47 ふくよかエルフと廃鉱山
「……何か、最近太って来たなぁ」
「え? 何!? 私は別に太ってないわよ!?」
俺の呟きを聞いたサシャが、ビクリと体を震わせて否定の言葉を口にする。
「いや、サシャじゃなくてこの町のエルフ達だよ」
「え? あ、ああー、言われてみれば……」
そう、最近行商でやって来た町のエルフ達が妙にふくよかになって来た気がするのだ。
いや気がする程度ではなく確実に。
最初は気のせいかなーと思っていたんだが、来るたびにエルフ達の横幅が広がっていき、遂には気のせいでは済まない程にエルフ達の縦横比が近づいてきた。
うん、デブと言う程酷くはないが、それでも控えめに言ってふくよかな感じだ。
「新しい食材が市場に流れた影響かしらねぇ」
「え? 俺のせい!?」
いやいや、いくら新しい食材を持ち込んだからといって、そこまで急激に影響するとはとても思えないんだが。
「いや、サシャの言う通りじゃ」
とサシャの推測を肯定したのは、ウチに就職して間もないフリューだ。
「この国の料理はとにかく辛いからのう。食材が辛い以上は仕方がなかった。なにせ栄養を得る為には辛い食材を嫌々食うしかなかったからのう」
「けどそれにしても急激に太り過ぎじゃないか?」
さすがにこれは何か病気を疑わざるを得ない。
「言ったであろう? 栄養を得る為に嫌々食うておると。つまりこの国において料理とは、栄養補給の為に仕方なく摂取するもので、そこに楽しみなどは無かったのじゃ。辛くとも、食料がまともに手に入らない人間の国よりはマシだとな」
なんと、この国では料理は楽しみではなかったと言うのか。
いやまぁ、あの辛い料理を考えれば、辛いのが苦手な人間、いやエルフには地獄だろう。
「そこに辛くない食材がやってきた。栄養だけでなく、純粋に味を楽しむ事の出来る食材が、
それも平民でも購入が可能となれば、皆競って食材を手に入れて食事を楽しむであろうよ」
「な、成る程……」
どうもこの国の住人にとっても食事は重要な問題だったらしい。
ちょっとこの世界食糧問題多すぎじゃないですかね?
◆
「ショウジさーん!」
行商を終え、近くの食堂でまったりしていると、メーネが興奮した様子で帰って来た。
というのも、メーネから壊冥の森や街道を移動中に討伐した魔物の報告をしたいと言ってきたからだ。
なんでも冒険者は、依頼の成功率だけでなく、魔物を討伐する事によってもランクの査定に加点されるらしい。だから冒険者は魔物を討伐すると証明として指定されている部位は残しておくのだそうだ。
「やりましたショウジさん! 冒険者ランクが上がりましたよ!」
「おお、それは良かったですね」
メーネは俺の護衛として個人契約しているが、冒険者そのものを止めた訳ではない。
というか一度契約しておくと意図的に契約を解除しない限りずっと冒険者のままなのだとか。
「ありがとうございます! それもこれもショウジさんのお陰です!」
そう言ってメーネが深々と頭を下げて来る。
まぁ超人スキルを持つメーネが低ランク冒険者に甘んじていたのも、自らの力が強すぎる事で武器を壊してしまうからだもんな。
だが俺と言う無尽蔵に武器を提供できるスポンサーが現れた事で、メーネはその真価を発揮しつつある。
「そうそう、ランクが上がったので、探索に行ける場所が増えましたよ!」
「探索に行ける場所ですか?」
「はい!」
「強力な魔物が出る様な危険な場所は、国やギルドによって封鎖されていて、特別な許可を得た者しか入る事が出来ないのよ。冒険者のランクは、そうした危険な場所に入る為の許可証でもあるの」
へぇ、なんかゲームの新エリア解放イベントみたいだなぁ。
「ちなみに、基本的に魔物は縄張りから出る事は少ないわ。だから強い魔物が縄張りにしている土地に低ランクの冒険者を入れなくする為でもあるの。弱い冒険者が無理に入っても、餌になるだけだものね」
「あれ? でも同じ街道を行き来していても複数の魔物と遭遇するぞ?」
「それは冒険者や商人の護衛がその縄張りで暮らす魔物を討伐したからよ。私達が討伐した事で、一時的にその土地を縄張りにする魔物が居なくなるから、他所の土地で縄張り争いに負けた魔物や巣立ちをした魔物が縄張りを求めてやって来るの」
なんと、それはつまり俺達が新しい魔物の為に縄張りを用意してしまっていると言う事なのか。
なんか知らずに悪事に加担したような気分になるなぁ。
「そうなんですよ! これでもっとショウジさんのお役に立つ事が出来る様になりましたよ!」
おお、そう言われるとなんか嬉しいなぁ。
「ありがとうなメーネ」
「っ!? あっ、その……はい」
メーネは突然顔を真っ赤にすると、顔を伏せてモジモジしてしまう。
ん? なんかやる気を削ぐ様な事を言っちまったかな?
「あらあら、ショウジ君は女泣かせねぇ」
おいおい、人聞きの悪い事を言うなよな。
「それでどんな所に行けるようになったんだ?」
「ええと、それはですね……」
メーネが新しく入る事の出来る様になった場所の名前を羅列していく。
大半の場所はこの世界の地理に詳しくない俺にはピンとこない場所だったが、一か所だけ気になる名前を耳にした。
ふむ、新しい素材を仕入れる為に、そこに行くのもありかもしれないなぁ。
◆
「ロードレッグ鉱山か」
壊冥の森の我が家に帰って来た俺達は、夕食を食べながら昼間の話をモードにも告げる。
「ああ、メーネがいける様になったからな。新しい素材集めも兼ねて行こうと思ってさ」
そう、俺が気になったのは鉱山だ。
なんでもこの鉱山ではアダマンタイトというミスリルよりも硬い希少金属が手に入るらしい。
なのでこの鉱山でアダマンタイトを手に入れ、メーネの装備を新しくしようと考えたのだ。
ミスリルでもメーネの超人スキルには耐えられない。
だがミスリルよりも硬いというアダマンタイトなら、メーネの力にミスリル以上に耐えれるかもしれないと思ったからだ。
「ふむ、だがあの鉱山は……いや、お前さんが行くと言うのなら儲ける宛てがあるんだろう。よし、今回は俺もついて行こう。これでもドワーフだ、鉱山の事は任せてくれ」
「ああ、頼りにしてる」
冒険者ギルドが一般人の侵入を禁じるくらいの場所だからな、モードが口籠ったのも仕方ない。
だが、超人スキルを持つメーネを筆頭に、強力な魔法使いであるサシャ、更に鉱石に詳しいモードが一緒ならそうそう危険な事にはならないだろう。
仮に三人でも対処できない様な事態に遭遇したら、さっさと逃げるだけだ。
「儂はパスじゃ。この家の守りも必要じゃろうし、なにより石だらけ洞窟の中では儂が得意な植物の精霊魔法も本領を発揮できんからのう」
と、フリューは留守番宣言だ。
まぁ実際の話、家を守ってくれる人材は必要だからな。
「分かった、それじゃあ家は頼むよフリュー」
「うむ、任せるが良い」
それじゃあ鉱山探索行ってみようか!




