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38 奇跡の畑

「ではこれより契約魔法による契約を始めます」


 モードと従業員を連れて王都を出た俺達は、拠点である壊冥の森へ向かう途中にある町に居た。


 目的は商売……ではなく契約屋という店という店だ。

 この店で商人達は契約魔法を使った契約を行うとの事。

 メーネ達に俺の仕入れの秘密、栽培スキルの事を教える為にやって来たのだ。


 ちなみにこの契約屋、それなりに大きい町ならどこにでもあるそうだ。

 そして契約魔法なんだが、てっきり仰々しい神殿みたいなところに連れていかれて、これまた堅苦しい儀式でも行うかと思っていたのだが……。


「ではこちらの契約書に契約内容と名前を記入してください」


 儀式内容すっごい事務的ぃーっ!


「ではこちらに血を垂らしてください」


 おっ、俄然儀式っぽくなった。

 でも自分の指に針を刺すとかちょっと嫌だなぁ。


「それでは契約を締結いたします」


 そう契約屋が宣言して呪文を唱えると、契約書が光を放ち始め、俺達の体を包み込んだ。


「お、おおっ!?」


「はい終わりました」


「もう終わり!?」


 すっごいあっさりだ。

 光もすぐ消えちゃったし、なんと言うかこう……期待外れと言うか。

 もう少し仰々しい感じを想像していたんだがなぁ。


「こちらが皆さんの契約書になります。出口はこちらになります」


 と、まるでワンコそばよろしく流れる様に出口へと運ばれる俺達。


 まぁ後ろに次の客も居たし、いちいち契約する為にそんな仰々しい儀式をしていたら、この世界の契約は長蛇の列になっているのは分かる。

 でもなぁ、もうちょっとこう……ねぇ?


「さっ、それじゃあショウジ君の秘密を教えて貰いましょうか!」


「はいっ!」


「うむ」


 君達は平常運転だねぇ。

 いや、俺が異世界の儀式に期待し過ぎていただけと諦めよう。

 今度はこっちが驚かせてくれるわ!


 ◆


「成程、こんな場所を本拠地にしていたのね。道理で魔物避けのポーションを欲しがるわけだわ」


 王都を出て壊冥の森へとやって来たサシャは、俺が魔物避けポーションに興味を持った理由を察した。


「ところでこの森は魔法使いにとって相性が悪いみたいだけど、それは大丈夫なのか?」


 確か魔法使いを不調にさせる波動が漂っているとかいう筈だが。

 そうなるとサシャがここで暮らすのは色々と不都合が生じてしまうからな。


「ああ、それなら大丈夫よ。私のスキルを使えばこの森の中でも問題なく活動が可能だから」


「スキル!? サシャもスキルが使えるのか!?」


 何とコイツは驚きだ。


「私のスキルは魔力操作。魔法を効率的に操ったり、周囲の魔力の流れを感知したり出来る能力よ。壊冥の森は魔力の流れを乱して魔法を使いにくくする場所だから、私のスキルとは相性が良いのよ」


 成る程、壊冥の森は魔法使いにとって天然のジャミング装置って感じなのか。

 そしてサシャはスキルの効果でそれをキャンセル出来ると。

 俺はちらりとモードの方を見る。

 メーネ、サシャとスキルが使えたと言う事は……


「誰も彼もスキルを使えると思うなよ」


 あっ、スンマセンでした。


「さっ、そういう訳だから遠慮なくショウジ君のアジトに行きましょう!」


 自分のスキルを披露した事などどうでも良いと言わんがばかりに、サシャが森へと入っていく。

 自分の秘密よりも仕入れの秘密の方が大事とはなぁ。

 まぁいいさ、精々驚かしてやるとしよう。

 俺の秘密を知ってビックリするが良い!


 ◆


「「「「なぁっ……!?」」」


 無事契約魔法による契約を終えた俺達は、途中の街道で従業員達と合流すると彼等を引き連れて壊冥の森へと戻って来た。

 といっても、森の家は狭いので従業員達は一旦いつもの村で待機してもらっている。

 村の住人達は食料や王都の商品を売ってくれる俺達の事を重要視しているから、表立って味方してくれなくとも、従業員達が逃げる為の時間稼ぎくらいはしてくれるだろう。

 社員達にももし追手が来た場合は、用意しておいた魔物避けポーションを使って森の中に逃げ込めと指示をしてある。


 そんな訳で、森の家に連れて来たのは契約魔法によって俺を裏切らないと契約したメーネ、サシャ、モードの三人だ。

 そして三人は俺が秘密にしていた畑を見て、大口を開けて絶句していた。


「な、何ですかこれ!? ポーションが木から生えて……るんですけど」


「作り物……? いえ違う本物の植物!?」


 サシャは作り物かと疑ったが、ポーションの生っている木が本物だと気付いて二度驚く。


「剣が畑に突き刺さっているんだが、こりゃなんの冗談……いや待て、これは俺の打った剣か!?」


 さすがに自分が鍛えた剣は分るらしく、モードが畑から剣を引き抜いて凝視している。


「まさかこれも俺の剣か!?」


 モードは他の剣も引き抜いて自分が鍛えた剣である事を確認している。


 三人はもしかして自分は寝ぼけているのかと目を擦る。

 しかし見間違いではない。

 次にお互いのほっぺをつねって夢じゃないか確認しあっている。

 異世界でもほっぺたつねって夢か確認するんだなぁ。


「シ、ショウジさん、これは一体何なんですか!?」


 メーネが困惑しながら俺に問いかけてくる。

 メーネだけじゃない、後ろにいる二人の眼差しも同じ疑問を投げかけていた。


「これが俺のスキル『栽培』の力さ」


「「「これがスキル!?」」」


「ああ、俺のスキルは見た通り埋めた品を栽培する力だ。こんな風にな」


 といって、目の前の木から生えたポーションの小瓶を枝から引きちぎる。


「そう、そういう事だったのね。……このスキルであのマジックアイテムの山を量産した訳なのね?」


 この光景を見た事で、サシャは俺が大量のマジックアイテムを短時間で用意できた理由に思い至る。


「じゃ、じゃあ私の武器も?」


 メーネも目の前の畑に刺さっている剣を見て俺に答えを求めてくる。


「ああ、メーネの武器も全部俺のスキルで栽培したんだ」


「す、凄すぎます……」


「めちゃくちゃだ……」


 モードは目の前の光景が信じられないのか、眉間を指で揉んで平静を保とうとしている。


「でもこれなら全部納得できるわ。スキル持ちはそのスキルによっては一軍に匹敵するって言われるのは本当だったのね」


 いち早くショックから立ち直ったサシャがそう呟く。


「ああ、これだけの精度の品を……いや植物も無機物も関係なく栽培できるのなら、それこそ大量の補給物資を持ち運ぶ必要もないからな」


 モードもそう言って栽培された自分の剣を複雑な眼差しで見つめている。


「それにショウジさんが今まで自分のスキルの事を内緒にしようとしてきた理由も分かりました」


「ええ、こんな秘密を誰かに知られたら、どんな目に遭うか分からないものね。契約魔法を使って正解だわ」


 確かに、今の皆の反応を見れば、サシャに契約魔法の正しい使い方を教えて貰えたのは良かったと思っている。

 三人が俺を裏切るとは思えないが、今後この畑を、俺にスキルの情報を誰かに教えざるを得ない事態に陥った時、契約魔法による守秘義務を徹底できると出来ないとでは全く危険度が違うからな。


「これ、もしも外部にバレたら俺達の命も危ないな。絶対に秘密を独占する為に事情を知っている奴等は皆殺しにされるぞ」


 ああ、そう言われると確かにそうだ。

 組織に属している人間ならともかく、モード達は個人の冒険者や鍛冶師だからな。

 そう言う意味ではもうモード達は俺と運命共同体と言える。


「でもまぁ、これなら私達もショウジ君の事を積極的に守る気になれるわ」


 ん? そらどういう意味だ?


「だって、君が居れば好きなだけ研究素材を増やして貰えるんだもの。そんな最高のパトロンを売る様な真似絶対にしないわよっ!」


 滅茶苦茶嬉しそうな眼差しでサシャがポーションの生えた木を撫でる。


「貴重なマジックアイテムを解体して改造して実験して、そんな事をしようと思ったらどれだけのお金と素材が必要になる事やら。それだけじゃないか、貴重な品や素材は単純に数に限りがあるもの。使い続ければいつか尽きてしまう。でもショウジ君と共に居ればその心配が無いのよ!」


「ふむ、そう考えると俺もそうだな。この畑を見れば、ミスリルをいくらでも増やせるのは道理。ならこれから手に入る貴重な鉱石の事を考えれば、この情報を秘するのは当然の事だ」


「ふふふふふっ」


「くくくくくっ」


 サシャとモードがすげー身の危険を感じる笑いをしてるんだけど、契約魔法で俺を裏切れないようになってるから安心して良いんだよな!? なっ!?


「あ、あの! 私はスキルの事が無くてもショウジさんについて行きますから!」


「メーネ……?」


「金貨千枚の借金を負った私を助けてくれた背景に、スキルの力があった事は確かだと思います。でも、私を助けようとしてくれたショウジさんの決断にスキルの力は関係ありませんから。だから私はスキルとか関係なくショウジさんについて行きます!」


「メーネ……」


 ええ子や、ホンマええ子や。

 俺は今、心からこの子を助けたのは正解だったと確信した。


「あらー、私もショウジ君の為に働くわよー」


 いやいや、さっきまでめっちゃ欲望に濁った眼をしてませんでしたかお嬢さん?


「俺は素材さえ提供してくれるのなら何でもいい」


 アンタはいっそ潔いわ。


 ◆


 畑から帰って来た俺達は、リビングで今後の方針を決める事にした。


「さて、それじゃあ改めて今後の話をしたいと思う。内容はどこの国で商売を行うかだ」


 俺はこの世界の事に詳しくないからな、商売に向いた国、出来れば安定した情勢の国で店を開きたい。

 店を開いてすぐにまた逃げる様な目に遭いたくはないからなぁ。


「いいか?」


 俺の発言にさっそくモードが手を上げる。


「どこの国で商売をしようが構わんが、ここはどうするんだ?」


 と、モードは地面を指さす。

 壊冥の森の作ったこの家はどうすると言いたいのだろう。


「ここは俺達のメインの活動拠点としてこれからも使い続ける。今回の話は王都の店と同じく従業員達が働く為の店をどこの国で出すかって話だ」


「成程な。それなら俺は何か用事が無い限りここで鍛冶をする。仕事柄移動を続けるのは性に合わんし、何より拠点に残る奴が居た方が良いだろう?」


 成る程、確かに鍛冶屋となれば炉や金床を持ち運ぶわけにはいかないからなぁ。

 俺としても拠点を守る人員が居てくれるととてもありがたい。

 帰ってきたら家が魔物に占拠されていたとか勘弁だからな。


「そういう訳だから、設備を揃える予算と素材をくれ。後は勝手にやる」


 すげーマイペースだが、モードが鍛冶仕事に専念してくれるのならメーネの武器の修理も安心して任せる事が出来る。

 いや、メーネの場合は壊しちまうから新しい武器を作ってもらうの方が正しいか?


「とりあえず武器殺しの嬢ちゃん用の武器を作るか。今の獲物だと細すぎる。せっかくミスリルが山ほどあるんだ。嬢ちゃんが使っても簡単には壊れないように頑丈なモンを作ってやるよ」


「本当ですか!?」


 モードの申し出にメーネが目をキラキラさせて飛びつく。


「おう、壊れないは無理だが、壊れにくい武器ならやりようはあるからな」


「ありがとうございます!」


 メーネが嬉しそうにモードに頭を下げる。


「気にするな。ここなら素材が有り余ってるからな、俺も予算とか気にせずにモノが作れる。それにこれだけミスリルを自由に使える機会はそうそうないからな。色々と試させてもらうとするさ」


 あっ、これアレだ。職業は違うけどサシャと同じでマッドなタイプだ。

 職人気質と言うか、マッドエンジニアというか、自分の業を追及する為なら細かい事を気にしなくなるタイプだな。

 わざと書いて業とはよく言ったもんだよ。


「となると……メーネは俺の護衛としてついてくるとしてサシャはどうする?」


 サシャも冒険者ではあるものの本職は研究者だ。

 そうとなると彼女もここで研究三昧だろうか?


 と思ったんだが、何故かサシャは俯き加減で俺を見つめて来る。

 うむ、上目使いの美女って良いよね。


「そうね、基本は私も研究に専念したいけれど、ショウジ君のスキルが分かった以上、護衛は多いに越した事は無いわ。だから私も研究に集中したい時以外は護衛に回るとするわね」


 うん、動機は不純だが、よくよく考えると最初からそういう目的でパトロンを希望された訳なのであんまり関係性は変わっていないな。

 寧ろ積極的に俺を守ろうとしてくれるので良しとしよう。


「じゃあ話を戻すが、何処の国に向かうのが良いと思う?」


「そうねぇ、なるべく人間の国と友好的な国が良いわよねぇ……」


「私はこの国から出た事が無いので、あまりお役に立てそうにないです」


「俺はエルフの国が良いと思うぞ」


 と言ったのはモードだった。


「エルフの国?」


 おお、エルフ! 魔法と並んでファンタジーの代名詞ですね!


「エルフの国はここから一番近い国だ。壊冥の森を抜ける事を考えるならあそこが一番楽だろう。それに人間の国とも適度な距離感で付き合っている国だしな」


 成る程、仲が良すぎるとダンジョンで大暴走を起こした黒幕や人間の国の貴族に協力して俺を捜すかもしれないもんな。


「ってそう言えば今人間の国とかエルフの国とか言ったけど、種族によって国が分かれているのか?」


 この世界って種族ごとに集まって暮すのがデフォルトなのだろうか?

 だがモードはドワーフだしなぁ。


「まぁ同じ種族の方が集まりやすいってのは確かだな。だが他の種族が居ないって訳じゃないぞ」


「そうね、大体国家を構成する種族が7~8割で、他種族が1~2割ってところかしら。国によって多少の差は出るけど大体同じくらいよ」


 割と少な……いや車や飛行機のないこの世界で考えると結構多い方か?

 だがまぁ、他種族も暮らしているのなら尻込みする必要もないか。


「よし、それじゃあ次の目的地はエルフの国だ!」


「はい! 護衛は任せてくださいショウジさん!」


「エルフの国となると、薬草や香辛料が特産品ねー」


「俺は行かんが、まぁ頑張ってこい」


 俺の号令に対し、メーネ達は三者三様の答えを返してくるのだった。


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