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48 赤いビッグアントとアダマンタイト

 数日後、準備が整った俺達は、ロードレッグ鉱山へとやって来た。

 この鉱山は隣国であるドワーフ国の国境と近い事もあり、まだこの辺りの国境が曖昧だった頃は鉱山の奪い合いをしていたのだとか。


「それじゃあ、行くとしようか」


「はい!」


「ええ」


「うむ」


 俺の号令にメーネ達が応じる。

 ちなみに、進入禁止の土地への侵入は許可を得た人間が半数以上居れば良いらしい。


 つまりメーネ、サシャ、それにモードの三人がこの鉱山に入れる資格を有しているので、冒険者でない俺も一緒に入っても良いと言う事だ。

 まぁその代わりに死んでも自己責任になるらしいが、そこはしょうがない。


 ◆


「たぁ!」


「フン!」


 鉱山に入って10メートルも進まないうちにアリ型の魔物が集団で襲ってきた。

 幸いサシャの魔法による迎撃と、メーネとモードによる突撃で襲ってきた魔物はすぐに退治された。


「ビッグアントね。文字どおり巨大なアリで、この鉱山を巣として利用しているみたいね」


 鉱山がまるまるデカいアリの巣か。

 場合によってはツルハシで穴を掘っていたら、壁の向こうから巨大なアリがヒョッコリ顔を出す危険があるって訳か。


「となると鉱山夫達は魔物の相手までしなくちゃいけないから大変だな」


「いや、この鉱山に鉱山夫は居ないぞ」


 俺が呟くと、モードが妙な事を言ってきた。


「え? 鉱山なんだろ?」


「ああ、何年も前に閉鎖された廃鉱山だ」


 やっぱり、廃鉱山なんじゃないか。だったら鉱山夫が居ても……って、え?


「廃鉱山?」


「何だ知らなかったのか? この鉱山はもう何年も前に鉱石が出なくなって廃鉱になった場所だぞ。出なければ国が管理する筈の鉱山に入れる訳がないだろう」


 え、え、え?

 どういう事?


「鉱山は国もしくは近隣の領主が管理する場所なの。利益が絡むと言う意味ではダンジョンに近いわね。だから本来鉱山に出没する魔物退治は騎士団の仕事なの。けど鉱山から鉱石が取り尽された後にまで鉱山に護衛を置く意味はないから、代わりに冒険者が魔物退治に来るのよ」


「いやちょっとまて。鉱山が廃鉱になったのなら、冒険者が来る旨味もないだろ?」


「そうでもないわ。鉱山に生息する一部の魔物の素材を狙う冒険者はいるもの」


「あっ、そういう……」


 そうか、この世界は魔物が存在するファンタジー世界。

 鉱石が無くなっても魔物が飯の種になる訳か。

 そして鉱山のみ生息する魔物が居たとしても何らおかしな事ではないと。


「まぁ中には廃坑の中にまだ残っているかもしれない鉱石を求めて入って来る奴等も居るがな」


 あー、モードが言いよどんだのはこの事だったのか。


「てっきりお前さんはその事を知っていたと思ったんだがな」


 ぜんっぜん知りませんでした!

 マジかー、出向き損かー。

 うう、情報収集って大事だな。


「まぁ来ちゃったものはしかたないわ。せっかく来たんだし、ここで採取できる魔物の素材でも仕入れておきましょうよ。メーネちゃんもやる気だしね」


「はい! 沢山魔物を狩りますよ!」


「まぁここの魔物なら、防具の素材なんかになるからな、全くの無駄にはならんだろうさ」


 うう……皆の暖かい言葉がありがたいぜ。


「よし、折角来たんだ。こうなったらここの魔物達を根こそぎ狩り尽すつもりで倒すぞー!」


「おーっ!」


「ええ、まかせて頂戴な」


「久しぶりに体を動かすとするか」


 廃坑の奥から姿を現したビッグアントに、メーネが突撃する。

 サシャが魔法で援護しつつ、メーネの攻撃でビッグアント達が次々に真っ二つになっていく。


「モードは戦わないのか?」


「俺はあそこまで早く動けん。近づいてきたヤツを叩き潰す」 

 

 確かに、ドワーフってパワーファイターってイメージだもんな。

 それに戦えない俺の護衛は必要か。

 一応自己防衛の為に魔法の杖は持ってきてあるが、派生栽培で育てたマナグレネードは危険すぎるので持ってきていない。

 つーか、そんな物を鉱山内で使ったら崩落間違いなしだ。


 ◆


 暫く廃坑内を進むと、道に比べて小さな穴が見つかった。


「ビッグアントが巣穴を拡張する為に空けた穴だな」


 ふむ、魔物の巣って訳か。


「ちょっと見てみるか。もしかしたらこの奥に小さな鉱脈くらいあるかもしれないし」


「ふむ、それは面白そうだな」


「私も構わないわ。マナポーションの在庫も潤沢だから、暫く魔力切れの心配もないものね」


 うん、サシャが魔法を使う為にマナポーションを多めに持ってきた事が幸いしたようだ。


「私もまだまだ全然大丈夫です!」


 メーネも体力的な余裕は十分と返事をする。


「よし、それじゃあちょっと中に入ってみるか。危なくなったらすぐに撤退するぞー」


「はーい!」


 ◆


「ロックハンマー!」


「たりゃあぁぁぁぁっ!」


「むん!」


 鉱山の壁に空いたビッグアントの巣穴とおぼしき穴に入った俺達は、そのまま進み続けていた。

 幸い。巣穴は変な分岐もなく一本道駄。


「長いなぁ、そして多い」


 うん、ロックアントの巣穴は長く、そして敵の数が多かった。

 一体一体の強さは大した事ないんだが、なんといっても数が多い。

 巣穴の奥からどんどんやって来る。

 一応戦いに参加しない俺が後ろから敵が来ないか警戒しているが、今の所バックアタックの心配はなさそうだ。


「ショウジさん終わりましたー!」


 遭遇した敵を全滅させてからメーネが俺を呼ぶ。

 サシャがマナポーションを飲みつつ周辺を警戒し、その間にモードがビッグアントの素材の良い部分のみをはぎ取っている。


「もう十分ここに来ただけの出費は回収したと思うが、まだ進むか?」


 モードがどうすると聞いて来る。

 念のため俺はサシャの方も見る。

 魔法使いは魔力が尽きたら魔法が使えなくなるからな。


「こっちはまだマナポーションに余裕はあるわ。できれば半分より少し前まで減ったら撤退したい所ね」


 ふむ、まだ余裕はあるが、あまり無理はしたくない所だな。


「じゃあもうちょっと進んで見て、マナポーションが半分より3本多い数まで減るか、分岐の道を見つけたらそこで一旦戻ろう」


「分かりました!」


 方針を決め、また進み始める。

 だがやはり道はまっすぐで、その途中でビッグアントと遭遇しては戦闘が続く。


「あれ? なにこのビッグアント?」


 そして戦いを続けながら進んでいたら、メーネが倒したビッグアントを見て首をかしげた。


「どうしたメーネ?」


「あっはい。このビッグアントなんですが、他のビッグアントとちがって赤いんです」


「赤いビッグアント?」


 俺はモードとサシャに知っているかと聞いてみる。


「いや、見た事も無いな」


「新種、それとも変異種かしらね?」


 どうやら二人も見たことないみたいだ。


「まぁせっかく珍しいのを見つけたんだ。素材として使えるかもしれんな」


 そう言ってモードはさっさと解体を始める。

 とその時だった。


「む? これは!?」


 赤いビッグアントを解体していたモードが驚きの表情を浮かべる。


「どうしたモード?」


「これを見てみろ」


 モードはビッグアントの中から取り出した物を差し出してきた。


「これは……石? いや鉱石か?」


 モードの手の上には黒っぽい鉱石が乗っていた。


「コイツがアダマンタイトだ」


「これがアダマンタイト!?」


 まさかもう採りつくされたと思っていたアダマンタイトがこんな所で見つかるなんて。


「っていうかなんでそんなモンがこの魔物の腹の中に入ってたんだ?」


「どうやら巣穴を広げる為に穴を掘っていたら鉱山の中に僅かに残っていたアダマンタイトを飲み込んじまったみたいだな」


 成る程、それで体の中から出て来たって訳か。

 ビッグアント様々だな!


「という事は、もっとこの鉱山を掘り進めればもっと沢山アダマンタイトが出て来るって事か?」


 だがモードはちょっと残念そうに首を横に振る。


「いや、鉱山の鉱石残量は魔法使いやスキル持ちが調べている筈だ。この鉱山が閉山したと言う事は、大量の鉱脈はもうないだろうな。俺達はたまたま残っていた残りカスを見つけたってだけだ」


「なんだ、結局骨折り損か」


 せっかく新しい儲け話を見つけたと思ったんだがなぁ。


「おいおい、何をしょぼくれているんだ?」


 結局新しい鉱脈は期待できなかったというのに、何故かモードは上機嫌だ。


「いやだってもう鉱石はないんだろう?」


「ああ、この鉱山にはな。だがお前の畑は別だろう?」


「畑?……あっ!?」


 モードの言葉に俺はハッとなる。


「そうだ、この鉱山にはもうない。だがお前の畑ならいくらでも増やす事が出来るだろう?」


 そうだ、そうだった。

 俺の栽培スキルなら、この小さなアダマンタイトを大量に増やす事が出来る。


「よし、すぐに家に戻ってコイツを埋めるぞ!」


「おっと、その前に炉で溶かして精製するのが先だ。純度の高いアダマンタイトの塊にしてから栽培した方が後々の手間が楽だからな」


 こうして、廃鉱山にやって来た俺達は、偶然遭遇した赤いビッグアントのお陰で貴重なアダマンタイトを手に入れたのだった。


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