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37 新しい仲間

「それじゃあ店の方は任せたよサシャ」


「はーい」


 王都へ従業員達を迎えに来た俺達だったが、伯爵にマジックアイテムを売りつけた張本人である俺が直接店に行くと、俺が店の関係者だと気づかれてしまう危険がある。

 そうなると撤収準備をしている間に従業員達が黒幕に襲われる可能性も否定できない。


 なので俺達との関係があまり知られていないサシャに連絡を頼む事にした。

 で、その隙に俺はモードの店へとやって来た。

 色々と伝えておきたい事があったからだ。


 ◆


 モードの店に入ると、相変わらずの熱気が押し寄せて来る。


「よう大将、仕事は上々かい?」


「おう、今日は何の用だ?」


「いや紹介された仕事を無事完遂したって報告しに来たのさ」


「なんだ、わざわざそんな事を言う為にやって来たのか? 律儀な奴だな」


「まぁ本題は別にあるんだがな。実は、この国を出る事にしたんだ。」


「何?」


 モードが怪訝そうな顔になる。


「お前、大通りに店を持ったんじゃないのか? あんな立地の良い場所に店を持つなんざ、滅多に出来る事じゃないぞ?」


 まぁそう言われるのも当然だよなぁ。

 店の立地の重要性は地球も異世界も同じだ。


「って、何で知ってるんだ!?」


 確かモードにはその事を教えてなかった筈なんだが。


「ここ何日か、うちに来る新顔の客が何人か表通りに出来た新しい店の店主が誰か知らないかって聞いてきたんだよ。ただの鍛冶屋にそんな事分かる訳ねぇだろって追い返してたが、ありゃあ多分以前お前の事を探ってた連中の仲間だぞ」


「あー……すまん」


 つまりモードの所に変な連中が来た原因は、俺だった訳だ。


「まぁ気にすんな。どうせお前は以前からウチに来ていたからな、ゴルデッドの件でも探りを入れられていただろう?」


 更にその通りでした。


「それで、何があった?」


 モードが真面目な顔でこちらの目を見る。

 うーん、今回の事件の真相を話すのは正直良くないんだが、モードはある意味もう巻き込まれているからなぁ。

 俺が巻き込まない様に教えなくても、相手はモードの事を俺の関係者と思う可能性が高い。

 そう言う意味ではモードは既に関係者といって差し支えなかった。

 しゃーない、モードなら秘密を守ってくれるだろうし、教えるか。


「実は……」


 俺はダンジョンから溢れた魔物討伐を手伝った話、更にはダンジョンの下層に魔物を興奮させる香などが大量に使用された形跡があり、今回の事件を企てた犯人から逆恨みされる可能性がある事を話した。


「成程、それでこの国を出るって訳か」


「ああ。あんたには他にも色々と仕事を頼みたかったんだがな」


「ふむ……」


 モードは目を瞑ってしばし黙考する。


「よし分かった。なら俺もお前達に付いて行こう」


「……は?」


 おいおい、一体何を言ってるんだこのおっさん。


「アンタ人の話を聞いていたのか? 俺達はヤバい連中に目を付けられたかもしれないんだぞ?」


「らしいな。だがまぁ生きてりゃ厄介事の方からやって来る事もあるだろうさ。それに俺としちゃあそんな連中の心配よりもお前さんって取引相手が居なくなる方が問題なんだよ」


「俺が?」


「以前ウチに大量に持ち込んだ折れたミスリルの武器の山。それにこないだの高純度の鉄の件。正直言ってあれだけ大量の鉱石をこんな短期間で目にする機会は俺の今までの人生の中で一度もなかった。それだけお前さんの持ち込んだ素材は質も量も異常だったんだ」


 まぁあの件は相場についての常識なんかを知る事が出来たんで、俺としてもありがたかった。

 だが、それが何故モードがついて来る理由になるんだろうか?


「お前といっしょに居れば、もっと珍しい鉱石を大量に扱える気がするんだ。まぁこれは、ドワーフの鍛冶師としての勘だがな」


「店はどうするんだ?」


 俺は栽培スキルを使えば金も物もすぐにとり戻せるが、普通の人間、いや普通のドワーフのモードはそうもいかない。


「知り合いの鍛冶師に譲れば無駄にならん」


 それで良いのかおっさん。


「でだ、お前俺を雇わないか?」


「雇う?」


 なんか妙な事を言いだしたぞこのおっさん。


「俺をお前の店の専属鍛冶師にしろ。お前が素材を仕入れ、俺がそれで物を作る。お前がさっき言っていた作って欲しい品ってヤツも、自分が囲い込んでいる専属職人に作ってもらう方が良いんじゃないか? お前の事だから妙な物を作らせるつもりなんだろう?」


 確かに、実を言えばモードにはこの世界には存在しない地球由来の機械部品とかを作って貰いたいとは思っていた。

 文明レベルの問題で設備やノウハウが足りなくとも、ドワーフの技術ならなんとか出来るんじゃないかと期待していたのは事実だ。


 何しろこの世界にはまだ存在しない技術が世に出れば大きな商売のタネになるのは間違いない。

 そしてその技術を取り扱う職人は、信頼できる自社の人間に独占させるのが一番安全だ。

 地球でも外国に発注した所為で質の悪い製品が出来たり、技術を盗まれて安い粗悪品を大量に生産されて大打撃を受けた企業は多いもんな。


「けどそれアンタにメリットあるのか?」


「あるぞ。まず珍しい鉱石を扱える可能性が高い。次にお前が集めて来た珍しい武具を調べる事が出来る。最後に面倒な商売はお前に任せる事が出来る」


 ああ、鍛治の腕を磨けるなら、他の事はどうでもよいタイプなのか。

 どうやらサシャと同じ人種みたいだな。


「それによ、お前さんにはあの悪名高い武器殺しが懐いているしなぁ」


 と言って、モードは俺の横に立つメーネを見る。


「わ、私ですか!?」


 メーネは突然自分の名前が出てきて目を丸くしている。


「お前さんは以前、武器殺しの為にオリハルコンを探すって言ってたろ。伝説の中にしか存在しない鉱石を手に入れるなんざ、まったくもってバカバカしい話だが……不思議とお前さんなら本当にオリハルコンを見つけちまうんじゃないかとも思わされちまった。だったらよ、お前が見つけたオリハルコンを武器に加工する鍛冶師が必要だろうが?」


 つまりモードは俺の専属鍛冶師になる事でいつか手に入れるであろうオリハルコンを扱いたいと言いたい訳か。


「けどもしオリハルコンが見つからなかったらどうするんだ?」


「そんときゃ俺の見る目がなかったって事だ。けどまぁ、ミスリルの武器を無尽蔵に武器殺しにくれてやるお前さんだ。オリハルコンとは言わずとも、希少な鉱石を大量に仕入れる事はできるだろうさ」


 成る程、たとえオリハルコンが手に入らなくとも、他の希少な金属が扱えるのならそれで構わないって事か。


「個人の鍛冶屋じゃあ手に入る素材には限度があるからな。依頼主が自主的に貴重な素材を持ち込む事なんてめったにある事じゃねぇ。そのへん、お前さんなら自分から珍しい素材を仕入れてくれそうだ。まぁ、そういう訳だから俺はお前について行くぞ」


 そう言って、モードは半ば強引に俺について来る事を宣言した。

 まぁ俺としても専属の職人が店に入ってくれるのはありがたいのは確かだ。


「……分かった。よろしく頼むよ」


「おう、任せろ店長」


 そうと決まったモードの動きは速く、必用な機材を集めて店をたたむ準備を始めた。

 とそんな時、サシャが店の中に入って来た。


「お店の方に連絡はしてきたわよ。ふふっ、突然引き上げると言われて皆驚いていたわ」


「だろうなぁ」


「じゃあ契約魔法を申し込みに行きましょうか」


 サシャがもう待ちきれないと、俺の腕をとって店の外へと引っ張る。

 やれやれ、そんなに俺の秘密が知りたいのかよ。


「わ、私ももっとショウジさんのお役に立ちたいです!」


 メーネ、お前もか。

 いや、メーネの場合は自分だけ仲間外れになるのが嫌っぽいな。


「契約魔法ってどういう事だ? お前の下で働く為には契約が必要なのか?」


 荷造りの最中だったモードが何事かと店の奥から出て来る。


「ああいや、二人は護衛だから俺の傍にいる事が多いんだ。で、そうなると商売上の機密を見る可能性が高いからさ、万が一にも情報が外に漏れないように契約魔法を掛けて貰う事になったんだよ」


「……そりゃあ、俺が頼んだ鉄にも関わる事か?」


 さて、どう答えたもんかな。

 下手な回答はモードに変な疑惑を招きかねない。


「やはりそうか」


 まだ答えてねぇよ。


「よし、そんなら俺にも契約魔法を掛けてくれ」


「どうしてそうなる」


 いやマジで何考えたらそんな結論になるんだよ。


「お前は高品質な鉄やミスリルを短期間で大量に仕入れる事が出来るからな。そっちの事情が分かればこっちもそれに合わせて必要な鉱石や素材の発注を頼みやすくなる。だから俺も契約した方が話が早いだろう」


 なんだその決断の速さは、さすがに危機感が無さすぎないか?

 俺の疑わしげな視線に気づいたのか、モードが改めてこちらに向き直る。


「以前お前は俺の無茶な頼みに完璧に応えてくれた。あれで俺はお前が一流の商人だと信用したんだ。一流と呼ばれる男が頭角を現す為に必要な、自分だけの武器を持っていると認めたんだよ」


 一流の商人……か。

 正直言って俺の商才はスキル頼りなんだけどな。

 まぁけど、そこまで考えているのなら別に断る理由も無いか。


「分かった。そこまで言うのなら、モードの契約も受け入れよう」


「おう、そんじゃよろしく頼むぜ店長さんよ」


「それじゃあ契約をしてもらいに……」


「行きましょうー!」


「おう!」


 君らノリノリだねぇ。


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