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40 エルフの国と超快速馬車

 モードに作ってもらった新しい馬車を栽培スキルで量産した俺は、近くの村に待機させていた従業員達を引き連れて、壊冥の森経由でエルフの国へとやってきた。


 ちなみに馬車を進めるのに邪魔だった木々はメーネとサシャに頼んであらかじめ伐採して貰っていた。

 そして彼女達は急ピッチで行われた伐採の疲れからか、メーネ達は馬車の中で眠っていた。


「す、凄い……あの壊冥の森を通ったのに一匹の魔物にも遭遇しないで森を抜けるなんて……」


 同行する馬車の一台を運転していた従業員の一人が、信じられないといった様子で後方に広がる壊冥の森に目を向ける。

 自分達が五体満足で森から出てこれた事が信じられないといった様子だ。


「いやはや、本当にすごいですねこの魔物避けポーションの効果は」


 従業員達を纏めている店長代理のオグマが感心した様に馬車に吊るした魔物避けポーションの入った容器を見る。


「壊冥の森を抜けてエルフの国に行くと聞いた時には、私のスキルで命を懸けて貴方を守らなければと決意していたのですが、全くの取り越し苦労でした!」


 防御のスキルを持つオグマは、壊冥の森で魔物に襲われた時は体を張って俺を守るつもりだったみたいだ。

 その気持ちはありがたいが、だからといって命を懸けるのはどうかと思うぞ。

 違法奴隷の身分から救ったからか、オグマ達は俺を過剰に尊敬している様な気がする。

 俺自身は普通の人間なんだがなぁ。


「さて、それじゃあ街道に出て近くの町か村へ行こうか」


「「「はいっ!!」」」


 俺は馬に命じて新型馬車を走らせる。


「そういえば、この馬車で広い道を走るのは初めてだな」


 最初に乗ったのはサスペンションだけを弄った馬車だったからな。

 それも庭の敷地内を軽く動かしただけだ。


 大改造をした馬車での本格的な走行は今回の旅が初めてだった。


「せっかくだ、新型馬車の性能を試させて貰おう」


 俺もこれまでの商売で馬の扱いに慣れて来たからな、多少スピードを出しても全然問題なく馬車を操れるようになった。

 あとついでに言うと、この世界の馬って地球の馬よりも賢い気がするんだよな。

 こっちの言う事を理解してくれている感じでさ。


「よし、皆すこし速度を上げるぞ!」


「「「はいっ!!」」」


 俺の言葉に馬も嘶きを上げて応える。

 そして馬車のスピードがゆっくりと上がっていく。

 うん、なかなかの加速性能だ。


 今までの馬車だったらもっと低い速度に加速する時でももっと時間がかかったからな。

 確かモードが要所要所のパーツにミスリルを使って強度を維持したまま軽量化に成功したと自慢げに教えてくれたっけ。


 地球の車でも、スピードを上げる為に最も有効な方法は軽量化だって車好きの友人が言っていたからなぁ。


「おお、明らかにスピードが上がっているのに全然揺れを感じない!?」


「なんだこの馬車は!?」


「それに凄く早いですよ!?」


 寧ろ馬車の性能の変化は、地球の自動車を知っている俺よりも従業員達の方が驚いていた。


「ショ、ショウジ様!? この馬車は一体!?」


 オグマが俺の馬車に寄せてそんな事を聞いてくる。


「ちょっと新しく開発した馬車だよ」


「あ、新しく!? この馬車をですか!?」


「作ったのは俺じゃないけどな」


 俺は機構のアイデアを出しただけで、実際に作ったのはモードの方だからな。


「それで、この馬車の乗り心地はどうだ?」


「え? あ、そうですね。すごいです。これだけ早いのに全然揺れている感じがしません!」


 ふむふむ、自動車を知っている俺からするとまだまだ結構揺れるなという感想なんだが、いままで古い馬車が普通だと感じていたオグマ達からすれば相当な新発明に相当するみたいだな。


「この馬車、問題なく運転できそうか?」


「はいそれはもう!」


 オグマが周囲の馬車の御者達を見回すと彼等も笑顔で頷く。

 寧ろ皆予想以上に乗りやすい新型馬車に興奮している様子だった。


「それじゃあ次の町目指して飛ばすぞー!」


「「「はいっ!!」」」


 こうして、調子に乗った俺達は前を走っていた馬車を次々に抜いてあっという間に当初の目的地である最寄りの町へとやって来たのだった。


 ◆


「よし、今日はこの町で宿を取って、明日の朝から行商を始めるぞ」


「「「はいっ!!」」」


 町へ着いた頃には良い時間になっており、もし新型馬車じゃなかったら街道の途中で野宿をしていたかもしれないなぁ。


 とはいえ、やはり長時間の運転はやはり堪える。

 どれだけ高性能といっても馬車だしなぁ。

 今日はもう早いところ寝るか。


 ◆


 そして翌朝の事だった。


『お客様、お目覚めでしょうかお客様?』


「ん……んん? 何だ一体?」


 ドアの外から従業員らしき声が聞こえて来る。


『申し訳ありません。お客様にお会いしたいと仰る方がいらっしゃいまして』


 俺に会いたい人?

 誰だ一体?


 少しずつ脳が覚醒してきた俺は、従業員の言葉を脳内で反芻する。


「とりあえず少し待つように言って貰えるか? まだ着替えても居ないんだよ。準備が出来たらフロントに向かうから」


「承知いたしました。お客様にはその様にお伝えいたします」


 さて、それじゃあメーネ達を呼ぶとするか。


 ◆


 メーネ達と合流した俺は、フロントに向かう前に作戦会議をしていた。


「ショウジさんに会いたい人ですか?」


「従業員の話ではな。ただ、この国で俺の事を知っている人間は居ない筈なんだよなぁ」


「とすると、例のダンジョンで大暴走を弾き起こした誰かが放った追手かしら?」


 そう考えるのが妥当だろうなぁ。


「それで、ショウジさんはどうするつもりなんですか?」


「戦うの?」


「いや、相手の目的が分からないのに戦うのは危険だろ。それにここは街中だからな」


 ヘタに暴れたらそれこそお尋ね者になっちまうよ。


「まずは相手の出方を見る。戦うかどうかはその後だ」


「分かりました! なにかあったら私に任せてください!」


「そうね、いざという時はちゃーんと逃がしてあげるわよ」


 ウチの用心棒たちは頼もしい限りだな。


「サシャ、オグマ達にもいざとなったらすぐに逃げれる様に準備しろって伝えておいてくれ」


「ええ、任せて」


 よし、それじゃあサシャが戻ってきたら、俺に会いたがっているという謎の黒幕と顔合わせと行くか!


 ◆


「こちらでお待ちです」


 フロントに来た俺達は、そのまま一階にある食堂の一角へと案内された。

 そこには数名の護衛とおぼしき耳の長い男達が油断なく周囲に視線を送りながら立っていた。


 うん? 耳が長い。

 おおそうか、これが噂のエルフって奴か!

 そういえばここはエルフの国だもんな!

 昨日は疲れて気付かなかったが、よく見ると食堂には沢山の耳の長いエルフの姿があった。


 ふむ、エルフと言えば細身で美形ってイメージだったんだが、そこまで美形って訳でもないんだな。

 どちらかといえばすらっとして整った顔だが、超絶美形って程ではない感じだ。

 あと護衛達の姿は割と若い。

 全員が20代前半といったところだろうか?

 だがエルフなら実際にはもっと年上なのかもしれないな。


「男爵様、お客様をお連れいたしました」


「うむ」


 ん? 今男爵って言わなかったか?

 って事は相手は貴族?


「ふむ、とりあえずは席に着きたまえ。特別に私と同席する事を許そう」


 と、護衛達の後ろから声が聞こえると、俺達の前に立ちはだかっていた護衛達が左右に音もなく割れる。


「初めまして、私の名はアワード・ラーガ・ドライ男爵だ」


 そして、その奥から現れたのは……金髪碧眼の絵に描いた様な美形エルフだった。


「やっぱ美形じゃん!?」


「は?」


 何だよ、護衛が普通の容姿だったから、この世界のエルフは普通かと思ったのに、やっぱり美形じゃんかよ!


「今のは……どういう意味だね?」


 い、いかん、思わず本音が出てしまった。

 思いっきり訝しんだ目で見られてしまった。


「これは失礼しました。私の名はショウジ・アキナと申します男爵様」


 俺は必死で取り繕いながら自己紹介する。


「ふむ? まぁ良い。貴殿を呼びだしたのはほかでもない」


 む、来るか!?

 話題は何故自分達の邪魔をしたのか、もしくは二度と邪魔をするなといったところか?

 わざわざこんな目立つ場所に会話の席を用意したと言う事は、問答無用で襲ってくるつもりはないと言う事だろう。

 そう思いたい。


 だがそれなら上手く交渉出来れば、これ以上のゴタゴタを招かないで済むのも事実だ。

 これは俺の交渉能力が試されるぜ!

 異世界仕込みの交渉術を舐めるなよ!


 などと気合を入れた俺だったが、男爵様の告げた言葉は俺の予想とはまるで違うものだった。


「貴公の所有する馬車を私に売って欲しいのだ」


「……は?」


 そう、男爵が求めたのは、俺の命でも何でもなく、モードが開発した馬車の方だったのだ。


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