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39 ドワーフと新型馬車

「ふむ……」


 エルフの国で売る為の商品を畑に植え終えた俺が帰って来ると、何やらモードが馬車の前に立って唸っていた。


「何を唸っているんだ?」


「いやな、この馬車がちと気になってな」


「気になるって、何がだ?」


 俺にはただの馬車にしか見えないが。


「この馬車、どうにも出来が悪くて気になる」


 ああ、そういう意味ね。


「この辺りの軸など、今は良いがあと数年もしないうちに使えなくなるぞ」


「そんな事も分かるのか!?」


 アンタ武器を作る専門の鍛冶屋じゃなかったのか!?


「この程度、ドワーフなら子供でも分かる」


 ドワーフすげぇな。

 生まれつきの職人種族なのか。


「なぁ、この馬車直して良いか? そう時間は掛けん」


 ふむ、直してもらえるってんなら是非ともお願いしたいな。


「ああ、構わない。というか直してくれるなら願ったりかなったりだ。それと時間が空いたらでいいんだが、外の村に置いてきた従業員達の馬車も直して貰えるかな?」


「任せておけ。出来の悪いモンが近くにあるのは気分が悪いからな。あと家の具合の悪い所も直しておいたぞ。まったく、こんな素人作りの家で良く暮らせたもんだ」


「お、おお、ありがとな」


 やばい、ドワーフ便利すぎるだろ。

 何も言わなくても勝手に家を直してくれたりとか、お前は寝てる間に仕事してくれる妖精さんかよ。


「それと家を囲む塀も、お前さん達が商売しに行ってる間に直しておくからな。こんなに周囲がグニャグニャしてたら気になってしょうがない」


「え? ちょっと不格好な事は認めるけど、そこまで酷くはないと思うぞ?」


 ちょっと神経質なんじゃないか?


「人間は気にせんかもしれんが、儂等ドワーフは出来の悪い道具を見ると気分が悪くなるんだ。なんであともう少し仕上げに気を使う事が出来んのかとな」


 ふむ、種族的に完璧主義者的な性格なのかな?

 定規を使わずに書いた線がグニャグニャで気になる的な感じなんだろうか?


「まぁその辺は好きにしてくれて構わないよ」


「おう、好きにいじるぞ」


「けど、そうなると馬車にサスペンションとか仕込んでもらう余裕はなさそうだな」


 正直、馬車の乗り心地の悪さはシャレにならないので、そのうち自動車のサスペンションみたいなものを付けて貰えないかと思ったんだが、暫くは尻に敷く毛布でも栽培して少しでも衝撃を和らげるしかないか。


「ちょっと待て、サスペンションって何だ?」


 とその時、モードの目がギラリと光った……気がした。


「ああ、俺の故郷の乗り物の衝撃を和らげる機構だよ。馬車の乗り心地とかが良くなるんだ」


「ほほう」


 なんか距離が近いな。

 ポーズだけはちょっとばかし興味深いなって感じなんだが、動きが何それ!? 超気になる! って感じでグイグイ近づいて来た。


「大きなバネを使っていてさ……」


「バネと言うのはなんだ?」


「バネってのは……」


 こうして俺は、サスペンションの構造が気になったモードに延々と根掘り葉掘り質問をうける事となった。

 うん良く分かった。

 コイツ生粋の技術バカだ。


 ◆


そして翌朝。


「おう、昨日話していたサスペンションが出来たぞ!」


「早えーよっ!?」


 おまっ、昨日の今日だぞ!?

 どんだけ仕事早いんだ!?


「ドワーフは鍛冶魔法が使えるからな。精度を上げるなら手作業の方が良いが、多少の加工くらいなら魔法を使った方が早い」


 へー、そんな魔法があるのか。

 工作機械いらずだな。


「説明があやふやだった部分はこっちで適当に考えて弄ってみたが、まぁ動かす分には問題ないだろう」


 まぁ俺は車の専門家でもマニアでもないからな。

 詳しく説明できない部分があったんだが、モードはそんな部分を自分の感性だけでクリアしてしまったらしい。


 ホントドワーフ便利だな。

 コイツをウチの専属鍛冶師として雇って正解だったわ。


「スプリングは割と簡単に作れたんだが、グリスとかいう粘度のある潤滑剤の再現に苦労してな、魔女の嬢ちゃんに聞いたら魔物素材で良いのがあるっていうからそれを利用したらうまく再現できたぞ」


 魔物素材便利だな。

 あとスプリングを簡単に再現したのかよ。


「ほれこれだ」


 うわっ、ホントにスプリングだ。


「こう手で押すとたわんで、手を離すと元の形に戻る。これで良いんだろう?」


「あ、ああ……って硬っ!?」


 モードが簡単に手で押していたので自分も真似してみたんだが、鉄の塊みたいにガチガチで殆どたわまない。

 いや、鉄の塊なのは正しいんだが。


「ははっ、人間はひ弱だな。そのくらいの硬さが無いと荷物を積んだ馬車の衝撃を和らげるのは無理だろ」


 ああ確かに。

 馬車用として考えてたらこのくらいの硬さで丁度良いのかもな。


「そら乗ってみろ」


「え?」


「サスペンションってのを付けた馬車はお前しか乗った事が無いからな。これで本当にあっているのかはお前でないと分からん」


 ああそういう事ね。

 確かに言われてみればそうだ。

 モードは俺の言ったとおりに作っただけだからな。

「よし、そんじゃちょっと試してみるか」


 俺は馬車に乗ると馬をゆっくりと進める。

 すると以前は動き出した途端ガクンと衝撃を感じたのだが、今回の発進ではモードが作ったサスペンションのお陰か格段に衝撃が和らいでいた。


「おお、こりゃ凄いな。今までの馬車とは雲泥の違いだ!」


「そりゃよかった。とりあえず試作品は成功って訳だな」


「試作品?」


「ああ、今回のは試しで作ったモンだからな。これから形を詰めていくのさ」


 成る程、さすがプロの鍛冶師だ。

 ここからさらに高性能にしていくのか。


「いやそれにしてもビックリしたわ。本当に作るなんてなぁ。これなら他にも色々と馬車にギミックを仕込めそうだな」


「ふむ……何を考えているんだ?」


 と、モードがニヤリと笑いながらこちらを見てくる。

 面白いアイデアがあるのなら、ぜひ聞かせろと言いたげだ。

 いや言外に言っているんだろうな。


 とはいえ、モードがここまで簡単にサスペンションを再現できるのなら、もっと馬車の乗り心地を良くして貰おう。

 その方が繊細な荷物の輸送をする際にも便利だしな。


「ならそうだな……」


「ふむ、そりゃ面白いな。他には何かあるか?」


「あと馬車に仕込むのに適しているかはわからないんだがこういうのがあってだな……」


「ほうほう! そんな精緻な細工を馬車に仕込むのか!?」


 新型馬車に仕込むギミックの相談が楽しくなって、俺はモードが望むままにどんどん自動車に使われている機構を説明していく。


「ショウジさん達楽しそうですねぇ」


「男っていうのはね、何時まで経っても子供なのよ」


「あっそれ、なんだか大人の女って感じでカッコいいです!」


「あらそう? ありがとうね。でも私はまだ若いから、そこは覚えておきましょうね?」


「は、はい!」


 と、馬車の改造計画を練るのに夢中になっていた俺達を後ろからメーネ達が呆れて見ていたのだった。


 ◆


 そして数日が経過したある日。


「……完成したぞ」


 ボロボロに憔悴したモードがフラフラとリビングに入ってきてそう呟いた。


「おお、遂に完成したのか!?」


 というか遂にという程時間かかってねぇし!


「見に来い」


 そう言うと、モードは返事も聞かずに外へ出ていく。

 当然それを追わない選択肢がない俺はモードの後を追う。


 そして家の外に出ると、中庭に真新しい馬車の姿があった。


「って言うか、最初の馬車ともう別物だな!」


 明らかに形が違う! 大きさも違う! というか原型が無ぇ!

 寧ろもうこれ自動車だよ!

 エンジンルームが御者台になった自動車だ!


「お前さんから聞いた機能を盛り込んいたら、これも改造するよりも新しく作った方が早いと思ってな。大半の部品は新しく作り直したぞ」


 それもう殆ど新車ですよね。

 元の馬車の部品とかどんだけ残ってるんだよ。


「これがお前の新しい馬車だ。これならどんな場所にも商売をしに行ける……ぜ」


 と、そこまで言ってモードは満足したのか、バタリと前のめりに倒れた。


「モ、モードッ!? 大丈夫かおい!?」


 突然倒れたモードに困惑していると、サシャがモードの傍によってしゃがみ込む。

 そしてモードの脈を取ったりして様子を見始めた。


「どうなんだサシャ?」


「ただの過労ね。ここの所徹夜続きだったみたいだし」


「ずっと徹夜してたのか!? そりゃ倒れる訳だよ!」


 ウチはブラック企業じゃないんだから、徹夜なんてしなくて良いんだぞ!?


「ええ、夜にうるさいから、ここ数日は彼の仕事場に静穏魔法を掛けていたくらいよ」


 マジか、そんな事してくれてたのかサシャ。

 ううむ、気遣いの出来る女だな。


「私の研究の邪魔だったしね」


 あ、自分の為でしたか。


「とりあえず栄養補給用のポーションを飲ませて、寝かせておけば明日にも元気いっぱいよ。メーネちゃん、この大きな子供をベッドに放り込んでおいて」


「はーい」


 ヒョイっとモードを担ぎ上げたメーネがモードを家の中に運んでいく。

 こういう時メーネ居ると重い物を運んでもらえるからありがたいな。


「ん? 重い物を運ぶ?」


 そこで俺はふとある事を思いつくいた。


「おーいメーネ、ちょっと手伝ってくれないか?」


 俺はモードを運び終えて戻ってきたメーネに声をかける。


「はい! お任せください!」


「畑にこの馬車を埋めるから、穴を掘ってくれないか」


「畑に出来たばかりの馬車を!? 何でそんな事を……あっ、そういう事ですか!」


 一瞬俺の発言の意図を理解できずに驚いたメーネだったが、すぐにその意味を理解する。

 そう、俺はこの馬車を栽培スキルで増やせないか?と考えたんだ。


 最初はモードに従業員達の分の馬車も同じように改造して貰おうと思っていたんだが、メーネの超人スキルがあれば、馬車の様な大型の物品でも栽培が出来るんじゃないかと?


 実際ゴルデッドと戦った時に使った丸太も栽培出来たんだし、畑にうめる事さえできれば大物の栽培は不可能ではない筈だ。


 大きすぎる品は栽培出来たとしても俺の力では収穫する事さえできないと考えていた。

 だが、事情を知ったメーネが居れば、その問題も解決する。

 彼女の超人スキルなら、馬車を埋める為の穴を掘る事も、栽培した馬車を収穫する事も容易だ。


「じゃあさっそく穴を掘りますねー!」


 こうして、やる気満々のメーネの手伝いを得て俺は馬車量産計画を発動するのだった。


「あーっ! またシャベルを折っちゃいましたーっ!?」


 なお、その際に何本ものシャベルがメーネの力に耐えきれずにへし折れたのは言うまでもない。

 モードが起きたらミスリルのシャベルも作ってもらおう。


 ◆


「な、なんだこりゃ!?」


 そして翌日、徹夜疲れから回復したモードが家の前に並ぶ何台もの新型馬車の姿を見て目を丸くしていた。


「ああ、新しく作ってもらった馬車を栽培スキルで増やしたんだ」


「私も手伝いましたよ!」


 メーネが誇らし気な様子で胸を張る。

 だが悲しいかな、張れる程のサイズがないのだ。


「今何か失礼な事を考えませんでしたか?」


「イエゼンゼン」


 そんな会話をしている間に、モードが俺の栽培した馬車を見て回っている。


「俺の作った馬車とそっくりそのまま同じだな」


 先日のミスリルの剣に続いて、昨日作ったばかりの馬車まで栽培されてモードは呆然とした様子でそれを見ていた。


「はー……わかっちゃあいたが、ヤッパリお前さんのスキルは本当にデタラメだなぁ」


 苦労して開発した馬車があっという間に量産された事でモードが呆れたと言わんばかりに溜息を吐く。


「自分の作ったものを簡単にコピーされて気分悪いか?」


 正直これでモードが気分を害するようなら、今後はモードの作ったものを栽培するのは控えた方が良いかもな。

 俺のスキルは植えたものと同じものを栽培するスキルだが、モードの様な職人から見たらやはり気分の良いものではないかもしれない。


「いや、同じモンを何個も作る手間が省ける。その時間で別のモンを作れるから俺は構わねぇぜ。この間言った通りだ。」


 モード個人の気質なのか、ドワーフという種族の気質なのか、俺のスキルで無造作に増やされた馬車についてネガティブな意見はないみたいだ。


 地球に居た頃は、便利な道具で楽をする事は堕落だ! 仕事は苦労するのが当然だみたいな考え方をする上司が居たなぁ。

 そして彼等は自動で数値を導き出してくれる計算式を盛り込んだ電子書類すら、手を抜いていると嫌がっていた。


 俺達若手は正確で楽できるから良いし、むしろ手間を省く計算式を作ったヤツを誉めるべきじゃね? と思ったもんだがなぁ。


 ともあれ、モードが自分の作った品を栽培されても怒らないと分かったのは良い事だ。

 これでこれからも安心して栽培が出来るというもの。

 それに今回は馬車の様な複雑な構造をした大物も栽培できると分かったのは収穫だ。


「……というか、メーネが居れば家も栽培できるんじゃね?」


 ふと俺はそんな事も考えてしまった。

 なんとかメーネが運べるような家をモードに設計して貰ってそれを俺が栽培すれば、外の村で待機して貰っている従業員達の家も簡単に作れるのではないだろうか?


 そしてそれが上手くいくのなら、更に色々な事が出来る様になるんじゃね?

 ううむ、スキルの運用計画の夢が広がっていくなぁ。


「なにはともあれ、これでエルフの国へ向かう為の準備が揃ったぞ!」


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