはメーネだけとなっていた。
「ショウジさーん! このハンマーすっごく良いですよー!」
新しい武器の使い心地を試したメーネは上機嫌だ。
「はしゃぐのは良いけど、また来たわよー」
「はーい!」
サシャに指摘され、メーネが新しく来た魔物達に向かっていく。
「このこのーっ!」
メーネは楽しそうにハンマーを振り回して魔物達を吹き飛ばしていく。
その時だった。
バキッという音がしてハンマーの根元が折れてしまったんだ。
「あーっ!?」
ハンマーが折れた事でメーネが悲鳴を上げる。
「フレイムボール!」
即座にサシャが魔法で闘えなくなったメーネの掩護を行う。
「どうするんだモード?」
いくら強力なハンマーでも、柄がなくちゃただの鉄塊だ。
ハンマーは重く、今回は予備の武器を持ってきていない。
「問題ない」
だがモードは大丈夫だと言うと、馬車から一本の棒を取りだしてメーネへと投げた。
「嬢ちゃん、折れたハンマーの根元の部分にあるボタンを押しな」
「え? ええと……こ、これですか?」
モードが投げてよこした棒を受け取ると、メーネは言われた通りハンマーを弄る。
するとハンマーの根元から、ゴトリと細長い金属が落ちた。
「何だあれ?」
落ちた細長い金属は、片側の先端が緩やかに斜めに尖っている。
「嬢ちゃん、渡した棒をハンマーに空いた穴に差し込め」
「は、はい!」
モードの指示に従い、メーネは受け取った棒をハンマーの穴に差し込む。
するとガチリという音と共に棒がハンマーに固定される。
「あっ、もしかしてあの棒って」
「そうだ、あれがこのハンマーのキモだ。嬢ちゃんがハンマーをぶん回したら、真っ先に壊れるのは柄の部分だからな。だから柄の部分だけを交換可能にしておいたのさ」
そう、モードはハンマーの柄を交換式にする事で、ハンマーをまるごと交換する事無く使えるようにしたのだ。
「これならハンマー本体が壊れても予備の柄を長い棍棒として使えるからな。今まで使っていたミスリルの武器よりも戦闘では長持ちするぞ」
「よし、それじゃあ反撃だメーネ!」
「はい!」
ハンマーの柄を交換したメーネが、再び魔物達の群れに飛び込んでいき、瞬く間に残った魔物達を撃退するのだった。
◆
メーネの新装備のテストを終えた俺達は、ドライ男爵の町にやって来た。
目的は自分達の店へ商品の補充をする為だ。
既にこの町にはウチの従業員達が暮らしており、俺達が運んできた商品を販売している。
「おお、新しい食材が来たぞ!」
従業員達が喜びの声を上げて森で栽培した食材を運んでいく。
正直言って納品する商品の中でも食材が一番人気がある。
この町のエルフ達だけでなく、ウチの従業員にとってもだ。
その原因はおそらく、いや間違いなくこの国の食材が例外なく辛いからだろうな。
「あっ、そうだ旦那様。実は旦那様相手に仕入れて欲しい商品があるんですが」
と、納品した商品の目録を確認していた従業員が思い出したように口を開く。
「仕入れてほしい商品?」
「はい、旅のドワーフ達から、アダマンタイトを大量に仕入れる事は出来ないかと聞かれまして」
「アダマンタイトを?」
へぇ、これはまた偶然が重なったもんだなぁ。
アダマンタイトを栽培する様になった俺達の下に、アダマンタイトを欲しがるドワーフとは。
「よし、会ってみるか」
それにしても、エルフの国にドワーフが来るのか。
ゲームとかだと仲が悪いイメージなんだが、この世界ではそうでもないのかな?




